2020.08.04

今さら聞けない!マーケティングの基礎知識 ミレニアル世代、Z世代の登場で再び注目を集める世代論

生山 久展 株式会社TCD ブランディングオーソリティー

「今さら聞けない!マーケティング基礎知識」の第2回は予定を変更して「世代論」を取り上げたいと思います。第1回ではマーケティングはSTP、とりわけS=セグメンテーションが重要という話をしました。世代論もセグメンテーションの1種であり、関連理解を深めやすいのではと考えました。「ミレニアル世代」や「Z世代」という言葉を一度は聞いたことがありますよね。今再び世代論が注目されてきています。

新しい価値観を持つ「団塊世代」の登場で世代論が隆起

世代論は、その世代共通の「通過体験」によって、世代特有の価値観や消費行動が表れてくるという考え方に貫かれた概念です。これまでの常識や通念では捉えられない新しい世代が登場するたびに注目されてきました。表1が伝統的な世代区分です。保守的で「消費は悪」という価値観の強かった「戦前世代」や「戦中世代」に対し、「団塊世代」は古い価値観に対する反発から強く自己を主張し、自分のための消費を謳歌した初めての世代と言われています。新しい価値観と人口の多さが相まって「団塊世代」は新時代の消費のリーダーとして注目されたセグメントでした。ちなみに「団塊世代」も70代を迎え、さすがに消費の主役ではない印象がありますが、70代女性の消費意欲は依然旺盛です。高くてもいいものを選ぶマーケットリーダー的存在で、日経新聞では数年前に「70代女子を狙え」という特集が組まれていたくらいです。

次いで注目されたのが現在の50代が中心の「新人類世代」。情報化社会の中で情報収集力の高さが特徴。雑誌「ポパイ」や「ハナコ」などをバイブルとしていたため、カタログ消費世代とも呼ばれました。

そして次に、現在の40代の「団塊ジュニア世代」が登場します。「団塊世代」の子供たちで人口が多いため早い時期から注目を集めた世代です。彼らは生まれた時から生活環境が豊かで、モノにも囲まれて育ってきたために、消費に対してあまり貪欲ではありませんでした。彼らの好む代表ブランドが「無印良品」であることに表れているように、堅実かつ合理的で、身の丈に合ったベーシック志向の強さが特徴として挙げられます。

現在の30代以下は「ゆとり・さとり世代」と呼ばれています。不景気の中で生まれた彼らは、親を見て現実社会の厳しさを感じ取り、若いのに「欲がなく最低限の生活ができればいい」と考えている世代です。日本の「ゆとり・さとり世代」が、がアメリカでは「ミレニアル世代、」や「Z世代」と呼ばれています。日米を問わず、この世代の登場はセンセーショナルで、これまでの新世代とは次元の違う変化が引き起こされています。

ミレニアル世代、Z世代の登場で「競争優位」が大きく変わった

「ゆとり・さとり世代」より使われることが多くなった「ミレニアル世代」や「Z世代」という言葉。まずはこの定義から確認していきましょう。

ミレニアル世代とは?
2000年以降に成人を迎えた世代を指します。1981~1995年生まれ。Y世代とも呼ばれる。
団塊ジュニア世代からの流れを組んで、基本的に消費意欲は強くない。とにかくコスパ重視で、ムダにお金を使うことを嫌う。大切にしたいのは自分らしさへのこだわりで、他者からの評価は気にしない。この世代のネットの主役はGoogleであり、情報探索を得意とする。

Z世代とは?
1996~2010年生まれ。
大きな傾向はミレニアル世代と同様だが、Z世代は生まれた時からIT製品に囲まれて育ったデジタルネイティブ。この世代のネットの主役はインスタで、自分を理解してくれる特定少数の仲間と喜怒哀楽をシェアしたいと考えている。情報検索はググるよりも、インスタやツイッターなどのSNSから欲しい情報にたどり着く。

両世代ともに、これまでの顧客像と大きくかけ離れているため、これまで通りの施策を打つだけでは、需要を喚起することができなくなっています。このため、この世代が消費の中心になったマーケットから、それまでの競争ルールや業界標準が瓦解、業界ヒエラルキーはリセットされ、新たな競争優位の下での戦いが始まっています。

最も早くこの洗礼を受けたのがアパレル業界です。生まれた頃からファストファッションに囲まれて育っているので、洋服にムダにお金をかけません。こうした消費トレンドは上の世代へも支持が拡がり、かつて隆盛をきわめたアパレルメーカーのレナウンは倒産、東京スタイルも会社消滅、オンワード樫山と三陽商会も苦戦が続いています。

このように彼らの消費の特徴を一言で表すと「コスパ消費」。ただ安いだけじゃなく、価格以上の価値を感じるものにしか食指が動きません。この傾向がアパレルだけでなく様々な業界へ飛び火してきています。例えばスイーツは、わざわざデパ地下まで出かけなくても、スーパーやコンビニのスイーツでも十分美味しいと満足します。婚礼市場では結婚式にムダに費用をかけない「スマ婚」が定着しました。エンゲージリングを買わない人たちも増えてきています。タンスの肥やしにするくらいなら要らない。買うなら普段使いできるデザインのものを選ぶ。着回しや使い回しが効くことも彼らが重視するファクターです。住宅もコスパや実質的な価値を重視します。50代の筆者なら積水ハウスなどのブランド力がどうしても気になりますが、彼らはブランドに関係なく、自分たちの希望の間取りをなるべく安く実現してくれるところを選びます。このため軒並み大手ハウスメーカーは苦戦し、コスパ力の高い準大手や地域のハウスビルダーが好調です。

今後、この世代がマーケットの中心になる業界の方は、必ずこれらの先行業界と同じような道を辿ることになります。この世代の特徴を理解し、その攻略戦略を今のうちから準備しておくことが重要です。過去の成功体験は捨てて、思い切ったビジネスモデルの転換が必要だと思います。

今回取り上げた「世代論」については、伊藤忠ファッションシステムの川島蓉子さんの分析が精緻で分かりやすいので、興味のある方はこちらも併せてご一読ください。
次回は、「世代論」とは正反対の立場で、ある年代を迎えることによって価値観や消費行動が変化していくという「ライフステージ論」についてお話したいと思います。

[筆者プロフィール]

生山 久展

株式会社TCD ブランディングオーソリティー

戦略開発、調査・分析、商品開発、販促展開まで幅広いブランディング業務に従事。30年余の実務経験をベースに、的確な現状分析から本質的な課題解決のプランニングを得意とする。

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