企業ブランディング動向
企業理念は競争優位の切り札になる!

企業理念をなぜ見直すのか?

ここ数年、お客様から企業理念を見直したいという相談が急速に増えてきています。これには創業時から使い続けてきたものが時代に合わなくなってきたというケースもありますが、それよりも社員の気持ちを鼓舞し、社内が一枚岩となるような状態を作るのが難しくなってきていることがその背景にあるようです。

高度成長時代には、会社は家族であり、社員は会社の指示通りに働いていれば安定は保証してもらえる関係でした。しかし、市場の成熟化とグローバル化が進む今、どうすれば成長して行けるかについて、会社サイドも確証を持てているわけではありません。ただ新しいことにチャレンジしていかなければ成長は担保されないことだけは確かです。従って、現代のビジネスマンには、自らの思考と行動を常に柔軟に変えていくことが求められています。これまでのやり方でベストでないと思うことは一度ストップして、新しいやり方にトライする。しかし誰しも慣れたやり方をなかなか変えることができないでいます。成功体験が大きければ尚更です。そこで変化を促すためにブランディングに取り組むわけですが、さらに進んで企業の根幹を成す企業理念の見直しにまで踏み込まざるを得ない状況を迎えているということでしょうか。

企業理念で競争優位を生み出す

企業理念とは、その企業が拠って立つ理念、哲学、良心、姿勢を表明したもので、すべての企業活動の底流にあるものです。これがしっかりと浸透している企業では、トップや上司がいちいち指示しなくても、1人1人の社員が自発的に望ましい行動をとってくれるようになります。いわゆる「理念経営」という手法で、企業が一丸となって力を生み出す原動力になります。

現代は技術やサービスが平準化し、基本的な機能・品質・サービスに差のない競争が進行しています。企業からすれば「我が社が優れている」と思っても、顧客にとっては微差でありどこも変わらないと受け止められてしまいます。こうした製品やサービスの同質化が前提の今、企業理念で差別化する、企業理念で競争優位を築こうという動きが出てきています。

組織から内在的に生まれたDNAは人を動かす

こうした企業の精神性の重要性は、今話題を席巻している日産問題が証明してくれています。日産自動車にはしっかりとした企業の精神や軸がないために、強権的なリーダーが現れた時に企業統治が正しく作用しないことの繰り返しだという記事が、朝日新聞に取り上げられていました。創業家の統治が続くトヨタとは対照的ですね。

私たちのお客さまの中で、こうした高い精神性を持つ企業が日東電工です。「新しい価値の創造」という企業理念(日東電工では経営理念)の下、新しいことを生み出すことがDNAとして社内に浸透しています。「変化はチャンス、変化を楽しむ」という企業文化で、成功した事業や製品にしがみつくこともありません。実はこの経営理念とは別に、明文化されていませんが、社内で受け継がれているいくつかの言葉があります。その一つで、私が印象的だと感じたのが「4勝3敗論理」。これは本当に新しいことに挑戦している人は失敗することも多い。0敗というのは手の届く範囲でのチャレンジしかしていないということ。だから5勝0敗の人よりも4勝3敗の人を評価する、というものです。失敗には寛容な企業風土が多くのチャレンジを促していると言えます。ただし、負け越しはダメでせめて勝ち越せという思いが4勝3敗には込められています。確か全盛期のソニーにも明文化された企業理念やブランド定義はなかったと聞きます。このように組織から内在的に生まれた「DNA」や「言葉」は、人の気持ちや行動を動かし、何よりも強い競争力を生み出します。

「企業理念なんて所詮お飾りだ」というシニカルな意見もよく耳にします。確かに企業理念を作ることがゴールではなく、それを本気で浸透させていくための企業運営やマネジメントが重要だと思います。


[筆者プロフィール]
生山久展 株式会社TCD 取締役 クリエイティブディレクター
戦略開発、調査・分析、商品開発、販促展開まで幅広いブランディング業務に従事。
30年余の実務経験をベースに、的確な現状分析から本質的な課題解決のプランニングを得意とする。