ネーミングと商標 003:グローバルでのブランドネーミング開発における3つのポイント

これまで2回に亘って開発コードネームを媒介に、ネーミングと商標のトピックスを考えてきました。1回目は、本来なら社内で消えてしまうはずの開発コードネームを製品名に正式昇格させたものの、他社の商標権に影響を受けて変更せざるを得なかった事例。2回目は、自社の開発コードネームに他社の商標を活用することでコミュニケーション効果を向上させた事例でした。どちらも商標を積極的に活用することで、ブランディングのスピード向上を狙っていましたが、結果は正反対の展開。こういったダイナミックに商標権が絡んだブランディングの事例は、日本企業よりも、米国企業のコミュニケーション展開に多く見られるのではないでしょうか。今回はネーミングと商標をテーマにした記事の最終回として、ブランディングを加速させる上でのネーミング開発に関するポイントについて考えを深めていきたいと思います。

ブランディング会社として様々なネーミングを開発するにあたり、近年では特にグローバルネーミングの依頼が多くなってきました。日本市場に限定した商品やサービスではなく、当初から海外での事業展開も視野に入れてネーミング開発を進めていきたいという依頼です。この時、商標面とネーミング面で注意しておきたいポイントを3つ挙げたいと思います。

1:展開する国によって商標権の考え方が違う事
2:開発時には「個性の一貫性」を明確にする事
3:登録商標のデータベースだけでなく、Googleなどの検索エンジンでも一般検索を掛けておく事


1:展開する国によって商標権の考え方が違う事

まずは1つめのポイントについて。
商標権に対する考え方は国によって細かく違います。これまで事例に出てきたMicrosoft社やGoogle社が本社を置く米国と、我々が住む日本とでも商標権に関する基本的な考え方が違います。簡単に説明すると「商標権は商標の使用により発生すると考えられている国」が米国であり、「商標権は商標登録により発生すると考えられている国」が日本です。

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米国では2014年1月に「π.」という商標がアパレル分野で登録されて話題になりました。ほぼ記号1文字に見える商標なので登録主義の日本では正直取得は厳しいのでは?と思います。しかし、根本的に「その商標が使われていること」に重きを置いている米国では、First Useの2009年1月22日から数えると約5年、Use in Commerce(複数の州又は外国関連での使用)の2010年1月22日から数えると約4年の使用実績を確認し、2012年の審査開始からおおよそ2年を経て登録に至っています。登録後は様々な権利行使を行って話題をさらい、今後の展開が注目されています。グローバルネーミングの開発時にもこういった、展開国によって権利化可能な商標の範囲の考え方が自国と違うという点は意識しておきたいポイントです。


2:開発時には「個性の一貫性」を明確にする事

2つめのポイントについて。
ブランディングはそのブランドのファンを作り出す永続的な活動だと考えれば、ネーミングはその商品やサービスを言語的に一貫性を保って浸透させるための一つの要素です。そして当たり前の話ですが、その商標を見る人の頭の中に印象づけるためには幾つか方法があり、「個性的で引っ掛かりのあるネーミング」も重要ですが、「何度見ても違和感のないネーミング」というのも考え方の一つだと思います。上記の「π.」は後者の事例だと思います。ネーミングが「短く」「シンプルで」「誰でも知っている言葉」で構成されている。アパレル分野という事もあってか、これだけシンプルであるがゆえに却って個性を主張しているようにも思えます。
しかし、こういったシンプルなネーミングは誰もが採用したがりますので、商標権取得の難易度は高い。さらに、シンプルであればあるほど他社との違いを想起させにくいというジレンマを抱えます。
そこで、その商品やサービスにおいて「個性の一貫性」をどのように付加させればよいか、ということを開発時に事前に整理し、それからアイデアを出していくのがポイントだと思います。
例えばApple社が今度はiWatchという商標の取得を世界中で目指していますが、iPhone, iPad, iPod, iOS, iWatch …..この事例の「個性」については一目瞭然ですね。また 前回のGoogle Android は開発コードネームですが同じことが言えます。「アルファベット順で始まるお菓子の名前」なら、シリーズで継続して開発する際にもアイデンティティを保ちやすい。また、一般的なお菓子の名前なので誰でも知っている。そして、開発チームからコードネームのアイデアが出てきたものが「KitKat」。他社の商標だが権利交渉をして許可が貰えれば、コミュニケーション効果が見込める。Microsoft社のようにトラブルが発生したのであれば、サービスコンセプトに立ち返って代替案を用意すればいい。
こういった「個性の一貫性」の面を考えても、使用主義のスタンスを頭に入れて開発に臨めば継続的なコミュニケーション展開のイメージも湧きやすく、使用の実績を作りやすいのではないかと思います。


3:登録商標のデータベースだけでなく、Googleなどの検索エンジンでも一般検索を掛けておく事

TCDではブランディング会社として、ネーミング案は必ず自分達で特許庁データベースなどを活用して事前に類似チェックを行ってから提案するようにしています。ただその際、グローバル展開を前提としたネーミング開発時には、国内展開以上にGoogleやBingなどでの一般キーワード検索に多くの注意を払っています。この理由もこれまで話題にしてきた「使用主義」というものが関係してきます。未登録の商標であったとしても、出願中で審査待ちの状況であるかもしれませんし、自分達が使用開始するより前に使われているのであれば、その後問題が発生するリスクが高くなってきます。こうした気づきにくい類似商標でも事前にできるだけ確認しておくことで、将来的に商標の使用を中止せざるを得ない状況を回避し、それまでに費やしてきた様々なブランディングへの投資を水の泡にしてしまわないよう細心の注意を払います。ただ何度も言いますが、ブランディングでは商標権を押さえることが目的ではなく、その商品やサービスのファンを増やし、相手の頭の中に定着させることが目的ですので、ダイナミックなコミュニケーション展開やオープンな商標マインドを持って、ブランドの可能性を失わないバランス感覚も重要です。

以上、グローバルでのネーミング開発における3つのポイントを商標を中心に見てきました。登録主義の日本から見て注意しておきたい点を中心にまとめましたので、使用主義国の考え方のポイントに偏っていますが、根本的にどちらが優れているといった話ではありませんので、その点に留意頂ければと思います。
ただ、ブランドを広げて行こうという意識に関して言えば、先に登録して他社が使えないように安全圏を確保してからビジネス展開する日本企業よりも、権利化はミニマムなところから順次登録拡大していき、ビジネスに応じて拡大解釈させて権利行使をしていくという米国企業のほうが圧倒的に強く見えてしまいます。
ブランディング会社のプランナーとして、今後もこういったしたたかでダイナミックな戦略を取っている企業からエッセンスを抽出できるよう、引き続き注目していきたいと思います。


[筆者プロフィール]西川将史 株式会社 TCD チーフプランナー
心理学 × マーケティング × 写真 × デジタルガジェット × サッカー × 子煩悩 ×のコラボでブランドプランニングをオモシロク。甘党。