2017.02.07
エディトリアルデザインの役割
はじめに、エディトリアルデザインとは読み手の視線や発信者側の意図や情報を考慮して、効果的な紙面を編集しデザインすることです。
エディトリアルとは「編集」の意味で、例をあげると新聞、カタログ、雑誌、会社・学校案内、フリーペーパーなど情報が多いものをまとめることを指します。言葉は聞き馴染みなくとも、実は普段よく触れているデザインです。
日常で目にするものは多種多様な表現があるように見えますが、トーン&マナーなどブランディングの観点でコントロールされています。分かり易いものとしてはファッションブランドのカタログです。広告などでイメージするブランドの世界観を、カタログを手に取ることでじっくり理解を深めさせる役割があります。
エディトリアルデザインはハーフ&ハーフ
一体何がハーフ&ハーフかと言うと、エディトリアルデザインの表現は「編集デザイン」と「広告デザイン」の要素のハーフ&ハーフでできていると考えます。
雑誌やカタログなど数回見かえし読まれる前提の「編集デザイン」と物事を一瞬で伝えるための「広告デザイン」は一見畑の違う領域に感じますが、エディトリアルデザイン側からの視点だと密接に関係しています。
編集デザインはキャッチコピーや本文などのテキストや図、写真などを整理・配置し、紙面の要素が美しく整然とデザイン・レイアウトされて完了ではありません。
1つ目の広告的な要素が必要になると考えられる箇所は、表紙デザインです。表紙は顔であり、面白そう、賢そう、清潔そうなどヒトと同じく第一印象を持ってもらう部分です。媒体の性質や用途によって一概に言えませんが、第一印象が悪いもしくは第一印象がなければ、どんなに面白い内容でも読んでもらうところまで辿り着かないのです。
2つ目は巻頭ページや特集ページでしょう。掲載内容を魅力的にビジュアル表現しなければなりません。ページをめくる毎に読み手の心にインパクトを与え、掴むことが重要です。例えば食の情報誌なら“美味しそう” “お店に行ってみたい”、カタログなら“かっこいい” “欲しい”、会社・学校案内なら“ここで働いてみたい” “そこで学びたい”という掴みです。
よくポスター等の掲示広告は、「0.5秒の勝負」と言われます。それは人が歩きながら物を意識し認識するのに必要な時間です。エディトリアルデザインにはこの0.5秒で目に留まり、さらにページをめくって心を掴むデザイン・レイアウトが求められます。
I’m here
本、雑誌、カタログ、冊子など接する場所はそれぞれ違いますが、「興味を持ってもらう→手にとってもらう→読んでもらう」とならないと意味がありません。分かりやすい接点の例として書店を想像してみてください。各ジャンルに区分されてはいますが、あの膨大な量の本たちは言わばライバルです。さまざまな色使いやテーストでそれぞれ沢山のメッセージを発信しています。その中で「I’m Here!」と訴え、内容への期待感を盛り込めたデザインが上手いデザインではないでしょうか。
「I’m Here!」と訴える広告的なチカラが表紙にあってこそ、手に取られコミュニケーションの第一歩が始まります。そしてページをめくり、魅力的なデザイン表現によって掲載内容が心を掴むことでアクションへつながると、そのエディトリアルデザインは成功と言えます。
ただ、何でもかんでも存在感があればいいものでもありません。
例えば高級ブランドが培ってきたイメージと全然毛色の違う表現をしてはNGです。顧客に気づかれないどころか今までの信頼を裏切ることになり、結果、顧客離れにつながってしまいます。様々な媒体とその性格、用途があるなか難しいことですが、「たらしめる」ことは必要です。接点における存在感だけで訴求するのではなく、どう発信(表現)すべきか、どう受け取ってもらうべきかブランディングの観点で表現をコントロールし、エンドユーザーにいち早く識別・認識させることが重要です。
新・深い会社案内
エディトリアルデザインは「ハーフ&ハーフ」で、「I’m here!」と訴えることが重要と述べてきましたが、それは電子書籍などのデジタル世界でも同じで、定額読み放題サービスで無数に並ぶ表紙デザインやアイコンに見ることができます。
ただ、現在よく見られる雑誌などのデジタル版はデジタル化への移行の過渡期の産物で、本来電子書籍は紙媒体のコンパクト版ではなくデジタルに応じた深みがあるべきです。エディトリアルのNext Stageはそこだと考えます。
2010年、iPadの登場により電子書籍が一時脚光を浴びました。当時の代表的なものとしてiPad版最初の「WIRED」(コンデナスト・パブリケーション)や深海に住む様々な生物を収録した電子書籍「深海の変わった生きもの」(幻冬舎)があります。革新的でエディトリアルの未来を醸成させるものです。紙では不可能なデジタルならではの動画掲載や縦横可変レイアウト、ハイパーリンクにより情報やデザインに深みが生まれました。しかし色々な条件(ネットワーク容量、スマホの普及率や性能、対応フォーマットや権利etc.)で時代を先取り過ぎたのか期待ほど普及しませんでした。
参照)左:WIRED(コンデナスト・パブリケーション)
右:深海の変わった生きもの(幻冬舎)
しかし全てのツールに動画などによる深みは必要なく、エディトリアルデザインのNext Stageには大きく3つのスタイルが考えられます。
一つ目はファッションや情報などの「移り変わる情報を発信するスタイル」、二つ目は会社案内などの「情報を詳しく伝えるスタイル」、そして年鑑などの「情報を残すスタイル」で、挙げた順に情報の深度が増すイメージです。
ハード面は充実し動画がより日常的に配信される今、エディトリアルデザインのNext Stageに踏み込んでいける時期ではないでしょうか。例えば会社案内をデジタル化することで、活字では伝わりきれなかった会社の魅力が引き出され、理解が深まります。今まで「紙」で見えなかったものが見えると、新しいビジネスの関係や発見につながっていくでしょう。