データサイエンス × デザイン ~ 感性や感情のデータ化~

こちらの連載では、データサイエンスのデザイン制作分野への活用について、全三回にわたって考察してまいります。
第二回目の今回は、「感性や感情をどのようにデータ化して、デザイン制作に活かすのか」という点で、データサイエンス活用のトピックスを取り上げていこうと思います。


1.データサイエンス × デザイン 〜データの可視化と視線予測〜
2.データサイエンス × デザイン ~ 感性や感情のデータ化~


前回は第一回目としてデータの可視化をテーマに取り上げ、各国の視線予測サービスまでご紹介いたしました。こうしたアイトラッキングの手法は、視覚のうち「視線 (どこを見ているのか)」を可視化することでデザイン課題を明確化するのに役立ちます。
例えば目的のバナーをなかなかクリックしてもらえない時に、そのバナーを「見てクリックしなかったのか」あるいは「バナーをそもそも見ていなかったのか」いずれかの判別が付きます。これにより、前者の場合では、デザインやコピーを見直してよりクリックしたくなるクリエイティブに調整する改善策が浮かびます。また後者の場合は、もっと目に留まりやすい場所に設置しなおす案が採れます。
このようにアイトラッキングは「どの部分を、どれだけの時間、どの順番で見たのか」を定量的に把握することで、デザインのブラッシュアップに活用されていきます。

表情を分析することで気持ちを類推する

さて、デザインを制作するにあたっては、ユーザーが「どこを見ているのか」以外にもデザインを通じて「どういう印象を持ったか」、このデザインを見た時に「どういう気持ちになっているのか」ということも知りたいものです。

こうした生活者の気持ちについては「質問紙調査」や「グループ・インタビュー」などの手法で言語化していくことはできるものの、その本音の部分や言葉で表しにくい反応、或いは本人も無自覚の反応を収集することはビジネス上難しいところがありました。しかし最近では様々な技術革新やサービスの登場によって、生体反応の簡易な測定が可能になってきており、言語化・表面化がしにくかった「生活者の感情や感覚、潜在意識」を我々でも把握できるようになってきました。

中でも面白いのは表情分析の分野です。「目は口ほどに物を言う」という諺にもあるように、何もしゃべらなくとも目つきから相手の感情がわかることがあります。人間の喜怒哀楽を最も顕著に表す「目」は重要なファクターなのです。ただ、この場合の「目」とは冒頭のアイトラッキングで測る「視線」だけを指すのではなく、人間の表情全体を指しているのではないかなと思います。

この表情分析の分野にもAIや機械学習の技術が導入され、微細な人間の表情の移り変わりをリアルタイムに数値化できるようになってきています。


realeyes
画像出典:http://hubspot.realeyesit.com/emotion-metrics

例えばロンドンの「リアルアイズ」は、動画を見た視聴者の表情から感情を測定するサービスを提供されています。Webカメラに写された視聴者の表情をコンピュータービジョンとマシンラーニング(機械学習)で読み取り、感情を分析するというものです。

動画をダッシュボードにアップロードし、調査対象の地域や視聴者の分類を選び調査を掛けます。感情の変化を1秒1秒追跡できるため、コンテンツのどの部分が効果的でどこが不満だったかが明らかになります。また統計分析により地域別、性別、年齢別などでどの層が最も良い反応を示したかがわかるので、新たな視聴者の発見やターゲットの最適化に役立てることが出来ます。

こうした「表情分析」分野では、Appleが2016年にスイスのモーション・キャプチャー企業Faceshiftを買収したり、アメリカのEmotientを買収したりと、顔分析とAIの組み合わせに取り組まれているのかなと思います。

この分野が伸びてくれば、スマートフォンなどの端末で動画の配信前にコンテンツが与える感情効果をテストする事で、クリエイティブの調整を行ったり、有料メディアへの予算配分の調整をダイレクトにできるようになりますので、期待が高まりますね。

脳波を使って気持ちを類推する

表情以外の方法で、その人の気持ちを定量化する方法は無いものでしょうか。まだまだ研究室で使われているイメージがあるかもしれませんが、人間の脳波を簡易に測定して、そのデザインを見た時や製品・サービスを体験している時に「どう感じたか」という無意識の気持ちを定量化することはデザイン制作の分野でも実用化されています。


電通サイエンスジャム「感性アナライザ」
画像出典:https://kansei-analyzer.com/

より直接的に生活者の無意識を知る方法として、電通サイエンスジャムでは慶應義塾大学の満倉准教授と共に開発した、5つの感性(興味、好き、ストレス、集中、沈静)が分析可能な簡易型評価キットを提供されています。ヘッドギアとiPadのみで構成されており、持ち運びが可能なため、どこででも計測結果をリアルタイムにグラフで確認できます。


リトルソフトウェア「感性モジュールロガー」
画像出典:http://www.littlesoftware.jp/

リトルソフトウェアでは、生体センサー(脳波計,心拍計等のウェアラブル機器)からのデータを感情や感性に変換する「感性アルゴリズム」を開発され、大手の自動車会社、自動車関連会社、ロボット関連会社、テレビ局、音楽関連会社、大学など40社との共同研究・開発、アプリ提供を行っておられます。

どちらも比較的軽量なユニットを使用して感情や深層心理を数値化することにより、言葉にすることができない無意識の気持ちを定量化しています。こうしたニューロマーケティング分野の知見を活用しやすいサービスが、商品開発、クリエイティブテスト、費用対効果の確認などに利用されています。

その他のアプローチで感性や嗜好を類推する

表情や脳波以外のアプローチもまだまだあります。電気通信大学の坂本教授は、⼈が様々な質感や経験をオノマトペ(擬⾳語・擬態語)で表すことに着目して、⼈の感性と直接的に結びつく⾔葉に含まれる情報を客観的に定量評価するシステムを作っておられます。


電気通信大学 坂本研究室「オノマトペ感性評価システム」
画像出典:http://www.sakamoto-lab.hc.uec.ac.jp/9index.html

「ふわふわ」「さらさら」「しっとり」「もちもち」など様々なオノマトペは存在しますが、デザイン制作で「グループ・インタビュー」などを行っていると、こうした言葉で様々なデザインへの印象を表現される方々が非常に多くなります。そういった場面ではこうした評価システムはとても魅力的ですし、その言葉の感性に適した色彩を推薦してくれるデザイン支援システムなども提供されていますので、気持ちとデザインを直接的に結び付けてくれるツールにもなり得ます。

また、少し観点を変えて、パーソナルAIにユーザー一人ひとりの「嗜好・好み」 を学習させることで、感性を理解しやすくする取り組みもビジネス化されてきています。


カラフルボード「SENSY」
画像出典:https://www.colorful-board.com/

カラフルボードでは、「SENSY」というパーソナル人工知能プラットフォームを活用。エンドユーザー向けには、一人ひとりが自分のパーソナル人工知能を育てることで、ビジネス向けには、商品企画や需要予測・MD、マーケティングや接客・販売、カスタマーサポートなど、企業のバリューチェーンに沿うことで、より個人の感性に合ったサービスや情報を繋ぐサービスを提供されています。
感性や感情という個人や状況によって移り変わりやすいものを、ユーザー一人ひとりが蓄積していくプラットフォームを提供することで、そのビッグデータを解析するとデザインやクリエイティブへの改善点が浮き彫りになる。こういう成長が期待出来るものです。

以上、データサイエンスのデザイン制作分野への活用について、今回は感性や感情のデータ化をテーマにご紹介しました。デザイン制作の羅針盤として様々なサービスを活用していけるといいなと思います。

次回は第三回として、データを活かしてマーケティングを加速させていく「データドリブンマーケティング」に触れながらも、そこで忘れてはいけない「the Creative-X Factor」或いは「クリエイティブジャンプ」の領域を含めて、アイデア発想の分野に触れていきたいと思います。


[筆者プロフィール]西川将史 株式会社 TCD プランニングディレクター
心理学 × マーケティング × 写真 × デジタルガジェット × サッカー × 子煩悩 のコラボで、最近はデータサイエンス分野にも手を伸ばして楽しんでいます。