一次産業をブランディングで活性化する

全国には、まだまだ知られていない名品・逸品がたくさんあります。インターネットというメディアの台頭によって、地方の小規模な生産者や食品会社でも広く商品を告知できる時代になりました。ただ商品の存在を伝えることはできますが、それだけではお客様の心を購買へと動かすことはできません。そこには「ブランディング」という思想とその実践が大変重要になります。

今回から3回シリーズで「一次産業をブランディングで活性化する」というテーマの特集をお届けします。TCDがお手伝いした実際の事例を交えて、分かりやすく紹介していきたいと思います。


「こだわり」を伝え続けるブランディング 高尾牧場「神戸ポーク」

流通からの要請でブランド化に取り組む

神戸市内の多くのホテルやレストランで食材として活用されているのが、神戸市西区にある高尾牧場の「神戸ポーク」です。神戸と言えば「神戸牛」が一番に思い浮かびますが、「神戸は牛肉だけじゃない。美味しい豚肉もある」という意外なストーリーには、それだけで興味を惹かれます。
ブランド化に取り組んだのは10数年前からですが、当時の高尾牧場は品質に徹底的にこだわり、普通の豚肉よりも高価格で取引されていたため、特段ブランド豚にシフトしていこうという思いがあったわけではなかったそうです。高尾牧場の高尾代表によると、「実は主体的に始めたわけではなく、ある人の強い薦めがあって取り組むことになった」とのこと。地元の有力な流通業者の方から、「ただの豚じゃなく名前をつけなさい。名前は神戸ポークしかない。そうすれば私たちが売ってあげる」とのアドバイスが。高尾代表は言われるがままに神戸ポークブランドの開発に取り組み、20社近い流通業者の方々が競って神戸ポークを拡販してくれたことで、一気に知名度と評判が高まっていきました。「本当に幸運でした。神戸ポークを広めていくのに、私たちが苦労したことはそんなにありません」と高尾代表は笑顔で語ってくださいました。

神戸ポーク」と「神戸ポークプレミアム」の2つのブランドを展開

高尾牧場には「神戸ポーク」と「神戸ポークプレミアム」の2つのブランドがあります。
「神戸ポーク」の一番の特長は豚特有のくさみがないこと。クセのないあっさりした風味はどんな料理にも合い、多くの人に好まれる味わいになっています。「神戸ポークプレミアム」はエサにパンを40%配合。脂身の甘さが特徴で、豚肉本来のジューシーな味わいを楽しむことができます。
ブランドデザインについては、「よくある業界標準的なラベルにはしたくなかった。これまでにないユニークなデザインで、神戸らしい洗練されたイメージを打ち出したかった」(高尾代表)。TCDがブランド・ロゴやプロモーションツールをお手伝いした両ブランドは、市場で高い評価を受けており、多くのホテル、レストラン、小売店で採用されてきています。


高尾牧場のこだわりとは?

非常に神経質でストレスを受けやすい豚。美味しい豚肉をつくるためにはこのストレスを和らげてやる必要があるそうです。一頭当たりの飼育スペースを広くとり、開放的で風通しのよい清潔な環境で、充実の設備で快適な温湿度を保持されています。実際に牧場内に入ると、豚舎内がきれいで清潔なのに驚かされます。「私たちは豚が喜ぶことだけを考え続けています」(高尾代表)。とりわけ徹底的にこだわられているのが「モノやオペレーションを絶対に変えない」こと。何があっても豚の品種やエサを変えることはありませんし、市場への安定供給のための定時定量出荷も遵守されています。こうした誠実な姿勢が神戸ポークのブランドの信頼に結びついています。

ブランディングを成功に導く秘訣

ブランドには、市場で戦えるだけの機能や品質といった「実体」が必要です。「実体」のないブランドが長続きすることはまずありません。そして他と比べて優れている点やユニークな点を繰り返し伝え続けることがブランディングです。
「味や品質には自信がある。しかし流通に持ち込み提案を行ってもうまくいかない」という声をよく聞きます。ブランディングを成功させるためには、こうしたブランドコアを伝え続けること。途中でメッセージを変えないこと。そして、言葉だけではなかなか伝わりにくいので、ブランド価値を感覚的・情緒的に伝えるブランドデザインの役割が重要になります。
神戸ポークの成功は、まさにこの両面を満たしていたからだと思います。


[筆者プロフィール]生山久展 株式会社TCD 副社長 クリエイティブディレクター
戦略開発、調査・分析、商品開発、販促展開まで幅広いブランディング業務に従事。
30年余の実務経験をベースに、的確な現状分析から本質的な課題解決のプランニングを得意とする。