ブランディング考

2020.07.14

「デザイン経営」と「デザイン思考」との違い

川内 祥克 クリエイティブ・ディレクター



◼️15年ぶりの政策提言から2年が経ち


今年の3月、特許庁より「特許庁はデザイン経営を推進しています」というニュースリリースが発表されました。そちらで以下の資料が配布されています。


ビジネスパーソンのためのデザイン経営ハンドブック
デザイン経営の課題と解決事例


そちらに、私たちがお手伝いしている株式会社アサヒ興洋のプロジェクトを取り上げていただいたこともあり、ここで少し「デザイン経営」についてまとめてみようと思います。

そもそも「デザイン経営」とは何かというと、遡って2018年5⽉23⽇、経済産業省・特許庁「産業競争⼒とデザインを考える研究会」からデザイン経営宣⾔として発表されたものがあります。その宣言では背景として、以下のように解説されています(要約)。






製品の同質化(コモディティ化)が急速に進む今日、機能や品質のみで、他者製品を凌駕するだけの差別化が困難な時代を迎えています。

欧米企業は、明確な企業理念に裏打ちされた自社独自の強みや技術、イメージをブランド・アイデンティティとしてデザインによって表現し、製品の価値を高め、世界的な市場拡大に結び付けています。

他方、我が国企業の多くは、その経営層も含め、デザインに対する自信と意識がいまだ低いとの報告もあり、製品の同質化が一層進む中、我が国企業の国際競争力は一層低下するのではないかと危惧されます。


■ニュースリリース
「産業競争力とデザインを考える研究会」の報告書を取りまとめました

■「デザイン経営」宣言
https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002-1.pdf




すごく単純化してしまうと、日本企業のデザインに対する意識の低さが国際競争力を低下させている。そうした危機感のもと、デザイン課題を経営レベルで取り組むべきといった政策提言になっています。

経済産業省がデザインに関して政策提言を行うのは、2003年の「戦略的デザイン活用研究会報告書『競争力強化に向けた40の提言』」以来、15年ぶりだそうです。





◼️「デザイン経営」をシンプルに捉えると


今回の宣言が特許庁から提言されている背景として、デザインが経営資産として重視されていることが窺えます。

ブランド名やマーク、色の組み合わせ、立体的な造形や機能など、法的に守られる資産もあれば、その企業やブランドらしさを司るスタイルやトーン、法的に守られるものではないが生活者や顧客の購入行動に大きく寄与している資産もあります。

ヒト・モノ・カネの「有形資産」以上に、そうした「無形資産」が重要視されるのが高度情報化社会の特徴と言えます。

世の中で「デザイン経営」というコンセプトが意識され始めたのは、上記の資料でも紹介されているApple社が起点になっています。

初代iMacを発表し、Appleブランドを立て直し、経営難を脱し、その一連の成功要因が総括されはじめた時期、『アップルのデザイン(2012.04)』または、さらに遡り『iMac Design―the birth of the new (1999.02)』などの書籍が発売された頃だったと記憶しています。

「デザイン経営」とは、デザイン・クオリティのマネジメントを経営戦略の中心に据えること、そしてそれは製品のデザインだけでなく、パッケージ、広告、売場、顧客とのあらゆる接点をホリスティックに管理することだと言えます。

そうしたデザインの重要性は、CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)の必要性にも繋がっていきます。

田子學氏はその著書『デザインマネジメント』の中で、「デザインマネジメントは、デザインを経営の根幹に据えた経営手法のこと」と定義されています。まさにそのとおりだと思います。





図に示しましたとおり、顧客との接点には必ずデザインがあります。そうしたデザインを経営レベルでしっかり管理していくことは、しごく当然のようにも思えますが、案外と縦割りで、各デザインがバラバラに開発されていることも少なくありません。

よく「デザイン経営」と混同される言葉に「デザイン思考(デザイン・シンキング)」というものもあります。私はこの混同はあまりよくないと思います。

元々「デザイン思考」はアメリカのデザイン・ファームIDEOが提唱する製品開発メソッドです。それはそれでユニークなプロセスですが、それを「デザイン経営」に含もうとすると、取り入れられる企業が一気に狭まってしまうように思います。

「デザイン思考でイノベーティブな製品開発に取り組むこと」、それも経営戦略オプションの一つですが、「デザイン経営」はもう少し喫緊の課題を解決する、より多くの企業が取り組むことのできる経営手法だと思います。



IDEOのアプローチ

デザイン思考/人間中心デザインは、IDEOが1991年の創業以来、Appleの初代マウスをはじめ、人とモノ、人とコトのインタラクションをデザインする上で大切にしてきたアプローチです。





◼️デザインが目指す「全体性」


上記に「パッケージ、広告、売場、顧客とのあらゆる接点をホリスティックに管理すること」と述べましたが、そちらは顧客とのコミュニケーションにおける全体性になります。

もう一方でデザインは、製品やサービスを取り巻く環境に対しても全体性が求められます。

デザイン経営宣言で「我が国の企業の多くは、その経営層も含め、デザインに対する自信と意識がいまだ低い」と指摘されていますが、「デザイン」の理解が統一されていないことも原因のひとつかもしれません。

昨今、どちらかと言うと「デザイン」という言葉を広義に捉える傾向にあります。企業のビジョンやミッションを指し示すグランド・デザインや、事業性を対象としたビジネス・デザイン、先に上げたデザイン・シンキングなど、経営そのものを指したり、手法を指したり、種類もレイヤーも様々です。

もともと「Design」の持つ意味は広義ですが、「デザイン経営」においてはあまり範囲を広めすぎず、顧客体験のデザインにフォーカスした方が取り組みやすいと思います。

しかし、顧客接点に必要とされる「デザイン」が、見た目や色などのスタイリングだけかというと、それは狭義すぎるでしょう。そこでの「デザイン」の捉え方に、「自信と意識の低さ」の原因が潜んでいるのではないでしょうか。

つまり、デザインはデザイナーだけの領域ではなく、広くビジネスパーソンが取り組むことのできる課題だと捉え直すことが可能だと思うのです。

デザインが、ただ「色」や「形」のことを指すのであれば、経営レベルにまで押し上げる必要はありません。デザインの役割はそのスタイリングもさることながら、製品やサービスが開発された背景、時代の移り変わり、そのデザインがユーザーや生活に及ぼす影響、またその後の暮らしとの関わりなど、そうした時間の流れがデザインには含まれます。

それは、企業と生活者との関係性づくりそのものとも言えます。だからこそ、経営レベルで管理する必要があります。

ここでもう一度「デザイン思考」の話に戻りますが、そうした生活者の時間の中で「使われ方」にフォーカスし、身体的に検証するデザイン開発プロセス、いわゆるプロトタイピングと呼ばれるもの、それが「デザイン思考」のコアな部分だと思います。

デザイン思考(デザイン・シンキング)を経営や、ビジネススキームに組み込もうとしたとき、そこに身体的に検証できる対象がなければ、答えを導き出すのに苦労するかもしれません。





◼️最後に


もし「デザイン経営」というキーワードに関心を持たれ、しかしどう捉えていいか、またはどう取り組んでいこうか検討されている方々に、少しでもこの記事が役立てば幸いです。

最後に、文中でご紹介できなかった関連記事を、「デザイン経営」が注目され始めた頃の振り返りも含めてご案内します。あわせてご参照ください。


日本の「デザイン思考」は誤解だらけ
 深澤直人氏 × Pwc談 2020.03.02

デザイン経営の実際 ―サムスン電子の成功事例から―
 福田 民郎氏 (京都工芸繊維大学 名誉教授)  2013.07.31

数字が語るアップル「デザイン経営」のすごみ 設備投資に5900億円
 日経 Biz Gate 2012.04.19



こちらの記事も関連した内容になりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

ブランド・マネージャーの仕事⑥
〜経営の武器としての「デザイン」


[筆者プロフィール]

川内 祥克
株式会社TCD クリエイティブ・ディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。


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