2019.11.22

ブランド・マネージャーの仕事①
やっぱり狙いたい、ブルーオーシャン

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

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◼️イチから始める「ブランディング」


当コラムでは、大手企業に限らず「ブランド」の重要度が増す中、BtoB企業や中小企業、地方メーカー、スタートアップ、業種・規模を問わず、これからブランディングを始められる方々に向けて、実際のブランディングの流れに沿って話を進めていきます。

今回は第六回目になります。何かしら取り掛かりのきっかけ、思索のヒントにしていただければ幸いです。

第0回、キックオフ篇も合わせて参照いただければ幸いです


◼️まずは、自社の強み(ブランド価値)の棚卸しから

「さぁ、ブランディングを始めよう!」といった際、まず取り掛かるのが自社ブランドが持っている価値の整理です。ブランディングを行う際、様々なフレームワークがありますが、以下のブランド価値ピラミッドがベーシックな構造でメンバーとも共有しやすいので、取り掛かりやすいと思います。

上に行くほど抽象度の高い概念になり、下に行くほど事実に即した具体的な内容になります。各々の内容は、以下のように構成されます。


 ●社会的価値:生活者が社会的に表現できる、自己達成便益
 ●情緒的価値:生活者がブランドに感じる、感覚的なベネフィット
 ●機能的価値:生活者がブランドから得られる、機能的なメリット
 ●属性:事業や商品のカテゴリー、セグメント


通常、一番下の「属性」から順に、上へと積み上げていきますが、実は一番下の「属性」の設定は非常に重要です。ブランド戦略上この「属性」を言い変えると、自社ブランドをどの「セグメント」に「ポジショニング」するか、伝統的なマーケティングのベースでもあるSTPに相当します(*1)。


 ●Segmentation:セグメンテーション
 ●Targeting:ターゲティング
 ●Positioning:ポジショニング


◼️やっぱり狙いたい、ブルーオーシャン

今回は私が大学で学んだ地、金沢の「とある老舗和菓子屋さん」を想定して、「属性」を埋めてみたいと思います。手始めに「金沢の老舗和菓子メーカー」と設定してみましょう。

競合がひしめき合い血みどろの戦いが繰り広げられている市場を「レッドオーシャン」、逆に新たな市場を開拓し、まだ競合のないオアシスのような市場を「ブルーオーシャン」と比喩されますが、この「金沢の老舗和菓子メーカー」というポジショニングはどうでしょう?


広く菓子市場を捉えると、洋菓子、和菓子、生菓子、デイリーユース、贈答用、様々なカテゴリーに分けることができますが、和菓子で生菓子、そこに老舗ブランドという事実を掛け合わせることで、贈答用や地域特産品としてのポジションを狙うことはできます。しかし、そこにも様々な競合があり、もう一段、二段、独自性のある「属性」を探る必要があるでしょう。


◼️ブランド価値にエッジを立てる

そこでもう少し、自社ブランドの価値を掘り起こしてみたいと思います。特にスポットを当てたいのが自社にしかない強みです。ここでは「金沢」と「老舗」になるかと思います。立地というのは、実は非常にパワフルな差別化要素になります。紛れもない事実ですし、他府県には絶対真似のできない要素でもあります。


金沢は古くから伝統文化が根づいてきた街で、小京都とも呼ばれます。また温泉や海鮮食材などの観光資源にも恵まれ、海外からの観光客にも人気のエリアです。また、歴史的に工芸が発展してきたこともあり、金沢漆器や加賀友禅などの伝統技術も全国で高く評価されています(*2)。


そうした歴史や土地柄を生かして、和菓子を伝統工芸と位置付けてみるのはどうでしょう?「観賞するための和菓子」と定義すると、よりエッジが立つかもしれません。しかし、ここでも全国の和菓子メーカーさんから「それはとうに試した。レッドオーシャンだ」といった声が聞こえてきそうです。



◼️売り方を変えてみる、売り先を変えてみる

さて、商品性での差別化がいよいよ難しい時には、ちょっと視点を変えてみてもいいかもしれません。


例えば、最近流行りのサブスクリプションで「観賞するための和菓子」を毎月お届けすると、それはどういったサービスになるでしょう?もしかすると、月に一回ちょっと高級な茶葉と一緒に愉しむ、贅沢な時間を提供するサービスになるかもしれません。また「観賞」と絡めて、金沢漆器とコラボレーションするとどうでしょう?これまでと違った市場で認知が広がる可能性が生まれます。


少し売り先を変えてみる方法もあります。市の文化ホールで開催されているスクールで活用してもらう。個人レベルで開かれてスクール、例えば料理教室の試食後のおやつとして定期便として届けるといった販路が見つかるかもしれません。


ここではジャストアイデアのレベルで展開していますが、通常は市場調査や顧客調査を通して、様々な可能性を探っていきます。そうして可能性を広げていくと「和菓子」という閉じた市場から、別の市場へと広がっていきます。


◼️一度、今いる「レイヤー」から離れてみる

どのような事業でも新機軸やブルーオーシャン、イノベーションが潜んでいるわけではなく、それを見つける苦労やアイデアを実現するために新しい技術が必要になる場合も多々あると思います。しかし、今いる「レイヤー」から一旦離れ、どんな可能性があるのか、そうした視点を持つことで、これまでになかったサービスの開発や、競合がまだ手を付けていない新天地が見えてくるかもしれません。



今回は、ピラミッドの底辺の「属性」部分を埋めるのみになりましたが、ブランド戦略を考えるスタート地点として自社の強みを見直すこと、STP分析を行うことは非常に重要ですので、ブランディングの取り掛かりのヒントにしていただければ幸いです。

(*1)コトバンク STP戦略
(*2)石川県立伝統産業工芸館 伝統工芸36業種

[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

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