2024.04.25

インハウスデザインとは?―『デザイン経営』講座

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター


■社内に“自信”を与え、社外に“共感”を生む、デザイン経営


こちらでは、デザインの力を活かして経営や事業の推進力を高めたいリーダーに向けて、TCDが日頃取り組んでいるブランディングのテーマから、旬な内容をピックアップしてお届けします。

今回は、組織内のデザイン機能/部署である「インハウスデザイン」について見ていきたいと思います。

1. インハウスデザインとは?
2. インハウスデザイナーとは?
3. インハウスデザインのこれから

日頃、様々な企業のインハウスデザイナーの方々と協業していることもあり、そんないつもお世話になっている「インハウスデザイン」について考えてみたいと、上記の流れで見ていきたいと思います。


1. インハウスデザインとは?

少し前になりますが、書店で『銀行とデザイン』というタイトルを目にし、“銀行”と“デザイン”の組み合わせの妙に「おや?」と思った記憶があります。

こちらの本の冒頭、「はじめに」は以下のように始まります。

「私たち3人のデザイナーが、他業界から三井住友銀行も入行して、今年で6年目になる。この本は三井住友銀行初のインハウスデザイナー3人の共著である。」

そして、“銀行”がなぜデザイナー採用に踏み切り、デザイン部署を立ち上げるに至ったのか?と続きます。

「サービスやプロダクトの品質を上げるために、銀行という組織の中でどのようにデザインの重要性を伝えてきたのか。それを行うためにどのような課題があり、どう乗り越えてきたのか。」

3人のインハウスデザイナーが三井住友銀行にデザイン浸透を進めてきた軌跡が語られていきます。

ものづくりの会社であれば、なにかしらの形でデザインを担当する部署があり、インハウスデザイナーがそこでデザインを行うことが組織内で定着していると思います。

しかしこの本では、まさにこれから「デザイン部」を立ち上げようとするストーリーが描かれており、そのプロセスを知ることもできますので、経営にデザインを積極的に取り込んでいこうとした際に、様々な示唆を与えてくれると思います。

●“銀行”になぜデザイン部が必要だったのか?

一つには、若い世代との接点づくりとしての「デジタル化」の促進といった課題がありました。

お金を引き出すATMもコンビニで済むようになり、今やキャッシュレスが進み銀行と生活者との接点は減る一方です。そうした中「選ばれる銀行」であるためにどうすればよいか。その重要な顧客接点がデジタル、すなわちスマートフォンだったわけです。

つまり、顧客接点においてこれまでの「窓口」から、アプリやウェブサイトの「UI/UX」に重点が移り、“銀行のデザインシフト”が必要だったと記されています。

●組織を“内側”から変えたい

もう一つは「業務委託ではなく、社員としてデザイナーを採用することで、銀行自体が新しい時代に合わせて内側から変わるかもしれない。」といった期待があったそうです。

インハウスデザイナーだけで銀行内すべてのデザイン業務をこなすのは難しいと思いますが、社内にデザイナーがいることで組織に新しい視点が加わります。常に「顧客視点」や「顧客体験」を意識することができ、また課題を可視化しスピーディに実装検証を行うことができます。

「デザイン経営」をテーマにしている当シリーズとしても共感できる部分が多くあり紹介させていただきました。


2. インハウスデザイナーとは?

デザイナーの視点が加わることで何が起こるでしょう。

前回の「デザインシンキングとは?」で紹介しましたが、デザイナーは可能性を「拡散」させる訓練を積んでいますので、様々なアイデアを創出することができます。そこから課題に対するブレークスルーが起こりやすくなることが期待できます。

一方で、組織全体として「デザイン」「デザイナー」の役割を理解することも必要です。

見た目をきれいにしたり、情報を分かりやすくしたり、デザインによって様々な機能を高めることができますが、「顧客視点」や「顧客体験」といった目線で課題を見つけ解決策を探り、仮説を検証していく。そうした一連のプロセスをスピーディに行いながら最終的なアウトプットに定着していくことが「デザイン」の全体像だと思います。

こうした「デザインの力」は、商品開発や商品プロモーション、さらには企業ブランディングに至るまであらゆるシーンで活用することができます。

また「デザイン」はあらゆるシーンで必要ともなるので、様々な部署やプロセスを繋ぐ役割も担います。結果的に様々な情報が集約される場所になり、商品開発から販売、宣伝、顧客から自社の企業イメージに至るまで、「デザイナー/デザイン部」は組織に横串を刺す媒体になりえます。

そうした役割を含めて「デザイン」「デザイナー」を理解することで、デザイン経営のアウトラインを捉えることができるのではないでしょうか。


3. インハウスデザインのこれから

現在では様々な企業が自社サイトを通して、その企業の「デザイン」に対する思い、姿勢を表明、また定期的な情報発信なども行っています。

また、経済産業省からは「高度デザイン人材育成ガイドライン」として、これからの社会に必要なデザインを基軸にして有益な変革を導く人材を育成する手引が発表されています。

冒頭にご紹介した書籍を含め、こうした内容が発信されるようになったのは、これまで特殊技能だった「デザイン」、またはビジネスシーンからやや距離のあった「デザイナー」の存在が社会で身近になったのではないかと思います。

その背景には、上記ガイドラインに示されているように「デザイン」に求められる役割や守備範囲が広がってきたこともあります。

こうした流れの中で、これからの「インハウスデザイン」は、より未来志向で社内の様々な部署を横断して「ハブ」的な役割が求められるように思います。

よりよい未来を描く「アート」の力と、それらを実現させる「クラフトマンシップ」の力が、これからの社会課題を解決していく上で果たす役割も少なくないでしょう。

[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

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