2022.01.20
従来のイメージを覆す世界観を表現 日本ゼトック株式会社「QUOM」
福田 恵里 株式会社TCD チーフデザイナー
人生100年時代と言われる今、日本の要介護・要介護認定者数はこの20年で3倍にも増えており、今後もさらなる増加が見込まれています。介護期間の長期化といった負担が問題視されているなか、今回お手伝いをさせていただいた日本ゼトック株式会社は、この現代社会の問題に「口腔ケア」で解決の糸口を模索。独自の老年歯科研究と、口腔ケア製品を60年以上作り続けてきたその技術を活かして、要介護者のための医院向け口腔ケア製品を提供するブランドをつくりたい、というご依頼からプロジェクトはスタートしました。
気持ちに寄り添うコンセプトづくり
お口は、「食べる」「呼吸する」といった生命維持機能を果たしていますが、それゆえお口の健康が悪化すると、全身の健康状態だけでなく精神面へも悪影響をもたらします。口腔ケアは介護領域において非常に重要なものであり、製品の機能性が使用者(介護者)の方にとって重要視されてきました。
しかし毎日続く介護生活の中では、その先にある、受ける側、要介護者の気持ちが大切なのではないか?と私たちは考えました。この製品を使うことで口腔環境が改善され、「話す」「食べる」「味わう」といったちょっとした日常の楽しみを感じてもらえるようになれば・・・。楽しく生きるための活力が湧き、少しでも気持ちが前向きになれば・・・。こうして出来上がった「要介護者の生きる力を引き出す口腔ケア」というコンセプトは、従来の医院向け口腔ケア製品によくある機能的で冷たい印象や介護然としたトーンとは違う、ポジティブで生命力あふれる世界観を表現する軸となりました。
コンセプトを体現したデザイン
コンセプト策定の次はネーミングとロゴデザイン開発です。前述のように、お口の健康は心身の健康へつながると言えます。健康な口腔状態になることで自分らしい豊かな生活を送れるように、「QOL(Quality Of Life)=生活の質」になぞらえて「Quality Of Mouth=お口の質」を高めるブランド「QUOM(キュオム)」 というネーミングに決定。スローガンは、「生きる活力を、お口から」としました。
そしてロゴマークは、「話す」「笑う」「食べる」といったお口から生まれる日常生活における楽しみや喜びを、広がる様々な色と形の図形パーツでビジュアル化。QUOMを使ってケアすることで日々の楽しみ喜びが生まれ、それが生きる活力へと繋がっていく。そんな願いが込められています。
またメインカラーにはオレンジ色を用い、勢いのあるロゴマークと鮮やかなカラーとを組み合わせることで、生命力の力強さやポジティブな気持ちを体現。
しかし、あくまでもQUOMは医院向けの製品ブランドです。パッケージは、整理されたレイアウトや資材に蒸着紙を効果的に用いることで、機能と品質の高さを感じさせる、医療のプロが使用しても遜色のないデザインを心掛けました。
トータルで世界観づくりをサポート
パッケージ制作後は、リーフレットの作成やWebプロモーション開発まで一貫して手掛け、ブランド開発フェーズからコミュニケーションフェーズまでトータルでお手伝いをさせていただきました。新ブランド立ち上げにおける懸案事項に対して、私たちTCDはターゲットユーザーへのブランドコンセプトの受容性、そしてデザインニーズの方向性の確認などを調査で明らかにした上で、確実に開発を進めてまいりました。
従来の業界内ではあまり見受けられないデザインはチャレンジでもありましたが、それを裏付けるコンセプトと一貫したコミュニケーション展開で、ブレのない世界観を確立したQUOM。ネガティブに捉えられがちだった介護のイメージをポジティブなイメージへと覆す、そんな一石を投じるようなブランドになれると信じています。
QUOM https://quom.jp/
日本ゼトック株式会社 https://www.zettoc.co.jp/
[筆者プロフィール]
福田 恵里
株式会社TCD チーフデザイナー
入社以来、化粧品から日用品まで幅広くパッケージ開発に携わる。課題を自分ゴト化し、クライアントに寄り添うことを心掛けている。クセの強い雑貨を集めるのが趣味。