2024.06.03

デザイン経営の実践事例―『デザイン経営』講座

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター


■社内に“自信”を与え、社外に“共感”を生む、デザイン経営


こちらでは、デザインの力を活かして経営や事業の推進力を高めたいリーダーに向けて、TCDが日頃取り組んでいるブランディングのテーマから、旬な内容をピックアップしてお届けします。

今回は、デザイン経営を実践している企業を見ながらその成功要因について探っていきたいと思います。

1. ブランドイメージ
2. プロダクトアイデンティティ
3. 企業文化

デザイン経営の対象として様々なファクターがありますが、特に経営において重要になるイメージ、製品、文化について見ていきたいと思います。


1. ブランドイメージ

「ブランドとは、顧客の頭の中にある情報の集合体」とTCDでは捉えています。つまり企業のものではあるけど、顧客の中につくられるもの。

そこにブランディングの難しさがありますが、直接的な顧客や顧客ではないけどそのブランドを知っている人、またはその企業で働く人も含めて、すべての人が同じ「ブランドイメージ」を持っているのが望ましい状態です。強いブランドは一貫したブランド表現を行うことで、そうした理想的な状態を生み出しています。

そこで一つ一つのアウトプットが大切になりますが、前回ご紹介した三井住友銀行がつい先日、渋谷に「Olive LOUNGE」というコンセプトショップをオープンしました。

金融における個人市場においてはキャッシュレスが進む中、PayPayを始めとする新興勢力の勢いには目を見張るものがあります。

そうした中、メガバンクの中でも特に若年層の取り込みに力を入れているのが三井住友銀行の「Olive」ブランドではないでしょうか?

広告表現やこうした顧客接点のつくり方など、一つ一つのブランド表現が高いレベルで実現され、新しい三井住友銀行像が巧くつくり出されていると思います。今後もOliveのイメージづくりを追いかけながら顧客の評価を見ていきたいブランドです。


2. プロダクトアイデンティティ

つまるところ、事業を支えるのは「プロダクト」です。形のあるモノであれ、形のないコト(サービス)であれ、技術が標準化し差別化が難しくなる中でユニークな価値づくりが求められます。

そこで経営視点で重要となるのは、個々の製品やその機能ではなく、その前提となるどのような「プロダクト」をつくるのかといった、製品づくりの「ポリシー」になります。

ここでもやはりデザイン、特にその一貫性が重要になります。一つ一つの製品を「群」としてみた時、そのアイデンティティが見えてきます。

それは企業の「こだわり」であり、製品やサービスが市場でどのように認識されるかを決定づけます。そして、優れたプロダクトアイデンティティは、顧客に「らしさ」を植え付け、中長期的にブランドロイヤルティを育んでいきます。

最近、家電のデザインが元気です。コロナ禍でお家需要が高まり市場が活況したこともあると思いますが、その前からもプラスマイナスゼロやバルミューダ、iRobotやダイソンなどそれぞれのユニークなポジショニングがお互いの刺激となり、いい意味で市場が成熟しています。

そんな中でも特に最近パナソニックのプロダクトからは新しい提案、挑戦を感じます。写真のシェーバーは2023年のGood Designで金賞にも輝いていますが、パナソニックでは2021年に、デザイナーとして初めてとなる執行役員が誕生しています。

それまで経営層にデザイナーがいなかったのも逆に驚きですが、そうした取り組みの他にも2018年に「Panasonic Design Kyoto」を立ち上げ、それまで分散していた黒物家電・白物家電それぞれのデザイナーが集結したのも転機となったそうです。

そうした目線で最近のパナソニック新製品をみてみると、なにか新しいパナソニックの「らしさ」、メーカーが目指している未来の「方向性」みたいなものを感じることが出来ます。


3. 企業文化

企業文化は組織の生命線です。

社会に対してどういったプロダクト(価値)を提供していくのか、その根底に企業文化があります。

企業文化は、企業のこれまでの営みを通して築かれるもので、そこに共通する価値観や行動様式を可能な限り明文化し受け継いでいく必要があります。また、新しい社員を迎え引き続き良好な企業文化を育んでいく上で、デザインが重要な役割を果たします。

社外に向けて行うブランディングと同様に、社内に向けてもブランディングを行うことは、社員とのエンゲージメントに大きな影響を与えます。

例えば会社のロゴマークは顧客に対して安心・信頼を約束する「印」となりますが、社員に向けてはその安心・信頼を守るという「意志」を育んでいく必要があります。

またスローガンは顧客に対するメッセージであり、社員一人ひとりが実践すべき「行動」のあり方でもあります。

企業文化を育むには、「文化」といった抽象的な要素をビジュアルや言葉などのデザインを通して、その浸透を促進していく必要があります。

ブランディングの成功事例として取り上げられることの多い「LIFULL」ですが、社を挙げてブランディングに取り組む企業でもあり、様々な活動を通して2018年には約20%だった企業認知度は、2021年には40%以上にまで向上したそうです。

そうしたブランディングの根幹を支えたのは「人」の改革だったといいます。改めてブランドのアウトプットを見てみると、内側でどういった改革がなされ文化が育まれてきたのか垣間見えるように思います。

さて、ここまで見てきましたように、ブランドイメージ・プロダクトアイデンティティ・企業文化を俯瞰で捉え一貫性を与えることは、ブランド価値を高めていく上で最重要課題になります。

こうした実践事例をきっかけに、自社のデザインを見返す、または強化できるポイントを探る機会となれば幸いです。

[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

こちらの記事もよく読まれています

資料ダウンロード

弊社の実績資料をダウンロードいただけます

お問い合わせ

まずは、お気軽にご相談・お問い合わせください