2024.12.25

インナーブランディング実践編③
企業文化を醸成する、2つのシンプルなプロセス

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター


■社内に“自信”を与え、社外に“共感”を生む、デザイン経営


こちらでは、デザインの力を活かして経営や事業の推進力を高めたいリーダーに向けて、インナーブランディングの「運用フェーズ」について見ていきます。

インナーブランディングは、パーパスやMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を企業文化として定着させ、組織全体の一体感を高めることを目的としています。しかし、パーパスが名ばかりの“パーパスウォッシュ”に陥るケースも少なくありません。

そこで今回は、インナーブランディングを成功に導くための2つのシンプルなプロセスを解説していきます。この2つのプロセスを通じて、社員とのエンゲージメントが高めながら、組織全体で「ありたい姿」を目指す企業文化を醸成することが可能になります。



1. 社員との継続的な対話の場を設置する
2. 定期的な効果測定と改善を仕組み化する




1. 社員との継続的な対話の場を設置する

社員全員が同じ方向を向くためには、パーパスやMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を常に意識し、日々の業務に反映させることが不可欠です。最終的な目的は、パーパスやMVVを社員一人ひとりの行動指針として定着させ、企業文化にまで醸成していく必要があります。

しかし、先述した通り”パーパスウォッシュ”と揶揄されるように、パーパスが企業の中で宙に浮いた状態のまま放置され、実際の企業活動に反映できていないケースが多くあります。単に体裁の良いパーパスを掲げるだけでは、社員の共感も、顧客からの信頼も得られません。

そのような状況を避けるには、パーパスやMVVについて社員と継続的に対話する場を設けることが不可欠です。対話を通じて、社員がパーパスやMVVを深く理解し、またそれを自分の日常業務に結びつけることで、組織が一体となってその実現に向かうことができます。

以下に、継続的な対話を実現する具体的な手法をいくつか紹介します。


●定期的なワークショップの開催
例えば、部門横断のグループが集まり、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に基づいた課題解決セッションを行います。組織の共通課題に対して多角的な視点から解決策を検討し、MVVの理解を深め、実践的な行動につなげることができます。

●オープンな対話の実施
マネジメント層はMVVと現場とを繋ぐ重要な役割を果たします。例えば、1on1ミーティングなどを通じて現場社員へ的確なフィードバックを行い、MVVに沿った行動の定着を促していきます。

●オンラインプラットフォームの活用
社内SNSなどを活用し、MVV実践の好事例を共有するなど、日常的に社員の意識を高めます。また、ネット上に意見収集の場を設けることで、より積極的な場づくりを行っていきます。

●「パーパス(またはMVV)の日」の制定
月に一度パーパスについて考える日を設定する、部署ごとに具体的な行動計画を立案するなど、パーパスに対する取り組みを習慣化することで定着を図るとともに、実施内容のブラッシュアップを図っていきます。


ポイントは、3年、5年と続けていくことを前提に「社員との継続的な対話の場(=体制)」を構築することです。この場があってこそ、2つ目に挙げるプロセスの実行が可能になります。



2. 定期的な効果測定と改善を仕組み化する

インナーブランディングの取り組みを成功に導くには、その効果を定期的に測定し、継続的に改善していく必要があります。しかし、インナーブランディングの効果を図る指標が曖昧だったり、目標すら曖昧だったりすることはないでしょうか。

インナーブランディングを実施するにあたっては、適切な指標を設け効果を測定する必要があります。例えば、従業員満足度、エンゲージメントスコア、離職率などが代表的な指標として考えられます。これらの指標を定量的・定性的に測定することで、インナーブランディングの効果を具体的に把握することができます。

しかし、単に数値を追うだけでは不十分です。例えば、年に一度従業員満足度調査を実施しているが、その結果を単に報告書にまとめるだけで、具体的な改善アクションにつなげられていない。または、数値目標を追いかけるあまり、社員の本音や現場の実態を見逃してしまい、インナーブランディング活動自体が形骸化したなど、目的を見失ってしまっているケースもあります。

これらの失敗を避けるためには、初期段階で適切な指標を設定すること、そして定量・定性両面でデータの収集すること、そしてそれらを元に具体的な改善アクションを実行すること、これらを一連のセットとして仕組みにする必要があります。効果測定は単なる数字合わせではなく、あくまでも「ありたい姿」に近づいたのかという結果、そこに近づこうと行動したのかという組織文化への醸成度を見るべきです。

以下に、効果的な測定と改善を実現するための具体的な手法をいくつか紹介します。


●定量的指標の設定と測定
MVV理解度テストを実施することで、社員のMVVへの理解度を客観的に評価し、必要な改善策を講じることができます。また、エンゲージメントスコアを定期的に測定し、社員の組織への帰属意識や満足度を把握します。

●定性的フィードバックの収集
社員インタビューでは、MVVに関する詳細な意見や体験を直接聞き取り、具体的な改善点を把握します。また匿名アンケートでは、率直な意見を集め、組織の実態をより正確に把握できます。これら定性調査で得た洞察をMVV浸透策の改善に活用していきます。

●アクションプランの策定と実行
MVVをより現場に定着するために、部門ごとに具体的な行動計画を策定します。各部門の特性や課題を踏まえ、MVVをどのように業務に反映させるかを明確にします。

●成功事例の共有と表彰
MVV実践の優れた事例を全社で共有することで、他の社員に新しい気づきを与えます。また表彰制度を導入することで、社員のモチベーションを高め、MVVに基づく行動を尊重する企業文化を養っていきます。



何においても基本となる2つのプロセスですが、社員全員が同じ方向を向くには、こうした継続的な対話と効果測定・改善が鍵となります。これらの取り組みにより、社員一人ひとりがパーパスやMVVを自分の行動指針として捉え、組織全体の方向性に沿って行動することが企業文化として醸成されていきます。

社員一人ひとりが自社の目指す方向、「ありたい姿」をより深く理解することは、エンゲージメントの向上にもつながります。社員の自発的な行動やコミュニケーションが活性化し、目的意識が向上し、結果として、生産性も向上します。

インナーブランディングは一朝一夕には実現できません。長期的な視点を持ち、組織的かつ継続的に取り組むことでしか、企業に変革をもたらすことは出来ないのではないでしょうか。


[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

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