2019.10.18
LOVE, TYPOGRAPHY
タイポグラフィの味わいとフラットなロゴデザインと
一歩街へ出ると、魅力的なタイポグラフィに出会い、ついカメラを向けてしまうことがあります。
活字のようで微妙に重心がヨレているところが、逆に味わいが出ていた、とあるマンションのサイン。
紛失して手作り?!活字に近づけようとしている筆跡が微笑ましい、とある街区表示板。
日本語を表記するのに用いる漢字・ひらがな・カタカナは、モノの形を由来とする象形文字にルーツがあるため、日本人は文字のカタチ自体に意味や人間性、雰囲気や味わいを求める傾向が強いのでは、と思うことがあります。街中に残る古い看板などは、看板屋さんの手の動きや筆の弾力が感じられる、私にとって何とも魅力的なタイポグラフィなのです。
私の所属するチームでは、コーポレートブランディングにおけるロゴデザインを担当することが多いのですが、著名ブランドのリニューアルの情報に「こんなロゴになってる!」と意見が飛び交うこともしばしば。イヴ・サンローラン、リモワ、ヤフー、フォルクスワーゲン。ゴシックでフラットなデザインにロゴをリニューアルするブランドが増えていますが、そんなニュースがささやかれる時、TCDのロゴデザイナーたちはどこか寂しそうでもあるのです。日本人の美意識として、もっと文字に人間味や味わいを与えたい、そういう意識が働くのかもしれません。
文字にはそもそも、伝達手段としてのシステム・記号という側面と、書道のような絵画的な側面があります。表音文字であるアルファベットには前者の、表意文字である漢字やひらがなには後者の性格が強いのだと思います。もちろん、アルファベットにもカリグラフィという絵画的表現はありますし、アラビア文字にも書道がありますが、どんな文字にせよそこに創造性や趣を求めるということは、小学生の頃から文字を美しく書くことを教育される私たちにとって、自然と身に備わる美意識のように思いますし、個人的にも絵画的な文字には惹き付けられます。
(左から)Hassan Massoudyのアラビア書道/金沢青年会議所ポスター(タイポグラフィ年鑑2018)/TCD Work
フラットデザインの流れは、Web閲覧のマルチデバイス化によって、どんなサイズでも見やすい・読みやすいことが求められるようになったことから主流化していますが、ロゴデザインなどのブランド表現が担うものは、見やすい・読みやすいといった機能性だけではありません。親しみや期待感といった、感覚的・情緒的な性能を掛け合わせたものでなければいけないはずです。最近のロゴデザインのトレンドは、写真はどんどん情緒的なものが好まれる一方で、文字がどんどん無機的になってきている印象があって、タイポグラフィ愛に寄ったデザイナーにとっては、少々もどかしさを感じていたりするのです。
そんなフラットデザインも、影がついたりモーションが加わったり、徐々に質感が加わるようになってきました。5Gの世界なら、本来文字が持っていた微妙な筆圧の強弱や、そこから生まれるヒューマンな手触りといった、情報量の多い表現も一瞬で読み込むことができるようになるでしょう。そのときタイポグラフィのデザインも、今の流行からは一歩進んだものになるのだと思います。私たちはグラフィックデザイナーとして、その可能性と日々向き合っていきたいと思っています。