2026.04.27
選ばれる理由は情緒的価値|価格競争を脱却するBtoBブランディング
竹本 晃 株式会社TCD チーフコピーライター兼アカウントプランナー

「BtoB企業にブランディングは本当に必要なのか?」その答えは明白です。自社の技術や品質には絶対の自信があるのに、いつも相見積もりで価格競争になってしまう…そんな悩みを抱える企業は少なくありません。
本記事では、機能的価値の限界を突破し、顧客の満足度を飛躍的に高める「情緒的価値」に焦点を当てます。価格競争から抜け出すための本質的なBtoBブランディングの進め方を解説していきます。
なぜ今、BtoB企業にブランディングが必要なのか?
これまで営業力や製品力だけで成長してきたBtoB企業が、今こぞってブランディングに注力し始めているのには次のような理由があります。
技術の進歩が招く「同質化競争」と「価格競争」
クラウドや技術のモジュール化により、新機能や新製品・サービスが瞬時に模倣されるケースがよく見られるようになりました。このように品質や機能に差がない「同質化競争」が進むと、企業は競合優位性を保ちにくくなり、結果として不毛な価格競争に巻き込まれてしまいます。
BtoBブランディングの本当の目的:期待と信頼の醸成
ブランディングが目指すのは、単に名前を知ってもらうことではありません。顧客や社会の中に、企業に対する「この会社が好きだ、共感できる」という「好意」と、「この会社なら確実に課題を解決してくれるだろう」という「期待」を育てることです。この目に見えない「好意」と「期待」が、顧客から望ましい態度を引き出します。新規顧客からは比較される前に指名され、既存顧客の離脱を防ぎ、検討中の顧客からは多少高くても選ばれるため、価格競争の回避につながるのです。
こうした顧客の「好意」や「期待」を意図的に作り出し、業績へと繋げるためのコアとなるのが、「情緒的価値」の設計です。
BtoBブランディングのカギを握る「情緒的価値」
ブランディングを進める上で、最も重要になる考え方が「提供価値」の定義です。TCDでは、ブランドの強み(属性)を価値の土台とし、その上に構築される提供価値を「機能的価値」「情緒的価値」「社会的価値」の3階層に分類しています。

「機能的価値」はいくら強化してもいずれ頭打ちになる
先にも述べたように、技術のモジュール化などにより新しい機能やサービスは後発企業にキャッチアップされやすく、最終的にはどの企業も似たようなスペックに行き着いてしまいます。さらに、ネットの普及で容易に機能比較ができるようになったことで、顧客は「自社に必要な機能水準」を正確に把握するようになりました。必要以上の過剰な機能・オプションの追加は、もはや価値として評価されにくくなっています。
BtoBにおいて「情緒的価値」は選ぶ理由になる
そこで鍵を握るのが、そのブランドから得られる感覚や気分といった「情緒的価値」です。BtoBビジネスであっても、最終的に決裁のハンコを押すのは感情を持った「人」です。「この企業なら安心して任せられる」「このサービスを使っているとスマートな気分になる」といった感情的な繋がりが、強力な選択理由になります。
費用対効果が高く、真似されにくい情緒的価値の力
さらに情緒的価値は、顧客に選ばれる理由になるだけでなく、費用対効果が高く、他社が真似しにくいという極めて大きなメリットがあります。
・なぜ費用対効果が高いのか?
機能的価値を高めるためのシステム改修や新機能開発には、終わりのない莫大な追加コストがかかります。一方、情緒的価値は「この会社なら安心だ」という無形資産であり、一度強固なイメージを構築できれば、追加の製造コストをかけずに価値を生み出し続けることができます。
・なぜ真似されにくいのか?
機能はリバースエンジニアリングで真似できても、情緒的価値は「これまでの歩んできた歴史」や「大切にしてきた姿勢や想い」といった無形資産から生まれるからです。競合がどれだけ資本を投じても容易にはコピーできない強力な防壁となります。
価格競争を抜け出すBtoBブランディングの実践
事実(Fact)と感情(Image)を掛け合わせて価値を伝えていく
ブランドの価値は「機能面」「情緒面」両面で伝えていく必要があります。モノでつながる価値である「事実の積み重ね(Fact)」の上に、「感情やイメージ、評判の構築(Image)」を掛け合わせることで、強固なブランドが形成されます。
Sansanに学ぶ、BtoB企業のブランド提供価値体系の作り方
日本のBtoB企業でこれを見事に体現していると私が考える例が、営業DXサービスを提供する「Sansan」です。彼らの提供価値をピラミッドの階層に当てはめると、以下のようになります。

もしSansanが「名刺探しの時間を削減」「業務を効率化」といった機能的価値だけをアピールしていれば、後発の低価格なスキャンアプリとの価格競争に巻き込まれていたかもしれません。しかし、テレビCMや徹底したメッセージングを通じて、「Sansanを導入すること=最先端のスマートな働き方を実現し、日本のビジネスを前進させること」という情緒的価値と社会的価値を市場に浸透させてきました。
まとめ:BtoB企業においても、情緒的価値は競争力を高める重要な要素
BtoBブランディングとは、単なるロゴやデザインの刷新ではなく、機能面での価格競争から脱却し、企業価値を高めるための重要な経営戦略です。自社にしかない「らしさ」を言語化し、他社に真似されない情緒的価値を見出すことから、新たなブランディングへの第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
[筆者プロフィール]
竹本 晃
株式会社TCD チーフコピーライター兼アカウントプランナー
言語化とプランニングの二刀流。コンセプトやコピーの開発、戦略立案、プロジェクト進行、WEBサイトや会社案内、ブランドブックの企画・構成など幅広く担当。趣味のスポーツ観戦では野球とバスケの二刀流。