2025.05.22

伝えた“つもり”を超えていく──商品開発×デザインの共創スイッチ

山本 みき 株式会社TCD クリエイティブディレクター

パッケージ開発の現場で起こる、伝えたつもり・わかっているつもりのすれ違い。そこには、“翻訳”されていない意図がありました。共創は、そこから始まります。


一見スムーズに進んでいるように見えるやりとりの中でも、「ちゃんと伝えたはずなのに、なぜ伝わらないのだろう?」「言われた通りにデザインしたつもりなのに、“なんか違う”と感じられている…」
そんな“ズレ”が、いつのまにかすれ違いへと育ってしまうことがあります。商品パッケージのデザイン段階での「なんか違う」「そうじゃない」をめぐるすれ違い。その背景には、“伝える”よりも“伝え合う”が足りない──そんな構造的な課題が潜んでいるのかもしれません。

■「伝えたつもり」「わかってくれるはず」がすれ違うとき

―― 開発担当者とデザイナーのあいだには、見えない壁が存在します。

 「参考画像のような、こんな感じでお願いできればと思います」
 「なんか、いい感じにデザインしてください」

クライアントの開発担当者の、そんな言葉でオリエンが終わったあと、デザイナーはふと首をかしげます。参考画像がいくつか提示されたけれど──“こんな感じ”って、どこがポイントなんだろう?色味?フォント?余白感?それとも、もっと違う何か?

──このふわっとしたやりとり、TCDのデザイナーは少なからず経験しています。

一方で、まったく逆のパターンもあります。クライアントから届いたオリエンシートは、とても丁寧に作られていて、ターゲット、商品特長、課題感──必要な情報は過不足なく揃い、当日の説明もスムーズ。デザイナーも「うん、方向性は見えた」と感じ、その場は滞りなく終わりました。

ところが、後日提案を出してみると──

 「うーん、なんか違うんですよね」
 「そういう方向もなくはないけど…」

デザイナーは、頭の中に疑問符をいくつも浮かべます。
 「ゴールが変わった? それとも読み取り方の問題?」

対してクライアントも、「ちゃんと資料も用意したのに、どうして伝わらなかったんだろう?」と戸惑っていました。実際、TCDがあるクライアントと共同で行ったアンケートでも、開発担当者・デザイナー双方が最も「困った」と感じていたのは、この“オリエン”フェーズでした。


■「言わなくてもわかるでしょ」は、幻想かもしれない

伝えたつもりだったのに、なぜか伝わっていない──
そうしたすれ違いの背景には、「伝え方」そのものの難しさが潜んでいます。たとえば、開発担当者が資料を丁寧にまとめ、情報を過不足なく伝えているように見えても、 実は「どこが本当に大事なのか」「なぜそう考えたのか」といった判断の軸が共有されていないことがあります。情報は届いている。でも、その背景にある意図や優先順位が見えていない。

一方で、開発担当者がこう感じていることもあります。
 「イメージを具体的に伝えすぎると、デザインの自由度を狭めてしまいそうで…」
 「でも、ふんわり伝えると、まったく違うものがあがってきてしまう…」

そして、デザイナーはこう思っています。
 「見た目の説明より、“なぜその表現にしたいのか”が知りたい」
 「コンセプトや開発背景が共有されないと、判断の軸が持てない」

“伝える”と“伝わる”の間には、思っている以上に距離があるのかもしれません。見た目のキャッチボールはできていても、その背景にある“意味”まで届いていないことがある。そんなすれ違いが、現場では静かに起きています。


■「直してください」の裏側で、迷子になっているデザイナーがいる

もう一点、よくすれ違うのがフィードバックの場面です。
 「この赤文字への修正指示は、薬事的な制限?それとも上司の好み?まさか気分…?」

背景がわからないままの修正依頼は、納得感のない作業に変わってしまう。アンケートでも「指示の“背景”や“判断の理由”が見えづらい」という声が、デザイナー側から多数あがっていました。


■「伝える技術」よりも、「伝え合う姿勢」を

このズレに、誰かが悪いということはありません。

開発担当者は「ちゃんと伝えているつもり」。デザイナーは「ちゃんと受け取っているつもり」。でも、その“つもり”がすれ違う。だからこそ、こんなひと言が関係を変えます。

開発担当者からは
 「この判断に至った背景はこうです」
 「このイメージにはこういう狙いがあります」

デザイナーからは
 「その修正意図なら、こんな対応方法もあります」

一方通行の“依頼と納品”から、双方向の“対話と共創”へ。私たちTCDは、その橋渡しを得意としています。


■TCDは、デザインの“中身”を一緒に考えます

私たちはただ「見た目を整える」だけのデザインチームではありません。パッケージの形や色を決める前に、その背景にある“意図”や“文脈”を一緒に翻訳するところから伴走します。

たとえば──
 ・オリエン時に、「意図」をデザイナー言語に置き換える
 ・上司からの一言指示の裏側を読み解き、修正の“軸”を一緒に探る
 ・決裁者の反応にモヤッとしたら、壁打ち相手として整理し直す

TCDは、商品開発とデザインの両方の視点を持つパートナーとして、対話の設計を起点に、“共に考え、かたちにする”プロセスを支えています。

デザイン開発の現場では、
 1.企業の「伝えたい価値」
 2.生活者の「知りたい・受け取りたい情報」
 3.それを“伝わるかたち”に翻訳する、私たちデザインのプロとしての視点

この三者の視点を行き来しながら、TCDは“伝わる”デザインをつくっています。


■おわりに:デザインは、会話でできている

デザインは、手で描く前に、口で組み立てるもの。伝え方、聞き方、言葉の粒度。そこには、TCDとクライアントが共に創る“チームのらしさ”がにじみます。
もし今、「開発担当者とデザイン担当者のやりとりが、うまくいっているかな?」と不安に感じているなら、それは新しいやり方を模索するサインかもしれません。TCDは、会話から始まるデザイン開発を応援しています。

[筆者プロフィール]

山本 みき

株式会社TCD クリエイティブディレクター

日用品を中心にさまざまな商品パッケージ開発に従事。「モノ」より「コト」を大事にしたパッケージデザインを目指し日々尽力している。

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