2025.04.18
デザイナーが実践する、「感性」を磨く3つの習慣
〜デザイン徒然②
川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

社内に“自信”を与え、社外に“共感”を生む、デザイン経営。
こちらでは、デザイン、ブランディング、マーケティングに取り組む上でのヒントを、それらの枠を超えた視点で探っていきます。固定観念にとらわれず、新たな発想を生み出すきっかけになれば幸いです。
今回は『デザイン思考』について、実際に現場で活動するデザイナーの視点から、掘り下げてみたいと思います。
私たちが実際にデザインしたり、様々な試行錯誤から得られる経験は、ビジネスでどう応用できるのか考えてみましょう。
■「デザイン思考」の誤解
デザイン思考(デザインシンキング)は、もともとデザイナーやクリエイターが実践してきた思考プロセスを、ビジネスや社会の課題解決に応用しようとして生まれました。
ユーザーを観察し、共感し、アイデアを出し、試作と検証を繰り返すことで課題を解決する──そうしたフレームワークとして、今では様々な企業や教育機関で取り入れられています。
しかし、いちデザイナーとしては、ふとこんな疑問が浮かんでしまいます。
「デザイナーの“思考”に、どんな価値があるのだろうか?」
「デザイナーの“プロセス”を、ビジネスでどう活用できるのだろうか?」
また、「デザイン思考は誰でも実践できる」と言われながらも、「やってみたけれど成果に差が出る」という声も聞こえてきます。
そもそもデザイナーの思考プロセスに価値があるなら、“思考プロセス”よりも、“デザイナー”自体に注目した方が理解が深まるのでは?
そこで、現場のいち“デザイナー”として「デザイナーとは何者か?」を紐解いてみたいと思います。
■“情緒的判断”こそがデザイン思考のキモ
ここで言うデザイナーとは、「絵が上手に描ける」などの技能的な話は置いておきます。
やや抽象的な言い方になりますが、デザイナーの資質を支えているのは「感性の蓄積」なのではないでしょうか。
営業職であれば、セールストークや営業手法にアンテナを張っているでしょう。開発者であれば、新しい素材や技術にアンテナを張っているはずです。
ではデザイナーはというと、デザインだけでなく、デザインが人に与える影響──つまり、人が「どのように感じるか」に注目し、人の「感情の動き」にアンテナを張っています。
実際私も、さまざまなプロジェクトに関わる中で、またユーザー調査などを通して、色々なユーザー像に想像を張り巡らせます。それはそれぞれの“感じ方”を擬似体験しているようなもので、観察力が養われます。
たとえば、子ども向けの商品であれば、子どもの目線で、子どもの感じ方を想像しながらデザインを考えます。
私が知る子どもだけでも、性別、年齢、兄弟構成、地域、環境などが違い、その数だけ感性のバリエーションが広がっていきます。
デザイン思考はしばしば“メソッド”として語られます。しかし私にとっては、それ以上に「誰に・何を・どう感じて欲しいのか」を突き詰める“営み”だと感じます。
数ある選択肢の中から、対象となるユーザーにとってもっとも好ましい“体験”を選び取っていく、それは、“情緒的判断”の連続です。
そうした判断力の源泉が観察力です。その蓄積によってデザイン思考の潜在力は何倍にも高まります。
■感性を磨く3つの習慣 ──日常の中の“違和感”にヒントあり
「感性」というと、特別な才能やセンスのように思われがちですが、実際には日々の観察と思考、その積み重ねによって誰でも磨くことができます。
たとえば日常の中で、いち生活者として「なぜこのパッケージに惹かれたのか?」「なぜこのUIは使いにくく感じたのか?」と立ち止まって考えてみる。
家族や友人と感じたことを共有しながら、自分と違った視点を学んでいく。あるいは、自分とは異なる属性の人になりきって、世の中を見回してみる。
こうした視点の切り替えや感じ方を広げていくことが、感性を少しずつ深めていき、やがて“気づく力”や“選ぶ力”の習得につながっていきます。
感性を磨くことは、デザイン思考のプロセス全体を支える土台になります。
・よく見る (観察)
・よく考える(発想)
・よく選ぶ (検証)
このサイクルをいかに“善く”回すか──そこにデザイン思考の本質があります。
「なんだか惹かれる」「なぜか気になる」といった日常の中の“違和感”を見逃さず拾い、小さな感情の動きに注目すること。その蓄積が感性のネットワークを広げてくれます。
日常に変化を与えることも重要です。普段は検索で済ませている調べごとを、あえて図書館へ行って調べてみる。山や川、海などへ行き、たまには自然と対話する時間を設ける。日々のルーティンから離れ身体性を働かせることは、感性を育てる近道かもしれません。
さまざまなモノ・コトに触れ、「3つの習慣」を日常的に実践することで、独自の感性が育っていきます。それは、あなたのデザイン思考力を高めてくれます。
日々の小さな心の動きに注目し、ビジネスに感動を与えていきましょう。
[筆者プロフィール]
川内 祥克
株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター
企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。