データサイエンス × デザイン ~ データ・ドリブン・マーケティング ~

こちらの連載では、データサイエンスのデザイン制作分野への活用について、全三回にわたって考察してまいります。
今回はデータサイエンス × デザインの最終回。データを活かしながらマーケティングを加速させる「データ・ドリブン・マーケティング」と、「クリエイティブXファクター」の分野に触れていきたいと思います。

様々なデータに基づいて判断・アクションする「データ・ドリブン・マーケティング」

以前より、様々なデータに基づいてビジネスの判断や行動がなされてきました。そして近年、デジタルマーケティング技術やビッグデータ解析技術などの発展に伴い、以前より多くのデータを判断材料に活用することができるようになっています。この流れから我々も、より費用対効果の高いアクションにつなげる為に「データ・ドリブン・マーケティング」の観点を活かしたクリエイティブ企画を求められることが増えてきました。 「データ・ドリブン・マーケティング」については以下の書籍が発刊され日本でも非常にわかりやすく説明されています。

データ・ドリブン・マーケティング
最低限知っておくべき15の指標
マーク・ジェフェリー著 ダイヤモンド社

画像出典:https://www.diamond.co.jp/book/9784478039632.html

  1. 自社を知ることで戦略目標を立て、データベースを構築し、分析することで顧客を知る。
  2. さらにそこから顧客分析を深め、顧客をセグメンテーションし、顧客ターゲティングを行う。
  3. こうして絞ったターゲットに対して「データ・ドリブン・マーケティング」の観点からマーケティングキャンペーンを行う。
  4. 顧客との信頼関係を構築し、新たな顧客情報データを蓄積していく。
  5. そして最後に各マーケティング指標を分析し成果をトラッキングする。

このように書くと、通常のマーケティング活動と同じフローに見えますね。これら各フェーズでデータ指標を活用し、効果のあるものとないものを合理的に判断し、効果のあるものに予算を集中させる。それを各活動を実施している間にも解析を継続しつつ、柔軟に軌道修正していく。このためにITインフラとツールを抜本的に見直し、複雑な市場環境をコントロールするための新しいスキルとアプローチを身に着けていく必要があると書かれています。
正しくデータを取り扱うための手法の習熟には時間もコストもかかりますし、データのみを判断指標にすることの課題もあります。このため、単純にデータドリブンを万能のアプローチ方法と考えることはできませんが、マーケティングパフォーマンスを向上させるために取り組むアプローチの一つだと思います。

Real-Time Data-driven Creative (RDC) を活用した日本マクドナルドの事例

少し前の事例になりますが、2015年にGoogle AdWordsがデモグラフィック情報に加えて、天気、場所、降水量、花粉飛散量、POSデータなど、オフラインのデータを自由に取り込み、インプレッションごとに最適なバナー広告を自動的に作って配信する「リアルタイム・データドリブン・クリエイティブ(RDC)」という仕組みを構築されました。クリエイティブのパーツを用意しておけば、各データ状況に対応するパーツをリアルタイムに組み合わせて、数万種類のバナー広告を自動生成する事ができるというものです。

以下の動画では日本マクドナルドが2015年夏の新メニュー展開時に、この仕組みを活用したキャンペーン事例が紹介されています。全国の店舗売上げデータと天候インデックスから、場所・時間・天気・気温など、それぞれの状況に応じて好まれる商品をリアルタイムで分析し、一人ひとりに最適なオススメ商品のバナー広告を生成、配信しました。結果、クリック率は通常のバナー広告の3倍を記録し、クーポンの利用率は通常時の1.5倍でした。


画像出典:https://youtu.be/0gEkyoEm8-A

クーポンの利用率というのは、「バナークリック」→「キャンペーンページ」→「モバイルアプリ」へと移動した人が、実際にクーポンをレジで提示した率のことです。これが1.5倍という事は「最適なタイミングで」「最適なメッセージを」「最適なターゲットに」届けることができているということだと思います。

マーケティングのもうひとつの側面「クリエイティブXファクター」

こうしたデータを活用してマーケティングパフォーマンスを改善する以外にも、「クリエイティブXファクター」という要素が重要だと本書では示唆されています。この「クリエイティブXファクター」をどのように理解すれば良いかという解釈には諸説ありますが、私は広告業界で昔から言われている「クリエイティブ・ジャンプ」をデータトラッキングできるようにしたものだと考えています。

「クリエイティブ・ジャンプ」とは、これまでのマーケティング活動であらかじめ予想できる成果を、観点やアイデアの飛躍を持ったクリエイティブ表現の力によって大きく逸脱し、マーケティング成果を大成功させることを言います。弊社では「ガラガラポン」と表現されることも多いのですが、この飛躍した切り口を考えられるようになるには、これまで経験や感覚による発想転換法の習熟が必要とされてきました。

こうした経験的な転換法とそこから生まれたアイデアの効果をデータトラッキングや顧客データ活用の観点を取り入れてブラッシュアップし、インターネットやモバイル活用での相乗的なクリエイティブアイデアと結びつけることを「クリエイティブXファクター」と呼んでいるのだと思います。

再び古い事例ですが、自動車メーカーのHONDAが2014年に実施したキャンペーン、 「Sound of Honda – Ayrton Senna 1989」を覚えていますでしょうか?
このキャンペーンは、有名なF1レーサーの故人「アイルトン・セナ」が24年前に鈴鹿サーキットで残した走行データを解析し、エンジン音や3D技術を使って走行軌跡を再現したキャンペーンです。走行データを伝説的なドライバーの足跡と捉えて、彼がそのサーキットに存在していたことを正確に再現していることが、単なる無機的なデータの表現ではなく、情緒的でファンの心に響くストーリーを生み出している面白いキャンペーンでした。

もう既にキャンペーンサイトは閉じられていますが、2014年度グッドデザイン賞のデザイナーズ・プレゼンテーション動画は現在もYoutubeに上げられていますので、こちらから当時のクリエイター達の考えを伺うことができます。


画像出典:https://youtu.be/4hdZt7WNAG8

キャンペーンの考え方は動画の1:00辺りから
Sound of Honda – Ayrton Senna 1989の動画は5:00辺りから

モノづくりメーカーならではの蓄積されたデータの活用ですので、どの企業にも一様に当てはめることはできません。しかし当時に、これを拝見した時に、データ活用はデータトラッキングの蓄積で単に未来を高精度に予測するだけでなく、そこにストーリー性やファンとの共通感覚が存在すれば、そのデータそのものが新たな顧客体験やサービスをつくることができるのではないかと大変興味を持ちました。このようなデータにストーリー性を持たせて、エモーショナルなクリエイティブを行う。これが、一つのデータサイエンス×デザインの型になるのではないかと思います。

自社保有の技術シーズやデータが、顧客の共感を得られるものかどうか、マーケティングイノベーションを起こし得るものになるのかどうか。こういった点での検証が今後求められてくると思いますが、方法については詳細を書き出すと長くなるので、また別稿でご紹介できればと思います。
以上、データサイエンスのデザイン制作分野への活用について、今回はデータ・ドリブン・マーケティングをテーマにご紹介しました。我々もデータサイエンスの領域とクリエイティブの領域とを融合させ、効果的なマーケティング活動に繋げてまいります。


[筆者プロフィール]西川将史 株式会社 TCD プランニングディレクター
心理学 × マーケティング × 写真 × デジタルガジェット × サッカー × 子煩悩 のコラボで、最近はデータサイエンス分野にも手を伸ばして楽しんでいます。