ビッグデータ時代になぜ「N1分析」が注目を集めるのか?
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2022.12.09

ビッグデータ時代になぜ「N1分析」が注目を集めるのか?
戦略的定性調査のススメ

生山 久展 株式会社TCD ブランディングオーソリティー

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変化する市場を正しく捉える市場調査

自社の商品の売上が低迷してきたり、全く新しい分野への参入を試みる場合は、「まずは調査してみよう」になることが多いと思います。常に変化・進化を続ける市場を捉え直すためです。
現在ではネット調査の進展によって、従来より遥かに安いコストでかつスピーディに市場調査を行うことが可能になってきています。市場調査の対象は消費者、流通、競合をはじめ広範囲に及びますが、最も大事なのは消費者理解です。しかし、いざ消費者調査をしようとなった時に「どういう調査をすればいいか分からない」という問題にぶつかった人も少なくないのではないでしょうか。

調査のやり方が分からない「?」のイラスト


「定量調査」と「定性調査」の違いは?
マーケティングの進んだ会社ほど「定性調査」を重視する

調査は大きく分けると定量調査と定性調査の2つしかありません。この2つを調査の目的によって使い分けています。定量調査はある商品カテゴリーの所有・購入実態や購入重視点、ブランドへの認知・好意度・イメージなどを「数値」で把握するために行います。「実態把握型」の調査だと言えます。
一方、定性調査はターゲットユーザーの評価・態度・行動などの「非数値」なものを把握します。隠れた心理・感情といった「インサイト探索型」の調査だと言えます。これらは定量調査でも「なぜそう思うのか」の選択肢から選んだり自由回答を記入してもらえば把握可能と思われるかもしれませんが、やはりその背景や文脈は捉えきれません。ターゲットユーザーの生の声が聞けることが最大の利点と言えます。

定量調査と定性調査の比較図

以前のコラムでも触れましたが、マーケティングの進んだ会社ほど定性調査重視で、その手法も5-6名を集めて行う「グループインタビュー」から、1名を深く彫り上げる「デプスインタビュー」へシフトしてきています。
筆者も30年以上調査の現場にいますが、圧倒的に「定性調査派」です。何万、何十万というビッグデータよりも、サンプル数は少なくてもリアルな顧客理解や購入へ動かすためのポイントが把握できる。有益な発見が多く、調査後のアクション、戦略意思決定により大きな影響を与えるのは、定性調査のほうだと思います。


「少サンプルで何が分かるのか」という人は、
定性調査の本質を理解できていない

「1万サンプルのアンケート調査の結果なら信用できるが、たった5人に聞いた話で何か分かるのか」。実際にビジネスの現場で、グループインタビューへの異論としてよく出てきます。とりわけ上層部、経営層の方に多い意見です。
前述したように「定量調査」と「定性調査」は調査の目的が違います。前者が「実態把握型」なのに対し、後者は「インサイト探索型」です。つまり定性調査の結果は市場全体の実態や動向について言及するものではなく、自社商品への関心を喚起し、購入へ動いてもらうための「チャンスの芽」を導き出すことにあります。むしろこうしたことは「1万サンプルのアンケートやビッグデータの分析から導き出すことは難しいです」と堂々と反論すべきです。
上層部への報告、経営層への答申では、最初に「入口=調査の目的」をしっかりと明示することが大切でしょう。


「N1分析」起点で、とにかく早く市場へ出す
「ラピッドアプローチ」へ

「N1分析」つまり1人の顧客分析の重要性を提唱しているのは西口一希氏です。その著書「実践 顧客起点マーケティング」※は第6刷を重ねるベストセラーになっています。その本の帯には「1000人より1人の顧客を知ればいい」というキャッチーなコピーが書かれている。「顧客起点マーケティング」とは、1人の顧客の徹底した理解から導き出した「アイデア」を起点として、市場セグメント構成にどのような変化をもたらしそうかを可視化・定量化して検証するというものです。商品購入の新たな選択肢となり得る「アイデア・視点」をいち早く見つけることの重要性を説いています。西口氏はP&Gの出身。P&Gの定性調査は1対1のデプスインタビューで行われており、これまでのビジネス体験から導かれた実践的なメソッドです。
変化が激しく、成熟化と同質化が進む今の多くのマーケットでは、とにかく他社に先駆けて市場に出し、手応えを確認しながら、必要な軌道修正を加えて一気に攻勢に出るような動きが求められています。調査に大きな費用と長い時間をかけるよりも、「N1分析」を起点とした「ラピッドアプローチ」は大きな武器になるはずです。


戦略的グループインタビューのススメ

筆者はまだ「N1分析」では心許ないので、実務の中では「グループインタビュー」を行うことが多いです。最後に筆者の行っている「グループインタビュー」を紹介します。
「グループインタビュー」の最大のメリットは文字通りグループであるということです。グループダイナミクスという心理学用語がありますが、集団において人の思考や行動は集団から影響を受け、また集団へ影響を与えるという考え方です。「グループインタビュー」においてもそのグループ内で、実際の生活と同じようなグループダイナミズムが起こります。つまり誰かの意見が他者にどれだけ影響を与えるかを確認するために行っています。

具体的に説明します。5名の「グループインタビュー」の場合、自社商品のロイヤルユーザー2名と他社商品のユーザー3名で構成します。自社商品のロイヤルユーザーには、自社商品の「特長・良さ・魅力」を語ってもらいます。この意見に対する他社商品ユーザーの反応を見ていきます。つまり何がどういう文脈で伝われば、他社ユーザーの興味・関心を喚起し、購入へ動かせるかを導き出したいわけです。リアルな口コミ、あるいはネット拡散につながる「情報のモト」の特定です。

実際のビジネスの現場では、当該商品への関与度の高いターゲットの意見を幅広く聞く「グループインタビュー」が行われています。アイデアハンティング的に実施することを否定するつもりはありませんが、自社製品のブランディング強化が目的の場合は、1グループの中に市場に近い集団を再現し、その後に必要になるアクションの手応えが得られるような戦略的なグループ設計が、成否を分けるポイントだと思います。

グループインタビューしているイメージ写真

[筆者プロフィール]

生山 久展

株式会社TCD ブランディングオーソリティー

戦略開発、調査・分析、商品開発、販促展開まで幅広いブランディング業務に従事。30年余の実務経験をベースに、的確な現状分析から本質的な課題解決のプランニングを得意とする。

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