2018.06.28

ブランディング・メソッド・コラム
今すぐ始める「採用ブランディング」STEP③

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

ブランディング・メソッド・コラム 今すぐ始める「採用ブランディング」

今回のブランディング・メソッド・コラムは「採用に効くブランディング・メソッド」として、採用における企業ブランドの伝え方を考えていきたいと思います。

これまで、自社の強みを学生目線で見返すこと。また各社どのようなメッセージを発信しているかを見てきました。最後になります今回はブランディングの核心である「共感」を得る、その方法を探っていきたいと思います。




■「共感」とは?

もともと、広義での「共感」は17世紀頃に哲学界などで議論し始められ、20世紀初頭にリップス-1903-が「共感、感情移入(Einfühlung*)」の概念を心理学に応用したところから、様々な学会に広がっていったそうです。*英語圏ではempathyと訳され定着

私たちの業界でも、ブランディングや行動マーケティング、共感マーケティングなど、様々なシーンで重要視されてる「共感」は、ニールセンのTV広告評価の指標にも取り入れられています。また最近では共感度測定(ニューロリサーチ)といったサービスも始まりました。

ニールセン EPIC評価
 共感度(Empathy)
 説得力(Impact)
 印象度(Persuasion)
 わかりやすさ(Communication)

■「共感」の構成要素は?


こちらは、ケラーの提唱する「顧客ベースのブランド・エクイティ・ピラミッド」というものですが、ここではどういった評価を通してユーザーとブランドとの関係性(レレバンス)が構築され、最終的には「共感(レゾナンス)」が生まれかを説明しています。

ちなみに先のリップスがどのように共感を定義したかというと、「他者、自然界、創造物といった対象と対峙する自分をその対象において客観視し、自分の定性を対象に帰属するものとして体験すること」だそうです。今では「共感」「シンパシー」といえばすぐに伝わりますが、当初はこのように規定されていたんですね。

以下『レレバンス・イノベーション』からも「共感」を構成する要素を拾ってみました。

・理性
 ブランドの特徴を合理的に判断する要素
・感覚
 視覚的な印象やブランドネームの音感など、五感に代表される要素
・協調性
 自分や周囲の人たちが共有している認識、社会性や時代性などの要素
 またそこに起因して生まれる行動
・価値観
 倫理、道徳といった、一人ひとりがもっている信条

■ 「共感」コミュニケーション

さて、そうした要素を意識しつつ、どのようにブランド・コミュニケーションを組み立てていけばいいのでしょうか?コンタクトする人と文脈、そして伝える内容、手法の黄金比は?

リクナビの募集ページを作る場合でも、会社説明会や会社案内ムービーを作る場合でも、「共感」は人と人との間に生まれるものです。採用サイトをベースに3つのステップを見ていきましょう。



1.誰が?


まずは「誰が?」伝えれば「共感」が得やすいのでしょうか?

採用サイトにおいてよく用いられるのは「先輩の声」です。特に若めの社員を通して職種や事業内容を伝えると、単純に年齢が近いので飲み込みやすくなります。また「人事部からのメッセージ」というコンテンツもよく用意されています。ただしこちらはブランディングを行う場というよりエントリー、面接に向けた指南的な役割になります。また、社長からのメッセージといったコンテンツもよく見かけます。

ブランディングの観点でいうと「先輩」「人事部」「社長」全てが、ブランドのパーソナリティになります。ソフトバンクであれば孫さんかもしれません。auであれば三太郎がブランドのパーソナリティを決めているかもしれません。仮に「社長」として、さらに進めてみましょう



2.何を?


次に「何を?」語ればより心に響くでしょうか?

ブランドについて何を語るか、「社長」が発するのであればやはりここは、ブランドの上流概念である、これまでに培われてきたブランドの歴史、DNAやこれから目指す未来、ビジョンになるでしょう。

例えばソニーの採用サイトを見てみましょう


・キャッチコピー
 あなたと、新たなストーリーを。
・CEOメッセージ
 新たな『感動』への挑戦
・SONYの哲学
 「人のやらないことをやる」というチャレンジ精神

CEOメッセージでは、aiboを引き合いにソニーに受け継がれる「何でもカタチにしてみよう」の精神が語られています。

数多くある事業、商品の中でも、特にaiboを取り上げることで未来に向けて挑戦を続けるソニーを象徴的に伝え、その未来を切り拓く「意欲に満ち溢れた皆さんの参画をお待ちしています。」といった採用に対する姿勢を語っています。

ちなみに、正式なステートメントでは、ミッションとして「ユーザーの皆様に感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社であり続ける。」また、ビジョンとしては「テクノロジー・コンテンツ・サービスへの飽くなき情熱で、ソニーだからできる新たな”感動”の開拓者になる。」と掲げられています。



3.どういう文脈で?


CEOがブランドをその哲学やビジョンといった文脈で伝えている、その横に実は「EVP」という見慣れないタイトルのリンクがあります。

こちらをクリックすると「Employee Value Proposition」と題し、ソニーが従業員に提供する価値という文脈で、社員にとってのソニー・バリュー、事業領域の広さや世界で学び、成長できる環境などをダイジェストにして伝えています。これはなかなかいいアイデアですね。

しかし、ソニーの採用サイトの中で一番「共感」度の高い部分はその他的な扱いになっている「オリジナル」ページではないでしょうか?ここではどのコンテンツの「共感」度が高いか、見る人によって異なるかもしれません。

私の場合は「ソニー語録」がそうでした。


・常識と非常識がぶつかったときに、イノベーションが産まれる
 (井深氏)
・生意気な人たちの挑戦的な姿勢が、ソニーの原動力です。
 (盛田氏)

学生目線だと「ソニーの新規事業」コンテンツの方がワクワクするかもしれません。そういった意味では、採用ブランディングにおいてもまずは求める人材のペルソナ、そのカスタマージャーニーを描いておくことが必要かもしれません。



最後に

さて、三回を通して採用におけるコミュニケーション方法をブランディングの観点で見直してみました。対象が顧客であれ、株主であれ、学生であれ、ユーザー視点でコミュニケーションを組み立てることに変わりはありません。もしこれから採用活動を始められる場合は、何のヒントになれば幸いです。

ブランディング・メソッド・コラム 今すぐ始める「採用ブランディング」

[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

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