2025.07.29

ブランドを動かす“わかちあう”力

田中 恵子 株式会社TCD クリエイティブディレクター

「理念はあるけど、社員が動いている実感がない」
「発信しているのに、響いていない気がする」

経営企画部門やブランディング部門とお話しすると、こんな声を耳にすることが多くあります。
改めて公開予定ですが、TCDが独自で行った「企業理念に関する調査」でも、自社の理念を“はっきり覚えている”と答えた社員はわずか14%という結果でした。せっかく時間をかけて策定した理念やパーパスが、現場に届かないまま形骸化してしまう。多くの企業がこうした課題に直面しています。
7月に宣伝会議主催の「企業ブランディングカンファレンス」で、私たちはソフトクリーム総合メーカー・NISSEI様の事例をもとにインナー施策とアウター施策を両輪で考える重要性についてお話しました。今回のコラムではその中でも特に、理念やバリューを社員が自ら行動に落とし込める状態=“ジブンゴト化”するためのポイントを整理していきたいと思います。


ブランドは、生まれた瞬間に「ブランド」になるわけではない

ブランドは、ロゴやスローガンができた瞬間に完成するものではありません。
いくら外向きに魅力的なデザインやメッセージを整えても、それを支える社員一人ひとりの行動が伴わなければブランドは形にならないのです。「ブランド」がそれらしくあるためには、ふさわしい装いはもちろんあれば良いですが、それを支えるすべての人々の行動がブランドをブランドたらしめる、と考えています。

もちろん企業側もそれを理解して、企業理念やパーパス、ブランドメッセージを盛んに発信しますが、まだまだ社員には浸透していないと実感されている企業も多いのではないでしょうか。

なぜそれが浸透しないのか、主な理由は以下の3点に集約できると思います。


1. 発信不足──発表して終わり、掲示して終わりになっている
2. 言葉が伝わりにくい──現場の実感と乖離している、抽象的すぎる
3. 行動のイメージがない──「で、私は何をすればいいのか?」がわからない

企業理念は“地図”のような存在です。
地図を見せるだけでは人はなかなか動けません。地図の読み方を学び、行動に移すための道筋が必要です。
だからこそ、TCDは理念の言語化に加え、“どうすれば現場が動けるか”という実装の設計を大切にしています。


行動に落とし込むための3ステップ

私たちが目指すのは、理念やバリューを“標語”ではなく“相棒”にすること。
そのために、次の3ステップで設計していきます。

1.わかる(理解) ── 言葉の意味が現場で解釈できる状態をつくる。
例:理念をストーリーとして伝える

2.できる(行動) ── 行動に変換できる状態をつくる。
例:行動宣言やアクションシートなど、社員が自分なりに実践できる枠組みをつくる

3.わかちあう(共有) ── その行動をみんなで共有できる
例:バリュー体現事例を称賛し合える仕組みを設計する

この3点が揃うことで、理念やバリューが“共感の対象”から、“ともに進む相棒”という存在になります。


「わかちあう」から文化が育つ

この3ステップの中でも、いちばん文化をつくる力が強いのが「わかちあう(共有)」です。

理念やバリューを行動に変えてみたとしても、「これでいいのだろうか」「自分だけがやっているのでは?」と人は不安になります。だからこそ、仲間と取り組みを共有し、称賛し合える仕組みが重要です。


例:
• 部署を超えて目標や取り組みをお互いにレビューし合う会を開催
• 週次でのグッドアクション共有タイム
• バリューを活かしたプロジェクトを発表・表彰する場を設ける

行動指針を元に考えた行動でも、人は誰しも「これでいいのか」「間違っていないのか」と心細く思うものです。仲間と共有し、承認し合える場があると、理念は“他人事”から“自分事”へと変わっていきます。さらに、こうした仕組みがあると、理念やバリューは“会社・管理者の指示”ではなく、社員同士の共通のテーマとして自走するようになります。

そしてこの共有の文化が回り出せば、浸透のスピードは一気に上がります。社員同士が理念の意味や価値を語り合える組織は強くなる。自然と行動の方向性が揃っていくからです。

さらに評価制度にまで連動できると良いのですが、まずはスタッフが行動に移せるという段階を目指すだけでも十分です。理念が「自分とは関係のないコト」ではなく「ジブンゴト」になる。それだけで大きな一歩となります。


社外への発信が“響く”のも、共有文化があるから

社内での浸透をするのと並行して、社外への発信、アウターブランディングも行えると、ブランドはさらに強固なものになります。その際にも理念を踏まえたブランドメッセージの発信が重要です。
外部に向けてブランドのあるべき姿を見える化することで、それは顧客の期待へと変わります。この顧客の期待が、社員やスタッフを見る目線になります。現場に行動が落とし込めていないと、それは過度な期待となり、社員が疲弊する要因になりかねません。しかし、その期待に応えられる行動が備わっていれば、顧客の評価となり、現場の誇りへと変換されていきます。

ブランドが外に向けて語る言葉が、内側でもしっかり共有されている。
この“内外の共鳴”が起きたとき、ブランドは強い一体感を持ちます。

ブランドは、内から育ち、外へと発信することで共鳴していきます。
インナーブランディングは単発のキャンペーンではなく、社員の日常と行動に根づく“文化づくり”です。

アウターブランディングが社会に向けた“顔”だとすれば、インナーブランディングは企業の“心”。そして両者は、どちらか一方だけでは十分な輝きを生み出せません。

理念やブランドを、自分の言葉で語れるようにすること。そして、それを行動へと移せること。この積み重ねこそが、社員のエンゲージメントを高め、ブランドを本質から強くします。

TCDは、そうした“文化としてのブランド設計”を、これからも伴走しながらサポートしていきます。

[筆者プロフィール]

田中 恵子

株式会社TCD クリエイティブディレクター

コンセプトからそのデザイン、コミュニケーションまでさまざまなブランド開発プロジェクトに携わる。デザイン領域にこだわらず暮らしをよりよくできるモノゴトをめざす。

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