2020.07.01

商品ブランディングについて<Part2>商品デザイン開発

山崎 晴司 株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター

こちらの連載では、3回に分けて商品ブランドデザイン開発(商品ブランディング)について紹介していきます。Part2は、第2フェーズの「商品デザイン開発」についてです。

商品デザイン開発

<第2フェーズ>ブランドの「形」をつくる「商品デザイン開発」

<参考>商品ブランド開発の基本的な流れ


tcd_brand_flow(PDF)

第1フェーズでブランドの目標や伝えたい事が明確化されコンセプトが完成した後、続く第2フェーズ「商品デザイン開発」では、そのコンセプトを基に商品自体のデザインを具体的に形にしていきます。商品デザイン開発は大きく二つのデザイン開発に分かれます。ひとつ目の「プロダクトデザイン開発」は、化粧品などのボトルのデザインや、文具や雑貨の製品自体のデザインを開発する事です。製品デザインとも言います。そしてふたつ目の「パッケージデザイン開発」は、消費者に製品特徴や魅力を伝えるために、製品が入る(覆う)箱や袋やシュリンクフィルムといった媒体をデザインする事。外装デザインとも言います。

どれほど優れたコンセプトを策定しても、それが商品から顧客に伝わらなければ意味がありません。多くの顧客は、高額商品を除いた大半の商品の購入の際にブランドを決めずに来店します。つまり購買時点でのコミュニケーションが重要であり、その中心的役割を果たすのが商品デザインです。また購入した後も、顧客はパッケージからの製品の取り出し易さや、説明書きの見易さなどをチェックし、消費者への配慮があるかどうかを感じ取ります。そして実際の製品を手にして、その質感や使用感から自分と相性が良いかどうかを感じ取ります。これらの印象と製品本来の機能的な体験とが合わさって、顧客の頭や心に「ブランドイメージ」が作られていくのです。そういう意味でこの第2フェーズは、「ブランド価値の中心を形にしていく段階」と言えるでしょう。

特許庁が推進する「デザイン経営」の事例集に掲載

特許庁が推進する「デザイン経営」の事例集に掲載 WAYPWAN アサヒ興洋

今回の事例としてご紹介するのは、「PICNIC&HOME」をテーマに食器やレジャー用品の開発を手掛ける株式会社アサヒ興洋の「WAYOWAN(和洋椀)」という家庭用食器シリーズの商品ブランド開発。近年のライフスタイルの変化により、多様化する子育て世代の食卓に向けた食器の開発を目標とし、ユーザー調査から製品づくり、そして展示会のデザインプロデュースまで、トータルでお手伝いしました。手軽な価格帯ながら、使い勝手はもちろん、デザイン性や収納性にこだわった商品は、発表後に様々なメディアで紹介されヒット商品となりました。これを機にアサヒ興洋では経営トップ自らが先頭に立ち、自社製品のデザイン性強化を基本方針に据え、オリジナル製品の開発と展示会への出展を活性化させています。そしてこの活動が、今年に入って特許庁から発表された、日本のデザイン経営の調査研究事業の「デザイン経営の課題と解決事例」に紹介され、再び注目されることとなりました。

デザイン経営の事例集に掲載されました

では、商品デザイン開発における基本的なステップをそれぞれご紹介します。

プロダクトデザイン開発

プロダクトデザイン開発

1)基礎調査

デザイン開発にあたり、改めて「競合製品のデザイン調査」をします。プロダクトデザインは基本的に、フォルム、カラー、素材、装飾、機能という大きく5要素で構成されていると考えています。競合品をそれぞれこの5要素で分解し、その狙いや効果性などを分析していきます。また「店頭調査」では商品の売り場はどのような状況なのか、消費者は数ある商品の中からどのように欲しいものを選ぶのか等を観察します。「敵を知る」「戦う場所を知る」という事を徹底的に行なうことで、自社のデザインの方向性を探るヒントにします。
その他にも重要なのが「使用環境調査」です。製品が家庭内などで実際に使用されるのはどんな環境で、どんな使われ方をするのかを調査し、コンセプト策定時や競合調査だけでは見えていなかった、使用時のデザイン課題を洗い出します。

2)方向性の視覚化

上記調査を基にデザインの方向性を検討していきます。その際に用いるのが「ポジショニングマップ」です。基本的なデザインコンセプトは第1フェーズで視覚化されますが、より現実的なプロダクトデザインに落とし込んでいく為に、キーワードを用いながら競合品のデザインを分布図にし、当該商品の狙うポジションをシミュレーションしていきます。
同時に「イメージボード」も作成します。これは、プロダクトデザインが目指そうとしている世界観(トーン&マナー)を様々な参考写真やイメージ写真等を用いてコラージュし、1枚のボードに視覚化したものです。デザインのテーマ(表現コンセプト)や言葉では表しにくい抽象的な感覚を確認・共有するツールとして大変効果的です。

方向性の視覚化

3)デザイン

上記方向性が決まりここからデザインへと進みます。基本的なステップは以下の通り。

A: 手描きラフスケッチ

出来るだけ数多くのアイデアを描き出して、考え得る可能性を網羅し検討していくには手描きがスピーディです。手描きスケッチはプロダクトデザイナーの基本スキルとして必要不可欠であり、初期のディスカッションの場ではメンバー間の非常に有効なコミュニケーション手段となります。

プロダクトデザイン 手描きラフスケッチ

B: 平面スケッチ(2Dスケッチ)

手描きスケッチを基に、商品の容量や素材や成型方法など、決まった条件に合わせてコンピュータで作成します。メンバー間でデザインの詳細検討が行ない易いように、ボリューム感やカラー、素材などがイメージできるスケッチを作成します。

プロダクトデザイン 平面スケッチ(2Dスケッチ)

C: 3Dデータ化

決定したデザインの基本形をさらに詳細な造形シミュレーションをする為に、CADソフトを使って立体データ化を行ないます。このデータは360度どの角度からでも造形を確認する事が出来ます。また造形のシミュレーションのみではなく、ガラスや金属といった素材や細かな装飾のディテール等を一層リアルに表現できる3Dレンダリングも作成可能です。

プロダクトデザイン 3Dデータ化
プロダクトデザイン 3Dデータ化

4)デザインの評価と調整

上記デザインのいずれの段階もその都度ディスカッションし評価をしていきますが、煮詰まってきたプロダクトデザインを的確に評価するには主に以下の方法で行ないます。

A: 3Dプリンターによるプロトタイプ作成

基本的な使用感のテストや大きさの検証などを行なうために、簡易モックアップとして3Dプリンターで立体物を作成します。そこからブラッシュアップへの課題を見つけていきます。

3Dプリンターによるプロトタイプ作成

B: モックアップ作成

実際の完成品に近いモデルの作成。素材や塗装、ブランドロゴ等の印字なども仕上がりを想定して詳細に施します。通常は何度かの調整及び検証を行なっていきます。

プロダクトデザイン モックアップ作成

C: デザイン調査

デザインを決定するにあたり、より正確にマーケットでの受容性を計る為に、モックアップを使ったデザイン調査をターゲットに行なう場合があります。対象者には実際にモックアップを手に取ってもらい、デザインに対する感想や意見をヒアリングします。

こうして最終のプロダクトデザインが決定していきます。デザインが決定された後も、容器製造会社による試作や設計・量産管理等の調整事項などを確認、完成までのディレクションを行ないます。

パッケージデザイン開発

プロダクトデザイン パッケージデザイン開発

1)基礎調査

プロダクトデザインと同様に「競合商品のデザイン調査」や「店頭調査」を行ないます。パッケージデザインは基本的に、包材仕様、ブランド(商品名)、カラー、メインビジュアル、コピーの5つの要素で構成されており、競合品デザイン調査ではそれらを分析します。独創性を持ち印象に残るパッケージデザインを目指す為にも、競合品のデザイン分析は必ず行ないます。また、コピーも大変重要な要素であり、競合品がパッケージで何を訴えているのかを細かく把握することで、自社商品の効果的な訴求を考えるヒントにしていきます。

2)方向性の視覚化

これもプロダクトデザイン開発と同様、「ポジショニングマップ」や「イメージボード」を作成しますが、プロダクトデザインとパッケージデザインの両方の開発が必要なプロジェクトであれば、ほとんどの場合、同時に共通のポジショニングとイメージを設定していきます。

3)デザイン

パッケージデザインで大切なのは、消費者に店頭で見つけてもらう事と、中身の製品の魅力を伝える事です。そのためパッケージデザインは、先に述べたように多くの要素で構成されます。それらを限られたスペースでうまくまとめて最大限効果的なコミュニケーションを可能にしなければなりません。パッケージデザイン開発におけるポイントについては、過去の記事「競合に勝つパッケージデザイン開発のために」で詳しく書いていますのでご参照ください。

4)デザイン評価と調整

想定しているパッケージの最終仕様に合わせて立体ダミーを作ります。紙箱、袋、台紙、フィルムなどその形は様々ですが、商品になった時の姿をなるべく忠実に作り上げ、デザイン細部の調整必要箇所を確認したり、店頭に置かれた時の効果を検証します。またダミーを使って、定性調査定量調査などターゲットへのデザイン調査を行い、結果をデザインのブラッシュアップに反映していきます。

以上が第2フェーズの解説です。コンセプトが形(デザイン)になっていくこのフェーズでは、各メンバーの強い思いが様々な意見となって現れてきます。時には遡ってコンセプト自体の変更や調整が必要となるような議論に及ぶ場合もあります。商品ブランド開発において最もエキサイティングでダイナミックなシーンであると言えるでしょう。だからこそ、なるべく早く正確に「アウトプット→検証→調整」を繰り返し行なうことが必要であり、デザイナーには高い技術や感性が要求されます。

次の最終回は、第3フェーズ「プロモーションデザイン開発」と第4フェーズ「ブランド管理」についてご紹介します。


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[筆者プロフィール]

山崎 晴司

株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター

日用品や医薬品、化粧品、食品などの様々なパッケージデザイン開発を中心に、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン等、マーケティング思考を前提にしたクリエイティブワークに幅広く携わる。また百貨店等における新ブランドの立ち上げに際しての戦略立案や商品パッケージから店頭ツール類、店舗までトータルデザインプロデュースも行う。

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