2024.06.27
業界の課題にイノベーションを起こす「ツキ板」の商品ブランディング
大和ツキ板産業株式会社「FORESTERIOR(フォレステリア)」
日比 秀一 株式会社TCD デザインディレクター
皆様は「ツキ板」をご存知でしょうか。
「ツキ板」とは木材を0.2mmという薄さでスライスしたシート状のもので、それを基材に練り付けた※ツキ板化粧合板は天然木の美しさや質感をそのままに、無垢材に比べて重量やコストを抑えながら、反りや割れなども起こらない材料・建材として広く活用されています。(※貼り付けること)
今回TCDがお手伝いさせてただいた大和ツキ板産業株式会社は、長年にわたり培った技術と経験を活かし、高品質なツキ板化粧合板を製造しています。
無垢材に比べて安価とはいえ、丸太からスライスされたツキ板を丁寧に選定・加工し時間と労力をかけて作られる化粧合板は、空間デザイナーの世界では一般的に高価で特別なものであり、その施工も難易度が高いという認識がありました。
また近年の技術の進化とともに内装材も変化しています。安価に入手できて同じものが安定的に供給される塩化ビニール製木目調のプリントシートが台頭するケースも増えつつあり、ツキ板業界にとっても脅威となりつつあります。
本物の木が持つ「温もり」や、時が経つごとに味わい深く変化する「風合い」を、より多くの人に体感して欲しい。そしてツキ板で持続可能な未来に貢献し、様々な空間をより魅力的に演出したい。
そんな想いから大和ツキ板産業様の「FORESTERIOR」はスタートしました。
我々はそのコンセプトを整理することから参画。
商品デザイン開発、ブランドサイトやプロモーションツール、展示会プロデュースとトータルでサポート。
実に1年に及ぶプロジェクト支援となりました。
使うひとに聞く
絶えず新しい業界に触れ合う我々が商品デザイン、商品ブランディングを行う上で重要としていることがあります。それは現場の声を聞くことです。
「建材」というジャンルも我々にとって初めての業界体験で、何の知識もなければ肌感覚も当然ありませんでした。
そこで我々は、社外クリエイティブパートナーとしてかねてより協力関係を結んでいた空間デザイナーに協力を依頼。いちユーザーでもある設計当事者として、また現場の声を知るアドバイザーとしてプロジェクトメンバーに加わっていただくこととしました。それは製品設計する際のインサイトを引き出す大きな手助けとなりましたし、それだけでなく自身が使いたいプロダクトを自らデザインするということにもチャレンジしていただきました。
結果的にこの取り組みによって生み出されたプロダクトは建築設計士、店舗設計者など同業のデザイナーからも評価を得ることができ、ブランドにとって多大なる貢献を生むこととなりました。
現場から見えてくるインサイト
ツキ板を用いた天然木化粧合板づくりは、その制作過程において約50%※が「端材」となります。
(※大和ツキ板社内調べ テーマにより変動)
また、従来美しいとされる基準に満たないツキ板も存在し、その多くは長年倉庫に眠ったままとのこと。
化粧合板の製造工場を見学させていただいた際に、規格からはみ出て切り落とされた端材が廃棄されていく状況を目の当たりにし、大変驚くと共に「まだ美しい状態のツキ板の端材を活かすことはできないか」と強く感じました。
お話を伺う中で、製造スタッフの皆さんもどこかで「もったいないなぁ…」「これらを活かす方法はないものか…」と思われていたという、製造従事するうちに隠れてしまった“思い”も明らかになってきました。
我々が初めに思った事と、社内スタッフが感じつつ、いつしか忘れてしまっていた思いが一致。ブランドのテーマが定まった瞬間でした。
「デザイン×アップサイクル」という答え
「端材」や「未利用材」を空間デザイナーや我々プロダクトデザイナー、グラフィックデザイナーの感性によって「商材」に変え、その先の空間に新たな価値を与える。
この「デザイン×アップサイクル」を「FORESTERIOR」のコンセプトとし、我々はこのブランドの商品を使う当事者が積極的に活用しやすい商品設計を話し合いました。また、質の高いデザインと長年の経験で培った大和ツキ板産業の技術力を掛け合わせ、試作とレビューを幾度となく繰り返し、今までにないアップサイクルプロダクトを結果的に100種以上※生み出すことに成功。(※カラー展開も含む)
2024年3月に開催された「JAPAN SHOP 2024」でお披露目となった「FORESTERIOR」のプロダクトをご覧になった来場者の皆様は口を揃えて、「“アップサイクル建材”の種類が少ない中で、新たな検討候補が出てきて喜ばしい」とおっしゃっていただけました。
展示計画、ブースデザインも協力
その昔、近江商人が謳った<売り手/買い手/社会>がよくなる「三方良し」とはよく聞く話で、当然「FORESTERIOR」の取り組みはこれを実現していると感じているのですが、ブランドの成長とともに<つくり手>のマインドにも良い影響を与えられる。つまりインナーブランディングにも寄与することや、さらには<ツキ板業界>全体の未利用材や端材の活用という課題の解決も視野に入れられる。
「FORESTERIOR」は「五方良し」なブランドになれると信じてやみません。
FORESTERIOR
https://foresterior.jp/
大和ツキ板産業株式会社
https://daiwa-tsukiita.co.jp/
[筆者プロフィール]
日比 秀一
株式会社TCD デザインディレクター
ユーザーインサイト調査からコンセプト作り、プロダクト&パッケージデザインまでモノづくりをトータルでサポート。製品に関わる人が「心地よい満足」を得られる様に常に心掛けている。