2017.09.28

ブランディング・メソッド・コラム
ブランドの存在を広める!デジタルプロモーション(第2回)

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

ブランディング・メソッド・コラム

ブランドの能力を引き出すー今30%程度しか引き出せていなければ、残り70%のポテンシャルをどのようにして発揮するか。

今回のブランディング・メソッド・コラムは「ブランドを多くの人に知ってもらうための仕組みづくり」として、デジタル時代のブランドの伝え方を考えていきたいと思います。



前回は「インターネット広告の種類とトレンド」として、ターゲットにリーチするための技術を見ていきました。今回は、レビューサイトやSNS、ブログなど、評判を「得るメディア(Earned Media)」に向けたブランド発信を考えていきたいと思います。

そもそも「得るメディア」は、専門家、一般生活者問わず「取り上げてもらう」ことで成立しますので、コントロールはできません。しかしメーカーから発信するコンテンツの内容によっては、生活者の「共感」を得て、パワフルに広がっていく可能性も秘めています。ここでは、そうした「共感」を得るための方法を探っていきたいと思います。

■ ユーザーから共感を引き出す「伝達力」 〜3つの事例から

1.「顧客インサイト」をコミュニケーションの中心に


αNEXは、SONYがミラーレスデジタル一眼カメラ市場に参入した際のブランドです。
当時、市場をパナソニックやオリンパスが先行しておりαNEXは後発でした。そうした中αNEXは世界最小・最軽量を武器とすべく開発が進められ、当然その特徴を全面に打ち出す予定でした。しかし、調査を通してその特徴が顧客の琴線に届かないことが判明していきます。
ミラーレスは、一眼レフの性能をそのままに、小型軽量化したことで人気を得ていました。しかし顧客のホンネの部分では、“スマートフォンでは撮れない優れた画質”を得ることでした。その背景には、スマートフォンで高品質な写真が撮影できるようになり、その結果として、一眼カメラのターゲットの裾野の広がった事。何よりも「共有」することが前提の写真にあっては「他の人と違う仕上がり感」というニーズがそこに潜んでいました。そこで市場参入ではそのインサイトにフォーカスし

「背景をぼかす。胸が高鳴る。」

というキャッチコピーでキャンペーン展開されました。この一眼カメラのあたりまえすぎる特徴が、実はその時代に一番フィットする「顧客インサイト」だったのです。そしてαNEXは一眼レフカメラ市場で1位のシェアを獲得し、そのことをも実証しました。
「インサイト」を探り当てることがいかに重要かを考えさせられる好例です。

参考:『これからの広告の教科書
現在αNEXは、αシリーズとして展開されています。


2.戦略的広報の観点で「社会ゴト化」する


上のアディダスが発表したリリースには、

「ランニングブームのうらで『迷走ランナー』急増中?!」

とあります。各スポーツメーカー、様々な形で「ランニング」を取り入れたライフスタイルを提案し、それは世界規模のブームとして広がりを見せていました。そうした中アディダスがさらなる差別化を狙ったのがこのリリースです。
広くランニング、ジョギングがライフスタイルに取り入れられていく中、改めて意識調査を行ったところ、リリースにある通り7割のランナーがなにかしらの課題を抱えていることがわかりました。そこでアディダスは「迷走ランナーを救う」として様々な活動を展開していきます。結果、売上は二桁成長を果たします。ここで重要なことは「ランニング」という個人レベルの関心から「迷走ランナー」という社会課題にまで押し上げたことです。
「社会ゴト化」することで、その関心を広げた好例と言えます。

参考:『6 RULES OF STRATEGIC PR


3.ファネル型から拡散型へ、コアユーザーから拡げる


デジタルの世界では、広く認知の拡大を図りそこから絞り込んでいくファネル型(左図)よりも、一部のロイヤリティの高いユーザーから共感が広がり、理解、認知が広がっていくケースが少なくありません。

アメリカではウィルカーソンという若者がウェンディーズの無料チキンナゲットを巡ってツイッターのリツイート記録300万回を塗り替えました。また昨年日本では、ハーゲンダッツのハート探しが話題になりました(詳しくは以下のリンクをご参照ください)。
いずれも偶発性の高い事例ですが、コアファンが主人公的な役割りを担い、そこから広がりが生まれることは「得るメディア」の特徴とも言えます。そうしたコアファンをターゲットの中心に据えることで、ブランドの伝達力も高まっていくでしょう。

参考:TechCrunch『ナゲットラブ青年、リツイート回数の世界記録を達成
   日経新聞『企業も便乗 ハーゲンダッツのハート探し


■ ユーザーの感性に訴える「知覚品質」 〜5つのチェックポイント

上記のような広報的なアプローチで「伝達力」を高めるとともに、コンテンツにおいてはどういった表現が相応しいでしょうか。

前回と同様、スマートフォンを中心に考えると、手のひらに収まるメディア、限られたスペースでは、より「知覚的」に伝える方法が有効です。つまりブランドのプレ体験として顧客が感じることのできる品質「知覚品質」としてどう情報提供するか、5つの切り口を紹介します。


1.「品質」を見える化する

 •研究開発、技術力を通して伝える
 •原料、成分の品質を伝える
 •機能性を実証する など

品質を伝える、機能性を実証するにはどうすれば良いでしょう。ブランディングは総力戦です。商品戦略、機能性、それを実現するプロダクトデザインにそれらを象徴するネーミング。そこから生まれる「品質」、その伝え方は、とことん拘りたい部分、例えば機能性を実証する映像を提供すれば百聞は一見にしかず、10秒で知覚品質が芽生えるかもしれません。


2.ものづくりの「背景」を伝える

 •製造方法や工程を伝える
 •製造現場や人を伝える
 •産地を紹介する など

ものづくりの現場は唯一無二です。どこにも真似の出来ない、真似のしようのない部分でもあります。そうした資産をブランドの知覚品質に活かす方法として、いま一度ものづくりの現場を見直してみるのも良いでしょう。


3.「信頼」を示す

 •実績を示す
 •社会的なオーソリティを示す
 •支持層(著名人やユーザー)を示す など

評価サイトの代表、飲食の『食べログ』、コスメの『@コスメ』、電化製品の『価格.com』は多くの人が参照しています。またそれらのカテゴリー・サイトがない場合は『amazon』のレビューも力を発揮します。
これらの評価サイトでも、オフィシャルサイトやプレスリリースで伝えている内容が反映されるケースが少なくありません。ファクトに基づいた情報提供、第三者評価は強い力を持ち続けます。


4.「シズル感」を表現する

 •手触りや風合いなど感覚を表現する
 •希少性を表現する
 •伝統感を表現する など

知覚品質の「知覚」は、非常に繊細なファクターです。上に挙げたような触覚的なシズルもそうですが、希少性は「大切さ」といった非常に抽象的な知覚、伝統感やそのブランドの「重み」といった、こちらも説明のしようのない知覚に訴えます。ブランドに最も相応しいシズルを表現したいところです。


5.「思い」を語る

 •こだわりを語る
 •哲学を語る
 •専門領域、業界での使命を語る など

実は、最後に大切になるのが「熱」のようなものになります。何故その製品、ブランドが生まれたのか?何を目指しているのか、どういった思いが込められているのか。「なぜ?」に答えられるのはやはり人間的な「思い」でしょう。積極的にそうした思いを伝えることも重要です。

これら5つのファクターから一つでも、そのブランドに適した「表現」を見つけ、試してみてはいかがでしょうか。


「共感」や「知覚」など、デジタルが進むに反比例して、こうした人間的な伝達、表現が非常に重要になります。「得るメディア」を使う上では特に重要な視点です。1回目、2回目で見てきたメディアを活用して、次回はどういったコンテンツを届けていけば良いか。コンテンツの内容を掘り下げていきたいと思います。

■柴沼醤油醸造(海外向け製造ムービー:TCD)

ブランディング・メソッド・コラム

[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

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