ネーミングと商標 001:コードネーム

今回から全3回に亘って「ネーミングと商標」のテーマでコラムを書いていきたいと思います。今回は第一回、「コードネーム」を取り上げました。

少し前の話になりますがこの2月に、Microsoft社が提供しているクラウドストレージサービスの名称が「SkyDrive」から「OneDrive」に変更されました。

なんでわざわざ「Sky」を「One」に変えたの?あんまり変わらないじゃない。

と疑問に思う方もおられるかもしれません。
その背景には、イギリスの「B Sky B」が保有する商標権への侵害問題が関わっており、一時ニュースになりました。

この辺りの経緯やブランド名の遷移は、パソコンに興味のない方々にはわかりづらいかと思いますので、Microsoft社の「SkyDrive」に関するサービスについて以下に時系列でまとめました。

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Microsoft社の「SkyDrive」という名称。これはもともと開発コードネームでした。

開発コードネームとは、商品やサービスの開発段階での名前を地名や人名・或いはアルファベットなどの別称で示したもの。万が一社外の第三者に会話を聞かれてもわかりづらくするために、こうした別称が用いられます。

そしてこの開発コードネーム「SkyDrive」がテストリリースされた07年6月。その時は「Windows Live Folders」という名称でした。
その後、8月の正式リリースの際に上位ブランドの「Windows Live」と開発コードネームが組み合わされた「Windows Live SkyDrive」というブランド名として登場したのです。

Windows7の頃からMicrosoft社が「SkyDrive」を前面に押し出したブランド訴求に切り替えてきていることが見て取れますが、この辺りがB sky B社の訴訟で問題になったようです。
当時のMicrosoft社の戦略の背景には、08年以降DropboxやSugarsyncなど、他社のパーソナルクラウドストレージサービスが急速に拡大したことがあります。
競合との競争激化の中、「Windows Live SkyDrive」というユーザーに負荷を与えるような長い名称を改め、呼びやすく、想起させやすい「SkyDrive」というコンパクトな愛称部分のみを残したかったのでしょう。

結果的に2013年8月にB sky B社とは和解し、商標変更する方向へ舵を切り直し、「OneDrive」に落ち着きました。「OneDrive」のスローガンは「One place for everything in your life」です。「ユーザー体験をひとつにまとめる」ということがこのサービスのコンセプトでしょうか。個人的には「SkyDrive」という名称よりもシングルサインオンを目指した「Microsoft Passport Network」の頃を思い出し、どこか懐かしくて好きです。

補足しておきますと、この「OneDrive」という名称は権利上問題なさそうです。
以前IPDL(特許電子図書館)で検索した際はLG社が申請していましたが、その後出願人がMicrosoftに変更されて登録されたところを見ると、交渉を経て今後権利的な問題が発生しないよう策を講じたのでしょう。

ところで、開発コードネームに対して商標権は発生するのでしょうか?
もちろん登録すれば発生するのでしょうが、開発コードネームは、基本的に社内の関係者しか理解できない「社内用語」のようなものですから、登録することは稀でしょう。ただ社内用語だったとしても、IT業界のように開発コードネームを公開して広くコミュニケーションを取ることがある業界の方は、他社の商標権侵害に気をつけたほうが良いと思います。

そういう意味では、Microsoft社が以前、開発中のWindows8で採用する予定のユーザーインターフェースのことを「Metro UI」と呼んで積極的にアピールしていた時期がありました。

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画像出典:wikipediaより

「お洒落、わかりやすい、モダン」なデザインが売りのようでしたが、2012年8月のWindows8リリース以降、そういった名称を聞くことはぱったり無くなりました。
その理由は、パートナー企業であるドイツの小売大手Metro AG社の商標の存在だと言われていますので、これも他社の商標に配慮して幕を引いた開発コードネームと言えます。

開発時にはあれだけ目にした「Metro UI」というキーワード。これからのデザイントレンドの名称になるのか?と当時ワクワクした記憶がありますが、結局今では無難な「Modern UI」という名前に。デザイン業界の中でもこういったデザインを「フラットデザイン」と呼んでいるようです。
Microsoft社自身のロゴもこの「Modern UI」のトーンにリニューアルされましたし、Windows8.1、Office365などのデザインのベースになっていることは確かなので、もうちょっと個性のある名称を使用し続けてほしかったな、と少しさびしく思っているのは私だけでしょうか。

さて、これまで見てきたように、コードネームも製品名として採用されることもあれば、本来の役目の通り日陰のままで消えていくこともあります。次回はこのコードネームを使って少し変わったブランド訴求をしている企業を取り上げて、ブランディングの観点からネーミングと商標を考えていきたいと思います。


[筆者プロフィール]西川将史 株式会社 TCD チーフプランナー
心理学 × マーケティング × 写真 × デジタルガジェット × サッカー × 子煩悩 ×のコラボでブランドプランニングをオモシロク。甘党。