ブランディング考

2020.07.13

ストア・ブランディングの勘所
商品ブランディング考 <Part1>

山崎 晴司 取締役社長、クリエイティブ・ディレクター

こちらの連載では、商品パッケージデザインの役割と商品ブランディング事例についてご紹介します。


パッケージデザインの役割〜商品ブランディング考〜
<Part1>ストア・ブランディングの勘所
<Part2>競合に勝つパッケージデザイン開発のために
<Part3> 挑戦し続ける「老舗」のブランディング事例

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「選ばれるブランド」づくりとは

百貨店や駅ナカ、ショッピングモールなど、様々な売り場で目にする洋菓子や和菓子のお店。利用する立場としては、余程お目当てのブランドや商品がない限り、沢山のお店がある中で何を選ぶのかを悩まれた経験が誰しもあると思います。買い物の目的はその時々で違い、よって選ぶ商品も、カテゴリーやボリューム、価格やデザインなど、基準が変わってきます。当然ですが、顧客はいつも同じものを買うとは限らないのです。ここ数年商業施設自体も増加傾向にあり、メーカーと共同で新ブランドを立ち上げるケースも多く、それぞれの施設が新規性やオリジナリティーを打ち出す戦略に力を入れており競争は一層激化してきています。そのような状況において「いかにして選ばれるブランドになるか」は、商品を提供するブランド側にとって難しい課題となっています。

TCDではこれまでにいくつかのブランドの立ち上げやリニューアルプロジェクトをお手伝いしてきました。これらのプロジェクトのことを「ストア・ブランディング」と言いますが、私達はこのストア・ブランディングの定義を、「コンセプトからネーミング、ブランドロゴデザイン、パッケージデザインそしてショップデザインまで、売り方全体に一貫したストーリー性を持たせたブランド価値作り」としています。製品自体が新規性・希少性のあるものであれば、それが個性として十分にアピール出来るものにもなりますが、消費者の目が肥えて数多くの情報がシェアされる現状では、新規性のある商品を開発する事は非常に難しくなっています。

そこで重要なのがブランドの「ストーリー性」です。個性的かつ一貫したストーリーとしてのブランド体験を顧客に提供することができれば、イメージはより具体的に記憶され、結果、選ばれる確率も高くなると言えるでしょう。

「日本初の柿の種専門店」はこうして生まれた

TCDがお手伝いした事例に、とよす株式会社の「かきたねキッチン」というお菓子があります。様々な味の柿の種(米菓)を提供する日本初の柿の種専門店として2011年にデビューし、現在では全国で直営店18店舗を展開している人気のブランドです。今年に入ってデザインと商品ラインナップを刷新し、「旨味」にこだわった、ちょっと贅沢な柿の種を提供するブランドへと進化しました。

かきたねキッチン
かきたねキッチンHP

プロジェクトが立ち上がった際に色々とコンセプトを考えましたが、最終的に私たちがこのブランドの個性として選んだのは「キッチン」というストーリーでした。「柿の種」と「キッチン」という言葉の組み合わせは、耳にした時や目にした時に軽い違和感や引っかかりを生みます。同時に、それぞれがなじみのある単語なので、感覚的なイメージも生まれます。私たちがキッチンという言葉を採用し目指したのは、これまでのおつまみイメージからの脱却、そして、米菓売り場にはなかった様々な料理のシズル感と今まさにそこで作ってくれているかのような活気あるライブ感の醸成でした。また、百貨店のメイン顧客である女性に対する親和性を高めるため、柿の種を「かきたね」と表現し可愛い響きと軽快なリズムが感じられるブランドネーム「かきたねキッチン」としました。

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<デビュー当初の店頭>

店舗デザインでは、白いタイルやステンレス素材を用い、清潔感のある色調でキッチンイメージを再現しました。そして、この店舗デザインにおいての一番のポイントは、数種類の柿の種が量り売りされている透明の大きな柿の種ケース(ディスペンサー)です。これはお店のシンボル的存在となり利用客の目を引きつける役目をしていますが、これもキッチンとしてのライブ感演出に大きく貢献しています。また値札や商品説明POPのデザインも、素材や料理イメージの写真を配した料飲店のメニューのような訴求力のあるものにしました。これらひとつひとつの工夫の集積により、かきたねキッチンという「一貫したストーリー」を作り上げました。

ストアづくりに欠かせない「差別化されたコンセプト」

効果的なストア・ブランディングには大きく2つの重要なポイントがあります。ひとつは「差別化されたコンセプトつくる」ことです。コンセプトはそのブランドを作る企業の歴史や強みが核になる場合もありますし、商品自体の新規性や希少性によって強力な差別化が可能になる場合もあります。いずれにしても他にはないコンセプトを作り出す事が重要です。

例えば、羊羹と言えば「とらや」となるように、とらやは長い年月をかけて顧客の頭の中でブランドと商品が結びつき現在では羊羹の代表ブランドとして認識されています。では、これから新たな羊羹ブランドを立ち上げるとなった場合、どう考えていけばいいでしょうか。こういった場合に私がまず始めるのは、○○な羊羹や羊羹○○、といった○○の部分を考える事。ここであらゆる振り幅を検討し、最終的にユニークかつ納得性のある○○を選び出します。すなわちそれがブランドコンセプトになりストーリーの根源となります。もちろんコンセプトを決める背景には、羊羹や和菓子市場の現状分析とそれに基づいたターゲット設定から出店計画などといった戦略がありますので、コンセプトは新しければ何でもいいという訳ではありません。

前述のかきたねキッチンの事例で申し上げると、柿の種という商品はこれまでもよく知られた存在でしたが、「柿の種専門店」というものはなかった。また米菓店だけど伝統的な和の世界観を打ち出すのではなく、「キッチン」という言葉に象徴される、モダンで和洋折衷的な世界観の店舗(ブランド)はこれまであまりなかった。一方で「とよす」には、あられやおかきの老舗店という揺るぎない実績がある。これらが組み合わさって「差別化されたコンセプト=柿の種専門店かきたねキッチン」が出来上がりました。名は体を表すと言いますが、かきたねキッチンという名前にはその中身の有り様がほどよく感じられ、非常によく出来たネーミングであると思っています。

では仮に、先の新しい羊羹ブランドに「かろやか羊羹カフェ」というコンセプトを作ったとします(やや乱暴な仮コンセプトですがご容赦ください)。
みなさんはどんなイメージが湧くでしょうか。「洋風ですっきりした味わいの羊羹」とか「コーヒーと一緒に」や「若い人向け」など、これだけでそのブランドの輪郭が見えそうな気がするのではないでしょうか。あまり難しい言葉を複雑に並べても消費者には伝わりにくいものですので、私自身は「一言で言えるコンセプト」を考案することを心がけています。

ブランドイメージを形づくるさまざまなデザイン

そしてもうひとつのポイントは「コンセプトをきちんと伝えるデザイン」です。かきたねキッチンの事例で述べたように、ストア・ブランディングにおけるデザインの領域は多岐にわたりますので、それぞれ簡単に解説したいと思います。

まずは、シンボルやロゴのデザイン。これはブランドコンセプトが凝縮された最も重要な要素で、そのブランドのデザイン的価値の中心となるものです。使用する書体や色彩、エレメントの組み合わせによって、ブランドの個性に合ったデザインに仕上げていきます。またシンボルマークは、デザインモチーフとしてパターン化されることも多く、店舗の装飾やパッケージなど様々なツールに展開することでブランド全体のデザインの統一性を高める役割も担います。

次に、商品のパッケージデザイン。これは商品そのものと言っても良い要素で、店頭に置ける中心的存在でありブランドの世界観を形成します。パッケージデザインがターゲットに共感してもらえるトーン&マナーになっているか否かが、興味をもって手に取ってもらえるかどうかを決めることになります。また、MD戦略上、通常はお菓子の種類や価格帯のバリエーションを複数用意するものですが、ギフトなら上質感を重視、パーソナルな商品ならボリューム感や手に取りやすさを重視するなど、各商品の役割を明確にするための要素としてもパッケージデザインは大きな意味を持ちます。

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<デビュー当初のパッケージ>

そして店舗デザインは、商品達の晴れ舞台であり料理で言えば器のようなものでしょうか。店舗全体でまとまった印象でプレゼンテーションが出来るよう、コンセプトに合った造形や素材、そして商品との親和性を考慮しながらデザインを考えます。一方で、デコレーションとしてのデザインだけではなく、効果的な商品陳列やスタッフのオペレーション、来店者の導線など、いわゆるVMDの観点も合わせながら計画していきます。ちょっとした違いが店の印象を変えるので、何度もシミュレーションをしながらデザインの調整をしていきます。

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また商品説明のPOPやプライスカードなども店頭では重要なツールですので合わせて検討していきます。そしてTCDでは、今述べたシンボルやロゴ、パッケージや店舗などの基本デザインはほぼ同時に進めていきます。その方がそれぞれの調和を確認しながら一貫性のあるデザイン提供できるからです。

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ブランドは作り手ではなく、顧客の中で育っていくもの

ストア・ブランディングでは店頭周りのデザイン以外にも、WEBサイトやリーフレットから広告やDMなどに至るまで、顧客との様々なタッチポイントを一連のブランド体験として理想的な形で提供することが重要です。コンセプトがデザインを通じて顧客に伝わり、受け取った彼らの心や頭の中でそれが「ブランド」となって形になっていきます。そして、共感する顧客が増えることによってブランドは成長していきます。

ただ、こうしたブランディングでよく陥りがちなのは、100%の人に受け入れてもらおうと考える事です。そしてこれはむしろ逆効果で、結果的には誰にとっても魅力的ではないものになってしまいます。ブランドは作り手が押し付けるものではなく、顧客の中で育っていくものですので、30%のターゲットが深い共感を持ち、圧倒的に支持されるコンセプトや世界観作りをすることが重要です。


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[筆者プロフィール]

山崎 晴司
株式会社TCD 取締役社長、クリエイティブ・ディレクター

日用品や医薬品、化粧品、食品などの様々なパッケージデザイン開発を中心に、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン等、マーケティング思考を前提にしたクリエイティブワークに幅広く携わる。
また百貨店等における新ブランドの立ち上げに際しての戦略立案や商品パッケージから店頭ツール類、店舗までトータルデザインプロデュースも行う。


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