ブランディング・メソッド・コラム 
ブランドの存在を広める!デジタルプロモーション(第三回)


 1.「デジタル・プロモーション」の現在形 〜インターネット広告の種類とトレンド
 2.「伝達力 × 表現力」で高める 〜デジタル・プロモーションの効果
 3.「伝える」から「伝わる」へ 〜顧客体験を設計するブランド・シナリオ




ブランドの能力を引き出すー今30%程度しか引き出せていなければ、残り70%のポテンシャルをどのようにして発揮するか。

今回のブランディング・メソッド・コラムは「ブランドを多くの人に知ってもらうための仕組みづくり」として、デジタル時代のブランドの伝え方を考えていきたいと思います。



前回は、ユーザーの感性に訴えるブランドの「知覚品質」について考えていきました。
全三回、最後のテーマは「伝える」から「伝わる」へ、ブランドの伝わり方を探っていきたいと思います。

■ どのようにブランド体験は伝わるか

1.顧客視点・顧客体験

プロモーションにおいて、また自社メディアを通してどのようなブランド表現が望ましいでしょうか?顧客がまだそのブランドに触れていない、体験していない段階で、どのようにブランドをプレ体験してもらうか。プロモーションの難しさは、そのブランドを入手することで「得られるであろう価値」を、事前に伝えることではないでしょうか?

先日発表されたiPhone Xのサイトでは、そうした経験価値を中心に展開されています。Appleにとってはプロダクトデザイン自体がブランディングの重要な要素ですが、そこから生み出される価値、すなわち顧客体験こそがブランド価値そのものでもあります。こちらのサイトでは、その顧客体験が1ページに収められ、上から下へとスクロールしながら「プレ体験」することができます。


参考:https://www.apple.com/iphone-x/



2.ユーザーを中心にしたストーリーボード

ストーリーボードとは一般的に「絵コンテ」と呼ばれ、アニメーションや映画、プロモーション界ではCMなどの企画時に作成しますが、上記のようなウェブページの作成にも活用できます。しかしその際は、絵コンテのようにストーリーの粗筋を描くのではなく、顧客が製品を実際に使うストーリーであったり、ユーザーがブランドを体験するストーリーのような仮想シナリオで構成されます。

例えば上記のiPhone Xのサイトであれば、どのような「ユーザーストーリー」が下敷きになっているでしょう?単に機能をオンパレードしているのではなく、下のような「ユーザーストーリー」が基になっていると考えると、1ページに収められた内容もちょっと違った見え方がするかもしれません。



3.実体験以上の顧客体験

既に上記のページから「Watch the film」をご覧になったかもしれません。
こちらには、上記で説明した以上のストーリーが3分間の映像にまとめられています。発売前ということもありますが、存分にiPhone X体験が提供されています。そのベースになっているのはやはりユーザーの生活、利用シーンで、セルフィー(自撮り)やスナップチャット(SNS)などの現状の利用シーンをベースにしつつ、そこからさらに発展させた世界が映像ならではの表現で展開されています。



ちなみに、様々な場所で取り沙汰されていますのでご存じの方も多いと思いますが、映像制作会社ピクサーの社内にはブレイン・トラストという組織があり、進行中の作品を監督経験者やプロデューサーなど社内でストーリーに関わるクリエイターが一堂に会して制作中の作品をレビュー、意見を出し合いシナリオの精度を高め行くプロセスを取っています。
監督やプロデューサーが物語を仕上げるのではなく、ブレインストーミング、プロトタイピング的に様々な意見を通して組織的にストーリーを仕上げていく手法は、非常にビジネスライクです。

システム開発やアプリケーション開発の世界では、以前より「ユースケース」としてユーザーの操作を検証するプロセスがとられていますが、最近では広く「カスタマー・ジャーニー」という手法でも、ユーザーとサービスなどのプロセスも検証されるようになりました。

ブランディングにおいても、社内でブランドに関わるスタッフが一同に会し、ユーザーからみたブランドストーリーを検証してみると、より「伝わる」表現が見つけられるかもしれません。

参考:「なぜピクサーの会議には想像力があるのか」PRESIDENT Online


■ ブランドに込められたコアメッセージ

最後に、「伝わる」ために重要な要素として、ユーザーと共有するための「テーマ」設定があります。ブランドのコアな部分とユーザーの関心度の高い部分の間で、どのような表現がなされているか。3つの事例を見てみたいと思います。


1.ルイ・ヴィトンは、やはり「旅」

この夏、ルイ・ヴィトン初のスマートウォッチを発表しました。ルイ・ヴィトンがスマートウォッチ?と、一瞬戸惑いましたが、さすがヴィトン、「創業当初からメゾンが掲げるフィロソフィー“アート・オブ・トラベル”をコンセプトに反映したタンブール ホライゾンは、ネットで繋がった世界を旅するトラベラーのための画期的なタイムピース。」と、ブランドの文脈にしっかり根ざした発表でした。しかも、現代的なユーザーのライフスタイルにアップデートされた商品開発。ウェブサイトではユーザーの旅する時間が様々なセレブリティを通して語られています。同じデジタルツールでも当然のことながらAppleとルイ・ヴィトンでは随分切り口が違い、非常に参考になる事例だと思います。


参考:http://jp.louisvuitton.com/jpn-jp/stories/tambour-horizon



2.「ニュース」を生み出し続けるH&M

ファストファッション大手「TOPSHOP」「OLD NAVY(GAPが展開する低価格業態)」が日本市場からの撤退を決めました。そんな中でも勢いを維持し続けるブランドH&M。実はH&Mの歴史は1946年のスウェーデンにまで逆上ります。ですのでH&Mにとって「ファストファッション」という今的な表現は相応しくないかもしれません。ウェブサイトのHeader、Footerには、各国で以下のメッセージが表示されています。

  • ファッションとクオリティを最良の価格でサステイナブルに | H&M JP
  • H&M offers fashion and quality at the best price | H&M US
  • H&M erbjuder mode och kvalitet till bästa pris | H&M SE


  • H&Mのビジネスコンセプトは、ファッションとクオリティを最良の価格でサステイナブルに提供することです。1947年の設立以来H&Mは、世界をリードするファッション企業の一つに成長して来ました。
  • H&M’s business concept is to offer fashion and quality at the best price in a sustainable way. H&M has since it was founded in 1947 grown into one of the world’s leading fashion companies.
  • H&M:s affärskoncept går ut på att erbjuda mode och kvalitet till bästa pris på ett hållbart sätt. Sedan H&M grundades 1947 har det vuxit och blivit ett världens ledande modeföretag.

H&Mのブランドコミュニケーションはファッションブランドとしては、いたってオーソドックスです。洗練されたフォトグラフで様々なファッションスタイルを提案。特に注力するメディアはビルボード。街頭では、常に新鮮なファッションアイコンで展開されています。

雑誌が売れないといわれて久しいですが、H&Mサイトの「MAGAZINE」コンテンツはHarper’s BAZAARさながらの世界観で日々情報発信を行っており、雑誌というフォーマットが自社メディアで展開されているのも時代の移り変わりを感じます。
またH&Mはコラボレーションで常に業界を賑わせています(上の映像は2017年11月より展開されるコラボレーション、ERDEM x H&M)。ニュースを生み出し続けること、それがファッションらしく、H&Mらしいストーリーではないでしょうか。



3.ポカリスエット的「スクールライフ」

顧客がそのブランドに関わる、ブランドを手にすることで達成される「自分」をストーリーの主人公にすることもできます。
なにかしらの機能を果たす「商品」ではなく、顧客が「自己実現」していくストーリーの中で、ブランドがどう関わるのか、そうした世界を描き続けているのがポカリスエットです。特に最近、CM好感度も高まっています。

この春も話題となったポカリスエットの『踊る始業式』。キャッチフレーズは「潜在能力を引き出せ。自分は、きっと想像以上だ。」
ストーリーというより、映像、ダンスのクオリティの高さが際立っていますが、その背景には学生の3年間というストーリー、挑戦や成功、喜びや悲しみ、そうした辛いこと楽しいことをひっくるめたスクールライフ全体を応援したい、というブランドメッセージが伝わってきます。ダンスの難易度、メイキング映像などとあいまって、ネット上でも話題が拡散しました。

いずれもハイタッチな表現でブランドとユーザーとの関係を物語っています。ブランドの世界観を維持しつつ、そこにユーザーがどのように登場するのか。ユーザーのシナリオとブランドのシナリオとが重なった時、そのストーリーは「伝わる」表現に生まれ変わります。必ずしもユーザーが登場する必要はありません。ぜひ一度、顧客を主人公にストーリーを練ってみてはいかがでしょうか。



筆者プロフィール
川内 祥克 株式会社TCD マネージングディレクター
企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。