一次産業をブランディングで活性化する
多様化する食ビジネスで「売れるブランド」をどう作るか?

これまで2回にわたって、一次産業や食ビジネスでのブランディング成功ケースを紹介してきました。シリーズ最終回となる今回は、生産者や経営者の皆さんが、具体的にどういう手順で戦略やブランディングを設計していけばよいのかについてお話したいと思います。


第1回 「こだわり」を伝え続けるブランディング 高尾牧場「神戸ポーク」
第2回 自社ブランドの立ち上げで社内が変わる、食品卸会社の挑戦
第3回 多様化する食ビジネスで「売れるブランド」をどう作るか?


まずは「成長イメージ」をしっかり固めること

まず、最初に着手しなければならないのが、自社がいつまでに、どういう方法で、どのくらいの成長を目指していくのかのイメージ固めです。こうした自社の「ありたい姿」を考える上で助けとなるのが、表1に示した「11の戦略的打ち手」です。これは経営学の権威である一橋大学名誉教授の伊丹敬之氏が、数百社を超える企業戦略の研究から、成熟期での企業成長のための戦略を11に類型化されたものです。この類型は一般的な企業の戦略分析から導かれたものですが、一次産業や食ビジネスの会社にもピタリと符合するものになっています。11の打ち手に沿って、自社ならどういうことができるかを一つひとつ検討していきます。実はこの類型自体は少し古いものですが、現在でも十分通用する内容で、私自身はいつもこのフレームを使って戦略を着想しています。

表1

この11の打ち手の中で、現在の一次産業や食ビジネスにおいて特に重要だと思うものが3つあります。

1つ目は「(1)既存事業の規模拡大」。安定供給力や交渉力を高めるためには、やはり一定以上の事業規模が必要です。さらに資本力のある会社であれば、規模を一層追求し、スケールメリットを生かしてコストリーダーシップ(コスト優位)の状況を作りだすことも可能になります。

2つ目は「(2)既存事業における高付加価値化」。価格競争の激しい標準品での戦いを避け、高付加価値ゾーンにシフトを図る戦略です。食に関しては「高くてもよいもの」を求める層が増加しており、一次産業や食ビジネスにおける最も常套的な戦略と言えます。高付加価値化を図る方向性としては(1)手間軸(どこに手間をかけるか) (2)時間軸(時間をどれだけかけるか) (3)原料軸(品種や飼料にどれだけこだわるか)などが代表的なものとしてあげられます。簡単に言えば、どこにどれだけこだわるかを決める、ということになります。以前に紹介した神戸高尾牧場の「神戸ポーク」も、山晃食品の「氷温熟成神戸牛」や家庭でプロの味が楽しめる「5MINUTES MEATS(ファイブミニッツミーツ)」も、高付加価値化の成功ケースです。自社の独自性や価値をアピールできるようになり、収益性の改善に結びつきます。

そして3つ目は「(5)市場を求めた国際展開」です。国と国の取り決めの中で制約を受けるカテゴリーもありますが、日本の農業製品、水産製品への評価は高く、東南アジアを中心にグローバルに事業展開を行うところが出てきています。COOL JAPANは寿司やラーメンだけにとどまらず、一次産業においても取り組むべき価値のあるものになってきています。グローバル展開が成功するためには、いかに現地で優れた協力会社を見つけることができるかにかかっていますね。神戸高尾牧場の「神戸ポーク」も香港での展開にトライされており、今後の成長が期待される領域になっています。



神戸高尾牧場の香港版のデザイン

成功するブランディングには「一貫性」がある!

成長イメージが固められたら、次にブランディングのアウトラインを固めます。どういう方法での成長を図るにしても、最も大事なのは自社の「強み・良さ・特徴」のどこにフォーカスするかということです。競合と比べて優れている点、ユニークな点は何か?これをまとめたものがブランドコンセプトになります。そしてブランドコンセプトを感覚的に伝えるブランドデザインに落とし込み、情報を発信し続ける(コミュニケーション)。このコンセプト→デザイン→コミュニケーションのサイクルを「一貫性」のある形で保持し続けること。これがブランディングを成功に導く最大のポイントです。単にモダンなパッケージデザインに変更するだけでは、大きな成果は得ることは難しいでしょう。

商品に情報、ソフト、サービスを掛け合わせる

最後にもう一つ、最近の気になるマーケティングの潮流について触れておきます。
従来、日本のマーケティングにおいて最も標準的な戦略が「4Pマーケティング」でした。4Pとは、Product(商品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販促)の4つの頭文字を合わせたもので、商品差別化を起点として、この商品にフィットする価格、流通、販促を考えていくというものです。しかし、現在では差別化が一巡し、どこの商品でも基本的な品質や機能に大きな差がなくなってきています。圧倒的な品質の違いやこれまでにない全く新しい機能を持つ商品以外は、需要を喚起することが難しい状況に追い込まれています。

こうした環境下での打開策として、JMR総合研究所は「4M型ビジネスモデル」を提唱されています。このMは基本的にMulti=多面を表していて「掛け合わせ」を意味しています。シャープはオーブンレンジ「ヘルシオ」の拡販にあたって、ぐるなびとタイヘイと組み、より手軽に本格的な料理を楽しめる食材キットを宅配するサービスを始めています。ネスレは、自社のコーヒーを販売するために、コーヒーマシンを無料提供して、カートリッジを有料にしています。このように、単に商品を売るだけの時代は終わり、情報、ソフト、サービスと「掛け合わせ」で提供していかなければ、新しい需要を創造することは難しくなってきています。ブランディングを構想される際には、こうした観点から発想を広げて考えてみることをお薦めします。


[筆者プロフィール]生山久展 株式会社TCD 副社長 クリエイティブディレクター
戦略開発、調査・分析、商品開発、販促展開まで幅広いブランディング業務に従事。
30年余の実務経験をベースに、的確な現状分析から本質的な課題解決のプランニングを得意とする。