2017.06.07

色彩のみからなる商標 ~弁理士さんに聞きました~

西川将史 株式会社TCD プランナー

2017年3月1日に、特許庁が「色彩のみからなる商標」について初めて日本での登録を認めたと発表しました。

今回登録が認められたのは、トンボ鉛筆の16類/消しゴムで用いられている「黒、白、青」の色彩と、セブンイレブン・ジャパンの35類で用いられている「白地に赤、緑、オレンジ」の色彩の2件です。

出典:経済産業省「色彩のみからなる商標について初の登録を行います 別紙関連資料PDF」より

わたしたちTCDもブランディングの観点から新しいタイプの商標について動向を注視しています。
今回は登録された2件の商標事例を中心に、TCDのパートナーである有古特許事務所の弁理士、鈴木先生にお話を伺いました。

色彩のみからなる商標とは

はじめに「色彩のみからなる商標」とはどのような商標でしょうか?
単色または複数の色の組合せだけの商標をいいます。新しいタイプの商標の一つとして、2015年4月から特許庁で出願受付が開始されました。
どのような商標が「色彩のみからなる商標」と見なされるのでしょうか?

●色彩を組み合わせてなる商標の商標見本として認められるもの

文字や図形が含まれない、色彩のみを構成要素とする商標ということになります。例えば、包装や看板に使用される色彩のみの部分です。文字や図形に色がついた商標とは区別されます。「色彩のみからなる商標」といっても、色の組合せからなるものがありますから、色を直線的に組み合わせる場合、曲線的に組み合わせる場合、そして、グラデーションの場合もあります。


出典:特許庁「商標審査便覧 54.01 色彩のみからなる商標の願書への記載(商標の記載)について」3頁

●色彩を組み合わせてなる商標の商標見本として認められないもの
色彩を組み合わせることで何らかの文字や図形をはっきりと認識させるものは従来から認められていましたので、定義上は「色彩のみからなる商標」とは見なされません。


出典:特許庁「商標審査便覧 54.01 色彩のみからなる商標の願書への記載(商標の記載)について」3頁

もう一つ、「色彩のみからなる商標」には、商品等における位置を特定する場合も含まれます。例えばバッグの持ち手の部分を青にするとか、カメラのシャッターボタンの部分を赤にするような場合です。

「色彩のみからなる商標」の登録について

「色彩のみからなる商標」の登録が認められるのはどのような場合でしょうか?
簡単に言えば、色彩だけでも識別力がある場合、つまり、他の商標と区別できて商品やサービスの目印になる場合です。「色彩のみ」とは言っても、複数の色の組合せには、その境界の部分に直線や曲線、グラデーションなど、形や模様の要素が入ってきますから、一般に識別力が認められやすいといえます。今回初めて商標登録が認められたトンボ鉛筆とセブンイレブンの商標はいずれも複数の色の組合せからなる商標で、単色の色彩商標と比べ、はるかに登録のハードルは低かったということができます。
では逆に、どういった場合には登録が認められないのでしょうか?
先の答えの反対になりますが、色彩だけでは自他商品等の識別力を発揮できない場合、そして、実際に使用されていても、その色彩の部分だけが独立して識別力を発揮していないような場合です。
具体的には、商品等の特徴を示す色彩のみからなる商標、例えば、商品が通常有する色彩、商品の機能を確保するために通常使用されるか不可欠な色彩 、商品の魅力向上に通常使用される色彩等は、商標登録が認められません。
また、審査基準によれば、「商品に通常使用されてはいないが、使用され得る色彩」、つまり、使用される可能性があるだけで拒絶の対象になりますので、どんなに特殊な色、微妙な色でも単色の商標はそれだけでは登録されないことになります。

今回、これら2件の「色彩のみからなる商標」の登録が認められたのはどういった点にポイントがあるのでしょうか?
これらの商標は、どちらも比較的シンプルな構成とはいえ、複数の色彩を組み合わせたものです。ただ、その色やストライプの数には差があります。
トンボ鉛筆の商標は「青・白・黒」の3本のストライプ、セブンイレブンは上下の白も商標を構成する要素に含まれ 「白・橙・白・緑・白・赤・白」の7本のストライプからなり、真ん中の緑のストライプが少し太くなっています。
いずれも識別力を欠くとの拒絶理由通知を受け、意見書で反論、証拠提出・補充のうえ、審査官と面接等のやりとりを経て、最終的に登録査定されていますが、出願書類を取り寄せてみますと、登録の認められ方が異なっています。

トンボ鉛筆の商標はその構成に識別力は認められず、商標法3条2項の「使用による識別性」の適用を受けることで登録されているのに対し、セブンイレブンの方はその適用は受けずに、商標の構成自体に識別力が認められています。即断はできませんが、この違いは、セブンイレブンの商標の方がやや複雑な構成をしていることと無関係ではないと思います。他の登録例も見ていく必要がありますが、一応の暫定的な基準として、トンボ鉛筆と同程度の色彩商標は「使用による識別性」の適用がないと登録が難しいといえます。
今後は、もっと単純な「色彩のみからなる商標」についても登録が認められる可能性がありますが、その場合は3条2項の適用を受ける必要があり、そのハードルは相当に高くなるでしょう。単色の場合は特にそうで、消費者がその色を見れば出所が想起できるだけでは足りず「他の人がその色を同様の商品に使えなくなっても仕方がない」程の状況になる必要があります。少し想像を絶するぐらいに高いハードルです。

今回の登録以前から似たような商標を使用している別の事業者はどうすればよいのでしょうか?
ご承知のとおり、商標は特定の商品や役務について使用されるものなので、単に、他人が似たような商標について登録を受けたからといって、類似しない商品や役務について以前から使用していた自分の商標が使用できなくなるわけではありません。
また、仮に他人が商標登録を受けたのが同一または類似の商品等であったとしても、2015年4月1日の新制度の施行日前から使用している商標については、継続的使用権として、従来の業務範囲内で使い続けることができます(附則5条3項)。自分の商標が周知になっている場合は、さらにその範囲を超えて、継続的使用権が認められます(附則5条5項)。ただし、「不正競争の目的でなく」商標を使用していることが必要です。

セブンイレブンの登録は35類となっていますが、この登録商標はどの辺りにまで保護を受けることが出来るのでしょうか?
ご指摘のとおり、トンボ鉛筆の商標登録の指定商品が「消しゴム」だけであるのに対し、セブンイレブンの指定役務はコンビニで扱う各種商品の小売等役務なので、その範囲は非常に広いとも言えます。ただし、商品商標と小売等役務商標は同じではなく、小売等対象の商品について、商品商標で登録されたのと同じ保護が認められるわけではありません。
裁判例はないのですが、少なくとも特許庁は、商品商標と小売等役務商標はその使用態様によってどちらか一方に分類されると考えているようです。例えば、店の看板や買い物カゴ、店員の制服などに商標を付した場合は小売役務商標として使用されている、ということになります。商品そのものに商標を付す場合は商品商標です。

微妙な事例は出てくるでしょうが、セブンイレブンの色彩商標が今回登録されたからと言って、それと同一または類似の色彩を商品に使うことや、その包装・値札等に使うことが直ちに禁じられるわけではありません。この点は「色彩のみからなる商標」に限らず、商標一般に当てはまることです。
逆に言えば、色彩商標の保護についても、その使用によって出所混同を生じるおそれがあるのか、という原点に立ち返って判断する必要があります。また今回、セブンイレブンとトンボ鉛筆の色彩商標が登録されたということは、実際上、かなりの周知著名性が認められたということですので、不正競争防止法の観点からも使用に問題がないか見ておく必要があります。商標法上の類似商品・役務に該当しないとしても、不正競争行為(周知表示混同惹起行為、著名表示冒用行為)に該当しないかの観点が必要になるでしょう。
商標の類似性については、例えば、今回登録になった色彩商標の色の順番を単に入れ替えただけでは出所混同を生ずるおそれが十分にありますので、商標権の侵害になる可能性が高いのではないかと思います。

出願するにあたっての注意点

今後企業が「色彩のみからなる商標」を出願するにあたって、注意しておくべきポイントはどのようなものがあるでしょうか?
審査基準によれば、「色彩のみからなる商標」は、原則として識別力がないものとして扱われますので、出願すれば必ず拒絶理由が通知され、それに対して反論する必要があることになります。商標の構成に識別力があることだけを主張しても認められない可能性が高いので、出願前の段階から、使用証拠を提出する心構えと、具体的な準備が必要です。
具体的な準備としては、使用証拠を集め、ちゃんと記録しておくことが重要ですが、その前提として、実際に使用している商標と出願商標の色合い等を合致させ、統一しておく必要があります。色彩の組合せの場合は使用商標と出願商標の配色の割合も一致させ、位置を特定する場合はそれも同じになるよう、CIマニュアル等で徹底しておくことも必要です。これらが一致しないと使用証拠として採用されず、商標登録は困難になりますので、注意が必要です。

ただ、商標登録が認められなかったからといって、その色彩が使用できないということにはなりませんので、再出願も視野に置き、使用実績をしっかりと積んでおくことをお勧めします。

今回の登録事例は企業のブランド戦略にどのような影響を与えるでしょうか?
今回の具体的な登録事例によって、商標登録が認められる商標の構成、使用期間、使用量、広告宣伝の規模、販売シェア、需要者の認識度等について尺度が示されましたので、色彩商標の登録要件について予測可能性が確実に高まりました。少なくとも今回と同等の基準をクリアすれば、自社の色彩商標も登録され得ることになります。
色彩商標に商標権が与えられるようになったのに伴い、今後、企業がコーポレートカラーをブランドとして保護していく機運が高まり、権利取得の要請だけでなく、関連する係争も増えていくことは確実だと思います。色彩商標の権利範囲については、すぐに類否判断や裁判例が積み重ねられることはありませんので、出所混同の防止という商標法の原則に立ち返って個別に判断していくしかなさそうです。また、先に述べたように、不正競争防止法の観点も重要です。

色彩のブランドとしての訴求力は文字よりも直接的ですが、その類似範囲は曖昧にならざるを得ません。したがって、自社のカラーを一貫性をもって使用し、権利化していくのと同時に、他社の動向については業種を超えて見ていく必要もあると思います。業種が違っていても、同じような色彩商標が使用されたり、登録されたりした場合、自社の商標の登録性や権利範囲に影響を与える可能性があるためです。
今後は、色彩を企業イメージの中心に位置付けてブランド戦略を立てていく企業も増えていくだろうと思います。引き続き、登録事例や、関連する係争事件をフォローしていく必要があります。


いかがでしたか。基本的な内容から多くの知見、より実務に踏み込んだ内容までしっかりとお話しいただくことが出来ました。今後も第3、第4の登録実績が出てくると思いますが、引き続き今後の動向に注目していきたいと思います。鈴木先生ありがとうございました。


[インタビュー協力]
特許業務法人 有古特許事務所 弁理士 鈴木康裕
有古特許事務所は1926年に神戸で開業。所員60余名の大規模特許事務所。 商標業務は、国内は年間200件以上、海外は300~500件の 出願に対応。
有古特許事務所:http://www.arco.chuo.kobe.jp/

[筆者プロフィール]

西川将史

株式会社TCD プランナー

心理学 × マーケティング × 写真 × デジタルガジェット × サッカー × 子煩悩 のコラボで、最近はデータサイエンス分野にも手を伸ばして楽しんでいます。

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