2025.08.29
調査が示した、理念が「伝わらない理由」と「響く設計」への進化
鎌尾 典明 株式会社TCD クリエイティブディレクター

理念はある。けれど、語られていない──
企業理念を策定しても、社員に浸透していない──そう感じている経営層やブランド担当者は少なくありません。実際、TCDが実施した最新の調査でも、以下のようなギャップが明らかになりました。
●企業理念に「とても共感している」と答えた経営層:47.1%
●企業理念に「とても共感している」と答えた正社員:7.6%

同じ理念を掲げていても、その“実感の濃度”はここまで違う。このギャップを放置したままでは、理念は“掲げるだけの言葉”になってしまいます。
経営層にとっては「実感のある言葉」、一般社員にとっては「遠くて抽象的な言葉」
経営層が理念に強く共感できるのは、次のような背景があります。
●背景を知っている
策定の経緯や意味を深く理解している
●意思決定と結びついている
理念が日々の判断の軸になっている
●物語として理解している
未来の戦略ストーリーとして位置づけられている
理念は、経営層にとって“使われる言葉”として日常に存在しています。一方で、社員の視点から見ると、理念はこう映ります。
●抽象的すぎる
言葉としては美しいが、自身の業務や役割との結びつきが見えない
●現場と接続していない
経営目線では理解できても、日々の業務に落ちない
●自分ごとにならない
語る機会もなければ、行動の根拠にもなっていない
調査でも、理念を「日々の業務で意識している」と答えた社員は7.6%にとどまりました。理念が組織にあっても、“思い出されていない”のです。

理念を“実効性のある言葉”として開発するための3つの視点
理念をただ「美しい言葉」として整えるのではなく、“語りたくなる・自分ごとになる言葉”として設計するために、TCDでは次の3点を重視しています。
1 思い出せるシンプルさ
誰でも一度で覚えられる。新人でも、現場でも、日常語として使える。抽象語やわかりにくい横文字を避け、意味がすぐに届く“平熱の言葉”にすること。
2 ワクワクできる未来像
心が動く。語るだけで前を向ける。「やってみたい」と思える未来の手触りがあるか。理念は“内発的な動機”を引き出す力を持つべきです。
3 “ならでは”の独自性
その企業らしさがにじむ。他社でも言えそうな言葉ではなく、自社の価値観や歩みと響き合う表現になっているか。誰が語っても「自社らしい」と思えること。
言葉が変われば、判断が変わり、文化が変わる
こうした分かりやすい理念が根づくと、社員の行動に軸が生まれ、チームに方向性が生まれます。判断が揃い、語る言葉が重なって、それが組織の文化となっていきます。
また、理念を開発したあとは、それが日常のなかで思い出されるような場面やしくみを設けることも大切です。朝礼や1on1の会話、人事評価基準など、ふとした接点で理念に触れる機会をつくることで、言葉は“掲げるもの”から“使われるもの”へと育っていきます。
理念が、社員一人ひとりの言葉として息づいているか──その問いこそが、これからの理念経営の出発点なのかもしれません。
[筆者プロフィール]
鎌尾 典明
株式会社TCD クリエイティブディレクター
企業ブランディングから商品ブランディングまで。実効性の高い提案で、足腰の強いブランド開発をめざす。