2019.10.18

ブランド・マネージャーの仕事(全10回)
「いいモノ」から「いいコト」へ。時代はシフトしている

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター


◼️イチから始める「ブランディング」

大手企業ブランドや、全国展開されている商品ブランドであれば、既に様々なカタチでブランディングに取り組まれていることと思います。


最近では大手企業に限らず、中小企業や地方企業、老舗メーカー、BtoB企業、新規事業の立ち上げなど、規模や業種を問わずブランディングの必要が広がり、様々な方から「これまで取り組んでこなかったが、自社のブランドが重要になってきた」「ブランディングに取り組むことになったけれど、何から始めれば良いのかわからない」といった相談をお寄せいただきます。


そこでこちらでは、例えば私がそのブランディングを行う企業側の立場なら「何から手をつけるだろう?」「どういった準備が必要だろう?」と、ブランドマネージャーに任命された気分で、このコラムを進めて行きたいと思います


全10回を予定していますが、今回はキックオフの回として、そもそもブランディングがなぜ必要なのか、ブランディングの課題は何なのかを考えてみたいと思います。



◼️販売戦略だけでは「乗り越えられない壁」

日本には、ユニークな商品を展開している会社やモノづくりにこだわる会社、特殊な技術を持った会社など、優れた会社がたくさんあります。しかし、技術進歩、グローバル化が進み、新しい技術もすぐに標準化されてしまい、生活者にとっては、どのメーカーの商品も違いがなくなってきています。


そこで拠り所ともなるブランドですが、日本のメーカーの場合そのブランド価値が見劣りしてしまうことも少なくありません。日本を代表するTOYOTAでさえ、その例外ではないようです。

レクサスにもブランド戦略はなかった
Business Journal:トヨタ、資生堂…なせ日本企業は消費ニーズに“疎い”のか?ブランド戦略が“ない”理由
https://biz-journal.jp/2014/12/post_7529_3.html


少し前の記事にはなりますが、記事の中では「日本の自動車メーカーには販売チャネル戦略はあってもブランド戦略などなかった、そもそもブランドの役割など眼中になかった」と指摘されています。


確かにひと頃は「いいモノを作れば売れる」そうした時代がありました。特に20世紀後半、キャッチアップに長けた日本企業は、そのモノづくり力をフル活用し世界を圧倒しました。しかしバブルが崩壊し、そうしたビジネスモデルも経済の衰退と共に色あせていきました。



◼️ブランドにとっての「ビッグピクチャー」

昨今では、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)のような、新しい価値の創造に挑む企業が世界をリードしています。それらの商品やサービスは、日本でもすっかり定着しました。


先述の自動車業界で言うと、何かと話題の尽きないテスラですが、2019年の第3四半期の販売台数は10万台近くで、四半期としては過去最高の販売台数を更新したそうです。ちなみに2018年の販売台数は約25万台で前年から約2.5倍。着実にその販売規模を拡大しています。(*1)


販売の絶対数としてはまだまだ大手メーカーに及ばず、決して株主を喜ばせる数字でもないようですが、自動車のように技術要求が複雑で参入障壁の高い市場においては、快進撃が続いていると言えるでしょう。


ブランド観点では、着実にファンを増やしていっているとも言えます。


その根底には、テスラはただ電気で動くスポーツカーを開発しているわけではなく、「資源を掘って燃やす炭化水素経済から、太陽電池経済への移行を推進」し、世界にとって矛盾のない持続的な解決を目指している企業である、という背景があります。



◼️「いいモノ」から「いいコト」へ。時代はシフトしている

グローバル化が進み、社会課題もまた世界の共通言語となりました。増え続ける人口。エコシステム、エネルギーや資源、食糧の問題。広がる格差、ダイバーシティや先進国における高齢化などの課題。または核、遺伝子、AI、ロボティクスなど技術進歩に伴うリスク。


挙げ出すときりがありませんが、グローバル企業でなくても、こうした社会課題が日本国内でも一般的に意識されていることは前提としておいた方がいいでしょう。


先に挙げたGAFAも、それぞれに社会的な大義を掲げています。ブランドとは何か?より高度化した社会では、商品やサービスの提供の先にある、顧客と共有する価値観のようなものが重要になっていくかもしれません。


そうした意味で、成熟した市場における時代の要請は、20世紀型の「いいモノ」ではなく、21世紀型の「いいコト」に移行していっているように思います。


成長より持続、“より豊かな社会を生み出すという人間的目的”(*2)にどう関わっていけるのか、ブランディングの課題をそのように設定してみてはどうでしょう。



◼️ブランディングは「手段」か「目的」か

20世紀の世界では、「カイゼン」に代表されるように日本はその組織力で注目を集めました。さて、21世紀ではどのように存在を示していけるでしょう。


今の世界経済が安定しているとは思えません。また、世界で起こっている様々な問題や矛盾を見ますと、日本は一度、西洋をキャッチアップするのではなく、日本の独自性に立ち戻って、例えば「和」や「礼」といったものを見つめ直すことで、逆に新しい価値を世界に提示していくことが出来るかもしれません。


非常に抽象的な話になりますが、実はブランディングに取り組む際、そうした哲学的なアプローチでブランドの立ち位置を確認することは大切なプロセスです。


ブランディングは、マーケティングの一つの「手段」ではありますが、一方で企業に哲学や目的がなければその手段は、まったくもって味気のないものになってしまいます。
新一万円札の顔として一躍時の人に返り咲いた渋沢栄一ですが、その著書『論語と算盤』から、元祖、日本のアントレプレナーの知恵に耳を傾けてみてもいいかもしれません。


それでは次回からは、まさに「ブランドマネージャーに任命された気分」で、イチからブランディングを学んで行きたいと思います。


(*1)Tesla Q3 2019 Vehicle Production & Deliveries
(*2)『構想力の方法論』紺野登、野中郁次郎 著

[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

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