2021.02.24

もう迷わない「ミッション・ビジョン・バリュー」

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター


■「ミッション・ビジョン・バリュー」の作り方


今回は、会社の経営理念をまとめる際によく使われるフレームワーク、「ミッション・ビジョン・バリュー」について見ていきたいと思います。

企業ブランディングのお手伝いをする際、この「ミッション・ビジョン・バリュー」づくりを、一からお手伝いすることもあれば、社内で検討される場合もあります。

社内で検討される場合、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」それぞれの定義があいまいだったり、どのように言葉にしていくべきか確信が持てなかったり、色々悩まれることが多いようです。

たしかに検索してみると、『ミッション・ビジョン・バリューの作り方』など、情報はたくさん出てきます。しかしその内容は実にまちまちです。

そこで今回は、まず教科書的に基本を理解し、実際取り組む際に迷うことなく、また、柔軟にフレームワークを活用できるよう、まとめてみたいと思います。


■ミッション・ビジョン・バリューの起源


まず、誰が「ミッション・ビジョン・バリュー」を言い出したのか?インターネット上では、かのP・F・ドラッカーを発祥とする説が多く見られますので、できるだけその源流に遡りながら見てみましょう。

確かに彼は、初期の著書『現代の経営(1954)』より変わらず、企業にとってはその目的、すなわち「ミッション」が最も重要であると説いてきました。


 ミッション:企業の目的、存在意義
 the organization’s purpose and very reason for being

組織はすべて、人と社会をよりよいものにするために存在する。すなわち、組織にはミッションがある。目的があり、存在理由がある。

とかく「ミッション・ビジョン・バリュー」で混乱をきたす要因として、カタカナから受ける言葉の印象と、本来の定義との違いがあるように思います。

例えば「ミッション」と言われると、「任務」の意味合いを強く感じますが、原語の説明にある「パーパス」と捉えたほうが本来の定義には近そうです。

説明にあるように「人と社会をよりよいものにするために、その会社が存在する理由」と捉えるといいのではないでしょうか。


■ビジョン、ミッション、どちらが先か


冒頭に申し上げたとおり、インターネットで検索すると様々な情報が上がってきます。その中でも「ビジョン」と「ミッション」どちらが先かという疑問が多くあるようです。

結論的には、どちらが先でもいいのではないかと思います。実際にビジョンを先に掲げている企業もあれば逆もあります。

ミッションを企業の目的、存在意義とすると、それを実現するために目標を立て計画を実行していくことになります。そしてその目標を達成した世界、いわゆるゴール(イメージ)、それがビジョンになります。

visionを直訳すると「見通し、展望、構想」になりますが、「目指す姿」という風に表現されている企業も多くあります。
もう一度、ドラッカーの著書から引いてみますと

ミッションをもとに、組織としての方向性を示す計画を得る。計画には、ゴールが到達され、ミッションが実現したときのビジョンを示すことができる。ビジョンが計画に命を与えてくれるのであれば、計画にはビジョンを記しておくべきである。

つまりビジョンとは、計画を行動に移しミッションを実現するための青写真とも理解できます。


 ビジョン:実現を望む未来の姿
 A picture of the organization’s desired future.


企業の目的(ミッション)とそれを実現した未来(ビジョン)は表裏一体です。どちらが先かというのは、どちらを先に言いたいかで決めればいいくらいの問題だと思います。


■「バリュー」とは、何のバリューなのか?


さて、3つめの「バリュー」についてもいくつか捉え方があります。ひとつは「行動規範(または行動指針)」とするものです。また、全社で共有すべき「価値観」と表現している場合もあります。

value(s)の辞書的な意味は「望ましい価値観や基準」なので、どちらも間違いではありません。

ちなみに「ブランド・エクイティ」というマーケティング用語もあります。こちらはブランドが持つ資産価値のことを指し、単純に「ブランド価値」とも言われます。ブランドが持つプレミア価値などはそこに含まれます。ここでは詳細な説明を省きますが、経営理念で言う「バリュー」とは異なるので注意が必要でしょう。

一般的には、バリュー=行動指針としている場合が多いようです。ビジョン、ミッション、バリューづくりに取り組むより前に、既に行動規範や行動指針が定められているケースも多いので、移行しやすいのかもしれません。もちろん「価値観」としている企業も多くあります。事業や社風に合わせて腑に落ちやすい方を選べば良いのだと思います。

行動規範について、ドラッカーの記述を見てみましょう。

優れた組織の文化が存在するならば、投入した労力の総和を超えるものが生み出される。投入したものを超える価値を生み出すことは、人が関わる領域においてのみ可能である。したがって、優れた文化を実現するために必要とされるものは行動規範である。

ミッションを達成できるのは一人ひとりの行動の集積に他なりません。上記では、それを支えるのは企業文化であり、それに基づいた行動原理である、ということを伝えています。


 バリュー:企業文化を生み出す行動規範
 the principles and practices that a business or organization
 thinks are important and which it tries to follow *


■言葉の定義とカタカナの問題


先にも述べましたが、「ミッション・ビジョン・バリュー」をつくる際、混乱を生じさせているのは、カタカナの問題でもあるように思います。

そこでさらに挙がってくるのが、「今ある社是をどうするのか」「創業の精神をどうするのか」、既にあるステートメントをどのように扱うのかといった問題です。

創業の精神などは、永く継承されている場合が多く、そうしたものは歴史もあり企業文化に刻まれているものでもあるので、残す場合がほとんどです。

また、既に社是や社訓などがある場合、ミッション、バリューと内容が重複するようであれば、新しく「ビジョン・ミッション・バリュー」に統合したほうが、社内での浸透も図りやすいと思います。

既にあるステートメントが、どれにも当てはまらなければ追加してもいいと思います。例えば、サービス業であれば「顧客体験」という項目を加えてもいいかもしれません。


■ベクトルを合わせ、行動を推進するためのツール


大切なことは、これらは暗唱するためのものではなく、行動するためのものであるということです。その目的が果たせれば「ビジョン・ミッション・バリュー」必ずしも3つ揃っている必要はありません。

フレームワークはあくまでも抜け漏れをチェックする程度のものであると捉えておいたほうが良いでしょう。ミッションを実現するために一人ひとりのベクトルを合わせ行動することで、ビジョン(実現を望む未来の姿)を実現する大きな推進力が生まれます。

「ミション・ビジョン・バリュー」は、そうした行動を規定し、実践するものであると捉えておけば、迷うことも少なくなるのではないでしょうか。

問題は明日何をするかではない。明日成果を得るために、今日何をするかである。(P・F・ドラッカー)

(*)LDOCE onlineより

[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

こちらの記事もよく読まれています

資料ダウンロード

弊社の実績資料をダウンロードいただけます

お問い合わせ

まずは、お気軽にご相談・お問い合わせください