ブランディング考

2020.06.15

生活道具を継承する「デザインフォークロア」

須田 史義 パッケージ&プロダクトデザインセクション チーフデザイナー

TCDのプロダクトデザインセクションの新たなプロジェクト「デザインフォークロア」。これは、今は顧みられなくなった昔の生活道具を新たな視点でデザインし直す活動です。その取り組みの内容をご紹介します。

今、過去を見直す意味

新型コロナウイルス対策により、様々なシーンで今までのあり方が否応無く変更されています。在宅勤務によるWEB会議は一般的なものとなりました。私的なコミュニケーションをリモートで楽しむ工夫も進んでいます。ネット販売で新たな活路を見出そうとする動きや、動画を使って自宅でエクササイズするなど。これまでは様々なハードルがあり、越えられなかった従来の生活様式が、必要に迫られたことで一気に変化しました。まだ先のことと思っていたテクノロジー社会に急激に近づいた様相です。
このような状況で新しい技術製品を利用することは大賛成です。しかしその一方で、旧来の道具の価値を忘れ去ってはいないでしょうか。人々が生活の中で必要にかられて作り、使ってきた古い道具には先人の工夫が込められており、長い年月の中で無駄が淘汰され、機能性が追求されてきたものがあります。生活に基づいて生み出され、継承されてきた道具を私たちが引き継いで活用することは、変化の激しい今においては益々貴重な価値を有し、「過去と未来を繋ぐ」ことになります。

RE-FRAMING. 視点を変えて捉え直す

近代化に伴い生活の道具は技術の進歩により様々にカタチを変え、多様化しました。その変遷の中で、今では使う機会が無くなってしまったモノがあります。日本の各地域には歴史民俗資料として古い道具が保存されており、過去の生活を偲ばせています。これらの道具が使われなくなった理由としては、電動化や新素材の利用による形態の変化、使用用途の消失が挙げられるでしょう。これら民俗学的な資料としてのみ存在している民具を、現代人の生活に役立てる術はないのでしょうか。
生活の中で工夫され継承されてきた民具の「造形」や「構造の仕組み」は、それ自体に価値があると考えられます。私たちがデザインを考える際、「用途(使用目的に基づく使い方、シーンフィット)」と「造形(効果的なモノの形態、製造方法)」を掛け合わせて新たなカタチを導き出します。このような見方で民具を分析し、内在する特性を踏まえリデザインすることで、現在のシーンに即した新たなプロダクトとして民具は生まれ変わることができると思います。「RE-FRAMING(リフレーミング)」とは視点を変えて発想を変換することです。デザインの基本的な考え方であるこの発想法で、消えかかる価値を繋いでいきたい。そんな想いをもとに民具の可能性を発掘するというプロジェクトを行っていきます。

デザインフォークロアとは

「デザインフォークロア」は私たちが提案する言葉で、古い道具の価値を発掘して再活用する、すなわちモノ(Design)を民間伝承(Folklore)する活動を指します。

<デザインフォークロアの活動>
「フィールドワーク」地域の民具資料や文献をもとにした調査、ヒアリングによる聞き取り
「マッチング分析」発想の転換による新たな役割の創出
「デザイニング」デザインの視覚化、プロトタイプによる検証
「フィードバック」オリジナルデザインの販売、メーカーの募集

活動の特徴としては、フィールドワークを通したデザインの再発見にあります。通常のデザイン業務では、調査の対象となるのはユーザーの使用状況や店頭の競合品です。それらを分析しカタチを考察します。一方で、デザインフォークロアでは、モノはすでに存在しており、モノとその周辺を分析してデザインを調整します。そこから生まれたモノは新たな役割が与えられて、消費者に必要とされる商品として残ります。現代においての価値を再創出することになります。ただし、この活動の大きな目的は道具の価値を継承すること自体にあるので、ブランドの観点で言えば「日本の伝統的な技術や造形のブランディング」というパブリックな利益を考えることでもあります。

これからの生活を形作るプロダクト

具体的にデザインはどのようになるでしょう。
調査する民具には様々な種類があります。農家や大工などの生業に関する道具、衣食住に関する日用品、祭りなどの行事で使われるもの、また玩具なども調査対象となりえます。
一例で挙げれば、昔から使われている作業用具に「背負い籠(しょいご)」があります。竹を編んで作る籠に肩ひもを付けた荷物を運ぶための大型リュックサック(ザック)です。これは現在でも一部地域で使用されており、農作業で作物を運ぶ際に便利な道具です。これを現代のアウトドアシーンで使うと仮定した場合、使用シーンを仕事からレジャーに変えることで使用頻度が大幅に増えるのではないでしょうか。シーンやユーザーが変わりデザインもそれに応じたカタチに寄り添っていくことで、人々の生活を豊かにするアイテムへと生まれ変わることができます。
こうすることで、モノの表層的な形や使用する状況は変わってしまうかもしれません。しかし、日本人が昔から使ってきた生活道具のDNAは残ります。作り変えながら伝統を守るという一見矛盾した発想は、日本ではお馴染みのものではないでしょうか。そこには自らのアイデンティティーを守りたいという強い意思が感じられます。私たちプロダクトデザインセクションのスタッフには、先人の身近な材料を使って巧みな道具を作り上げる粘り強さを尊敬し、昔の技術を皆さんに知っていただきたいという思いがあります。

今後の展開

このような「過去と未来を繋ぐ」という活動は、一般的な短期決戦のビジネスとは異なり、長いスパンで価値を創出する姿勢が必要です。人とモノの繋がり、人と過去の繋がり、人と人の繋がりのように、「繋ぐ」という感覚が、目まぐるしく変化する時代においては人々に尊ばれるのかもしれません。そこにデザインとしての豊かさを見出したく思っています。
TCDは、この活動を通じて「これからの生活を考えるデザイン」を更に追求していきます。来月からは実際の活動報告をご紹介いたします。

TCDプロダクトデザインについての詳しくはこちら

[筆者プロフィール]

須田 史義
パッケージ&プロダクトデザインセクション チーフデザイナー

TCDにてプロダクトデザイン、パッケージデザインに携る
クライアントと一体となり商品ブランドを作り上げている
オルタナ、インディー音楽が好き


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