海外事例紹介:BE INSPIRED〜メトロポリタン美術館のリブランディング〜

「BE INSPIRED」では、TCDのグローバルチームが日本以外の視点から見たブランディングに関する海外のトピックスをお届けします。
5回目は、ニューヨーク在住経験のあるグラフィックデザイナーが注目するメトロポリタン美術館のリブランディングです。

アートの発信地であるニューヨークには大小あわせて100を超える美術館が存在しますが、ここ数年でホイットニー美術館やユダヤ博物館をはじめとした、有名な美術館が次々とリブランディングをしています。その中でも、ニューヨークのメトロポリタン美術館は150年近く続いたロゴとアイデンティティシステムを2016年に刷新しました。今回は、このリブランディングについてご紹介します。

1870年に開館されたメトロポリタン美術館は、世界最大規模を誇る美術館であり、世界各国の5000年以上にわたる歴史ある収蔵品は、300万点を超え、ニューヨーカーからは「The Met」という愛称で親しまれています。収蔵作品の1つである、レオナルド・ダヴィンチの数学の先生だったルカ・パチョーリの木版画をもとにしたオリジナルのロゴは、象徴的で力強く、かつエレガントでメトロポリタン美術館をうまく体現していました。


左:オリジナルのロゴ 右:新しいロゴ  Credit: The Metropolitan Museum of Art

一方で、新しいロゴ、ウェブサイト、販促物やオリジナルの書体などを含むブランドシステムは、ウルフ・オリンズ社とメトロポリタン美術館の共同チームで2年の歳月をかけて開発されました。ウルフ・オリンズ社はリデザインの主な目的について、「アクセシビリティ」をあげています。具体的には、膨大なコレクションを整理しわかりやすく案内すること。来場者におこなった調査では、膨大なアートコレクションを前に圧倒されてしまい館内で迷ったり、ストレスを感じていることがわかりました。また、世界中から来場者が集まるため、国や人種の異なるすべての人達に親しみを感じてもらうことを必要とし、愛称であった「The Met」をロゴに採用しました。プライマリーカラーの赤は、タイムレスで、情熱やバイタリティを表す色として世界共通であることから採用され、文字が繋がっているのは人をつなぐ、異なる文化をつなぐ、古いものと新しいものをつなぐ、など「コネクション」をコンセプトにしています。

メトロポリタン美術館の新しいデザインシステム  Credit: The Metropolitan Museum of Art

しかし、新しいロゴが発表されると、批評家をはじめ多くの人は批判的でした。特に書体を融合させた造形(隣の文字との間を詰めた表現)が本来の書体の美しさを損なっていると批判が集まりました。著名な音楽評論家のジャスティン・デイビッドソンは、このロゴを2階建ての赤い観光バスが急ブレーキをかけて乗客同士がぶつかる様子に例えています。新しいロゴに批判が集まっていますが、より多くの人に開かれた美術館というリブランディング全体の目的であるアクセシビリティをはたしているかどうか、実際に訪れて確かめてみたいと思います。また、変化に対して人は概ねネガティブに反応するものですが、時間が経ったときにこのリブランディングがどう評価されるか楽しみにしたいと思います。


参照)
The Metropolitan Museum of Art Is Making a Mistake | Agency News: Viewpoint – AdAge
The Met – Connecting over 5,000 years of art | Wolff Olins
Brand New: New Logo and Identity for The Met by Wolff Olins
The Met museum’s new logo is infuriating typography enthusiasts | The Independent
絶対行くべきニューヨークの美術館&博物館10選|エクスペディア


[筆者プロフィール]
大杉涼子 株式会社TCD チーフデザイナー
大学卒業後に渡米。ニューヨークのFashion Institute of Technologyでグラフィックデザインを専攻。デザイン会社勤務を経て帰国し、2013年にTCDに参加。主にパッケージデザインに従事。