シリーズ企画:マーケティングの新潮流① 「マーケティングは3人に聞きなさい」

focus201406

*今回から3回に亘って、「マーケティングの新潮流」というシリーズ企画をお届けします。
ビジネス環境の激変などにより、これまで通りのマーケティングが有効に機能しない場面に直面することが増えてきました。
今マーケティングの世界でどういうことが議論され、これからどこへ向かおうとしているのかを紹介します。


これは昨年出版されたマーケティング本のタイトルです。結構売場で平積みされていたので、ご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。サブタイトルが「ビッグデータの前にN3」とあります。N3のNは調査用語でサンプル数、つまり調査する数のこと。
N3とは3人に調査をするということであり、3人に聞けば答えを導くことができるというものです。

「なんだ、たった3人に聞いて何が分かるのか」という反論が聞こえてきそうです。私自身も長くマーケティングや調査の世界に身を置いている人間ですので、3人の意見で大丈夫なのかどうしても心配になってしまいます。ましてはビッグデータに注目が集まっている現在において、ずいぶん大胆な主張に映ります。

筆者の小川政信氏は、マッキンゼーでのコンサルタントを経て、現在は人財コンサルティングに従事されておられます。小川氏によると、世の中のビジネスの50%は初歩的なエラーに気付けていないそうです。それを早期に発見して、軌道修正させてくれるのがこのN3アプローチ。膨大な時間とコストをかけてデータ集積・分析を行うのではなく、限られた時間の中で素早く的確に意思決定を行うほうがずっと実戦的だと主張されています。

どれだけ綿密な市場調査やデータ分析を行ったとしても、確実なヒットを生み出すことは難しくなってきています。私自身も数年前ある食品メーカーのパッケージデザインの調査を行った時に、これまでに見たことがない次元の購入意向率が出てきたことがあります。参考までに購入意向率は「とても買いたい」のスコアをTB値(トップボックス値)、「とても買いたい」と「まあ買いたい」を足したスコアをTP値(トータルポジティブ値)と呼び、TB値は30%超、TP値は70%超が一般的なヒットの目安になっています。その時の調査ではTB値44%、TP値97%というスコアが出ました。購入意向率を調査したことのある人なら、このスコアがあり得ないくらい高いことはお分かりいただけますよね。「これは爆発的に売れる」と確信したのですが、実際には可もなく不可もなくといった次元で大ヒットには結びつきませんでした。

変化のスピードがどんどん速くなる一方で、ほとんどの市場が成熟期を迎えています。企業間の技術的水準が同質化し、消費者から見るとどこの製品もほとんど差がないと思われてしまいます。こうした状況下では、とにかく他社に先駆けて市場に出して手応えを確認する。そして必要な軌道修正を加えて一気に攻勢に出る。こうした市場実験的なアプローチにN3マーケティングはフィットします。小川氏は3人に聞けばそれが本当に正しいかどうかは分からないが、市場を立体的に掴むことができると言われています。確かに1人の意見ではただの思い込みですし、2人でもまだ心もとない。これが3人になるだけでおぼろげながら全体像が見えてくるということなんでしょうね。少ないサンプルで仮説を導くN3マーケティングは、ビジネスのあらゆる場面で必要になる市場洞察力や仮説思考力を鍛える絶好の手法といえるかも知れません。

最近、ある調査会社の方から教えていただいたのですが、マーケティングの進んだ会社では、
定性調査のトレンドはグループインタビューからデプスインタビューにシフトしてきているそうです。グループインタビューは5~6名の対象者を集めて座談会形式で話を聞いていく手法。一方、デプスインタビューは対象者とインタビュアーによる1対1の面談で行われます。どうしても広く浅くしか意見を拾うことができないグループインタビューに対して、デプスインタビューは1人の対象者をより深く理解することができます。消費行動のメカニズムを解明したり、何が購買へと動かすキーポイントなのかというような重大なインサイトが引き出しやすくなります。今流行りのブランドストーリーを組み立てる時にも、深く掘り下げた情報が不可欠です。これからのマーケティング調査は、「少ないサンプルでより深く」で、「何度も行う」ことがポイントと言えそうです。

*次回のテーマはパーソナル・マーケティングです。


[筆者プロフィール]生山久展 株式会社TCD 取締役 クリエイティブディレクター
戦略開発、調査・分析、商品開発、販促展開まで幅広いブランディング業務に従事。
30年余の実務経験をベースに、的確な現状分析から本質的な課題解決のプランニングを得意とする。