2016.11.07
ブランディングとデザインの関係(1)
川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター
こちらの連載では、ブランディングの主にコミュニケーション・フェーズにおけるデザインの役割について考えていきたいと思います。
ブランディングとデザインの関係
- 1. ブランドの「見え方をデザインする」
- 2. ブランドと顧客との「接点をデザインする」
- 3. ブランドが提供する「体験をデザインする」
●ビジュアル・オーディット/視覚監査について
いきなり堅苦しい言葉ですが、平たく言うと「ブランドの見え方を管理」するといった意味合いで使います。ブランディングにおけるデザインの役割として、広くまた細かに「ブランドの見え方を管理」していくことは非常に重要です。
例えば、商品開発、そのデザインを決定していく上で立てられたブランド戦略が、広告宣伝においても上手く表現されているでしょうか。または店頭でそのブランド戦略が実現されているでしょうか。おそらくこうした範囲であれば、多くの商品ブランド、企業ブランドで実践されていることと思います。
下の図は、ボストンでデザイン・マネイジメントに関する調査を行っている非営利組織DMI (Design Management Institute) によるものです。
引用)GOOD DESIGN DRIVES SHAREHOLDER VALUE
こちらのグラフは、DMIが独自に選定した「デザイン・コンシャス・カンパニー」が、アメリカの代表的な500銘柄よりも事業の成長性が大きい、という調査結果を表しています。
Design Value Index (DVI)の選定では、社内でのデザイン・シンキングの活用度なども含め、様々な指標で選定されていると思いますが、図表に上がっているApple、Coca-Cola、FORDなどはいずれも「ブランドの見え方を管理」することに長けた企業で、Appleにおいては「レシート」にまで気を配る、デザイン・マネイジメントの雄、最先鋒であることは周知の通りです。
●統一感と一貫性、そして「細部まで」
商品や店頭、広告のみならず、納品される際に梱包されるカートンや、それを運ぶ搬送車、もしかするとそれを運転するドライバーのユニフォームまで、顧客の目に触れるあらゆるものが「ブランドの見え方を管理」する対象になります。
さらに、その商品に関心を示した顧客が、「この商品かっこいいな。どんな会社が作っているのだろう?」と、企業サイトに訪れることもあるでしょう。そうした時もその商品ブランドと企業ブランドとの一貫性が保たれている必要があります。
顧客ではなく、取引先がその企業に訪れた際に目にする受け付けスペースはいかがでしょう。社屋玄関の傘立てに至るまでブランド・イメージが保たれているでしょうか(これはやや極端ですが、しかしApple社ならそこまでデザインされているかもしれません)。
こうして、高い次元で「ブランドの見え方を管理」することがデザイン・コンシャスであり、「デザイン」を戦略的に活用できる企業だと思います。
また、デザイン・コンシャスであることは、事業課題の他にも、例えば人材難、採用難と言われるリクルート・シーンにおいても有効な手段になり得ます。
顧客だけではなく、取引先、社員、学生(採用)、一般社会、全てのステークフォルダーに向けて「ブランドの見え方を管理」していく、デザインしていくことで、ブランドはより強く育っていけるでしょう。
●ブランドの「見え方をデザインする」
上記のブランドを観察していくと、あらゆる場面でその「見え方」が管理されていることが分かります。ブランドの「見え方をデザインする」ことは、一過性のデザインではなく、ブランドが歩む時間をデザインすると言い替えられるかもしれません。
Appleのウェブサイトでは現在、iPhone7から新しくラインナップに加わった「ジェットブラック」が全面に打ち出されています。指紋がつきやすい、Apple自身も“磨耗が気になる方は表面を保護することをおすすめします”と、キズに対する注意を促しつつも、これまで培ってきたデザインに対するこだわり、デザインに対する美意識がダイレクトにユーザーに伝わります。
また、下のCoCa-Colaのビジュアルは、新たなグローバル・マーケティングの方針として発表された「ワンブランド」戦略のビジュアルになります。こちらでも、“コカ・コーラ・ブランドの原点、スペンサーロゴ/赤いディスクロゴ/象徴的なグラスボトル、に根差しながら、現代的なアレンジを加えたクリエイティブキャンペーンを展開する”と、デザインへの回帰を感じさせます。
次回は、そうしたブランドが過ごす時間の中でも、特に重要な「ブランドと顧客との接点」について考えていきたいと思います。
ブランディングとデザインの関係
- 1. ブランドの「見え方をデザインする」
- 2. ブランドと顧客との「接点をデザインする」
- 3. ブランドが提供する「体験をデザインする」
[筆者プロフィール]
川内 祥克
株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター
企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。