2023.10.26

パッケージデザインのススメ
〜芳香消臭パイオニアブランド・消臭元のリニューアル〜

福田 恵里 株式会社TCD チーフデザイナー

小林製薬株式会社の「消臭元」

パッケージの役割は、商品を保護したり使いやすくする「道具性」、消費者に商品の特徴や魅力を伝える「情報性」の2つに分けて説明することができます。

この「情報性」における部分が、パッケージデザインにあたる部分といえますが、これはただ見た目が良くキレイというだけでは成りたないのは勿論のこと、消費者に商品の機能や役割を伝えつつ、その商品の課題にミート出来ているかがポイントとなってきます。今回はその一例として、TCDでお手伝いさせていただいたあるブランドについてご紹介します。


小林製薬株式会社の「消臭元」は、日本を代表する芳香消臭剤ブランドとして1995年に誕生しました。お部屋用とトイレ用を展開しているこの商品を、皆さんも一度はご覧になったことがあるのではないでしょうか?長年、芳香消臭カテゴリーを牽引してきた本ブランドですが、それゆえ、ユーザーの年齢層も高くなっていました。そこで、基幹商品であるレギュラー消臭元のパッケージリニューアルが検討されることとなったのですが、単にデザインの若返りを図れば良いというわけではありませんでした。


社会の変化を反映したデザイン

リニューアルプロジェクトが始まった2022年は、コロナにより家族みんなで家にいる時間も増え、自宅での芳香消臭剤の役割や捉えられ方にも変化が起こった頃でした。おうち時間の増加に伴い求められたのは、「家族みんなに受け入れられる定番感・安心感」です。
具体的なクライアントからの要望としては、家族由来のニオイプロブレムをなんとかしたいという点から「消臭効果を感じさせる」ことや、きつい香りを苦手とした層も安心して買える「過度な香りは感じさせない」ことが、近年スメルハラスメントが問題視されている中での課題点として挙げられました。

これらを受け、リニューアルデザインではパッケージ上部に白場を設け、清潔感と消臭効果を表現。下部は背景を透明にし、ナチュラルなトーンのシズル写真を入れることで重すぎない優しい芳香のイメージを演出。求められている消臭と芳香のダブルの機能を、シンプルなデザイントーンで訴求しました。
若年層だけへ向けたリニューアルならば、たとえば可愛さや奇抜なデザイン性が求められるかもしれませんが、子供から親世代まで幅広く受け入れられるデザインがこのたびの条件であり、そこを外さない情緒性と機能性の表現の両立を心掛けました。


ロイヤルユーザーが離れないデザイン

リニューアルデザインをする中で特に注意すべき点は、ユーザーの中のブランドイメージを壊さないということです。
消臭元は長年、花のシズルがたっぷりと入った華やかなパッケージで消費者の目を楽しませてきました。また、パッケージ中央に入れている「消臭元」という黒色の漢字3文字の表記は、発売当初から守り続けてきたロゴです。
課題を解決するための思い切ったデザイン変更が必要になる場合もあります が、特に消臭元のようなブランドでは築き上げてきたブランド価値を引き継ぎ、純度を高めて時代に合わせてリファインすることが大切です。

今回のリニューアルでは、特にロイヤルユーザーに売れ行きが高い上位アイテムについては下部のシズル写真をほぼ現行イメージのまま採用。それ以外のアイテムに上記で述べた透明背景のデザインを採用することで新規性をアピールし、ロイヤルユーザーとエントリーユーザーの両方の獲得を、デザインを一部変えることによって達成しました。

ロゴマークについては、パイオニアブランドとしての自信と誇りを「Pioneer brand shoshugen since 1995」のコピーでロゴに組み込みました。

また、今までお部屋用とトイレ用とを容器形状の違いでしかアピール出来ておらず購入者を迷わせていた懸念点を、家とトイレのシルエットマークを据えることで、どの年代にも直感的に判断できるデザインとしました。

パーパスと3つのアイデンティティ

今回のコラムではパッケージデザインの「情報性」にまつわる事例をお届けしましたが、これはごく一例です。パッケージデザインは企業の想いを代弁するために、さまざまな切り口から適切な方法でその課題を達成するコミュニケーションツールとしての役割を担っています。サイズとしては小さいパッケージであっても、実はとても奥深く、多くの情報が込められたものなのです。


[筆者プロフィール]

福田 恵里

株式会社TCD チーフデザイナー

入社以来、化粧品から日用品まで幅広くパッケージ開発に携わる。課題を自分ゴト化し、クライアントに寄り添うことを心掛けている。クセの強い雑貨を集めるのが趣味。

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