2020.05.11
低価格だけじゃない、
成功するDtoCブランドの本質とは?
大杉 涼子 株式会社TCD デザインディレクター
「DtoC」という言葉を、最近よく耳にしたことがあるのではないでしょうか。DtoCとは、「Direct to Consumer」の略で、自ら企画、製造した商品をどこの店舗も介することなく自社のサイトを通して顧客に直接販売すること。中間コストの削減によって、クオリティの高い商品を低価格で提供するビジネスモデルです。
先行するアメリカでは2010年頃から多くのスタートアップが登場し、すでに乱立状態ですが、日本では2019年頃からDtoCブランドが注目されはじめています。これからさらに拡大が加速すると見られるDtoCモデルについて、アメリカの成功事例を3つのキーワードと共に紹介したいと思います。
1. 一貫したブランドの世界観
SNSやウェブサイトなど消費者と直接つながるチャンネルをもつDtoCブランドは、ブランドの世界観を一貫して伝えることができます。逆にいえば、そもそものブランディングがしっかりできていないと、DtoCで成功するのは非常に厳しいでしょう。
2015年創業のスーツケースブランド「Away(アウェイ)」は、単にスーツケースというモノを売る会社ではなく、自らを「旅のプラットフォーム」であると定義しています。
例えば、「Here Magazine」という旅行雑誌を出版し、旅好きの人々のインタビュー、写真、エッセイなどを美しいビジュアルとともに顧客に届けています。インスタグラムでは、
「#travelaway」で製品の写真を募り、セレブリティを巻き込んだコミュニティを展開し、2017年にはパリにポップアップのホテルの開設も試みています。旅の体験にまつわるコンテンツを次々と生み出すことで、コアなファンを獲得しているのです。
2. ソーシャルグッドな視点
今日の消費者は、社会や環境にとって価値のあるブランドから商品を購入したいと考える傾向が強まっています。DtoC企業の創業者にも、見過ごされてきた社会課題や生活者の不満を解決するために起業するパターンが多くみられます。
2015年創業のアパレルブランド「Everlane(エバーレーン)」は、それまでブラックボックスだった小売業の価格に対する「徹底的透明性(radical transparency)」というモットーを打ち出して、アパレル業界の常識を覆しました。商品の原価、材料費、労働費などの内訳のすべてをWebサイトで公開したのです。消費者は価格に納得して商品を購入できることから、ミレニアム世代を中心に絶大な支持を得ています。また、世界中にある取引先の工場で働く人々の姿や彼らが何を製造しているかなどを詳しく紹介しています。
3. ユーザーファーストの商品開発
DtoCブランドの特徴として忘れてはならないのが、徹底した「ユーザー目線」です。
2014年創業のマットレスブランド「Casper」は、マットレス購入にまつわる顧客のひどい体験を改善すべく創業されました。マットレスにはめずらしい100日間のトライアルや10年保証をつける一方、商品数を絞ることで多くの選択肢から選ぶ手間を省きました。また、ユーザーとともにプロダクトを常に改善していくというスタンスを大事にしています。試作品デモにユーザーを呼び、フィードバックを製品開発に生かしており、これまでに1万5000人ものユーザーがデータを提供しています。2017年には、110の試作と460時間の研究開発を経て、犬用のマットレス「Casper Dog Mattress」を発売しました。
まとめ
今回紹介したブランドは、自分たちが提供できる価値、ブランドの存在意義を明確にし、SNSやデータを上手に活用したブランディングとユーザー視点の商品開発を行っています。DtoCブランドのメリットとして、中間コストを削減することによる値段の安さが注目されがちですが、「顧客と直接つながる」ことで新たな価値を生み出していることがもっとも重要なポイントではないかと思います。
<参考サイト>
Skubana’s Top 133 Coolest Direct-to-Consumer Brands
勘違いされるD2C。ネット専売は「中間マージンを省く」だけじゃない
トレンドでは終わらない。D2Cが示す新たなブランドビジネスの形
“低コストで良質な睡眠体験を”──常識破りのマットレス・ベンチャー「Casper」
[筆者プロフィール]
大杉 涼子
株式会社TCD デザインディレクター
大学卒業後に渡米。ニューヨークのFashion Institute of Technology でグラフィックデザインを学ぶ。2013年からTCDにてパッケージデザインや商品ブランディングに携わる。