2023.09.25

パーパスの社内浸透のために
必要なたった1つのことは「パーパスの自分事化」

生山 久展 株式会社TCD ブランディングオーソリティー

「パーパスの社内浸透のために必要なたった1つのことは「パーパスの自分事化」

パーパスの社内浸透を阻むものは何か?

筆者が当コラムでパーパスを取り上げるのは3回目。今回はお客様から相談の多いパーパスの社内浸透について論じてみたいと思います。

現代の経営の羅針盤としてパーパスを制定する企業が増えてきていますが、それに比例するように「せっかく作ったパーパスが事業活動と連動しない」「パーパスに基づく行動が促せない」といったお客様の声が数多く寄せられるようになりました。私も実務の中で社内浸透に向けた様々なプログラムを開発・提供していますが、一筋縄ではいかないことは痛いほど実感しています。

いったい何が社内浸透を阻んでいるのでしょうか?様々な企業でのトライ&エラーの中で、その手掛かりのようなものが見えてきており、今回のコラムはその一端を紹介したいと思います。まだセオリーや鉄則といった次元にまで昇華し切れていませんが、パーパスに取り組まれているすべてのみなさまへ少しでもヒントになれば幸いです。


あらためてパーパス経営とは?

まず今回のコラムの中で使うパーパスの意味は、狭義のパーパスを起点としたミッション・ビジョン・バリューまでを含めたブランド体系の全体を指すものとご理解ください。

パーパス経営とは、パーパスという共通の目標を持ち、一人ひとりの社員が常日頃からパーパスを意識して自身の業務にあたることで、根っ子の価値観や行動のベクトルが揃った強い組織を作ることを目指しています。
いちいち現場で上司が指示・指導をしなくても、自ら考えて自ら望ましい行動ができるような組織。この主体性が何より大事です。
上意下達の軍隊型組織は、一見統制がとれているように見えますが、基本的に指示待ちで主体性が乏しいために、変化の激しい現在の事業環境下ではフィットしないことが多くなってきています。


パーパスをいかに「自分事化」させていくか

従って、パーパス経営の第一歩は、パーパスへの理解・納得・共感を引き出すインナーコミュニケーションになります。

各企業でもこの重要性は認識していて、1回の通達だけではなく、ブランドブックやブランドムービーなどを活用して社員の心に響くような試みが行われています。リクルートが「発信型:伝える」から「受信型:伝わる」への転換が必要と提言されていましたが、まさにその通りだと思います。

しかし、それでもパーパスは社内に浸透していかない。これはどうしてでしょうか?多くの社員はパーパスに理解・納得・共感できないのではなく、パーパスと自分の日々の仕事がつながらないので、自分とは関係のないものと捉えてしまっています。この実現は上層部のリーダーや一部の部門の人がやってくれるものと。そのため「自分もこのパーパスの実現に関わっている」というマインドを形成することが何よりも重要になります。


パーパスを「自分事化」するためのアイデア

複数のクライアントでの実際の業務を通じて、パーパスを「自分事化」させていくためのアイデアが見えてきましたので、以下に紹介していきます。
私自身は経験を重ねるたびに「❷現場リーダーのマインドセット」が重要だと感じるようになってきています。


❶パーパスから具体的な開発目標や行動目標を示す
社員が常日頃意識できる目標や基準を設定してあげることは重要です。自分には遠すぎると感じるパーパスを少し身近にイメージできるものにブレークダウンしてあげる。
弊社では、実際に実務の中で①製品開発基準②社員行動基準③デザイン基準、という3つの基準を示すことを推奨しています。パーパスと事業を結びつけることで社内浸透を図っていこうとするものです。
以下に示した「ソニー開発18カ条」もこの好例だと思います。これはウォークマンの開発当時からあったものと言われています。こうしたDNAのようなものが内在し続けているというのは、強い組織の理想的な形だと思います。

パーパスと3つのアイデンティティ


■ソニー開発18カ条

第1条:客の欲しがっているものではなく客のためになるものをつくれ
第2条:客の目線ではなく自分の目線でモノをつくれ
第3条:サイズやコストは可能性で決めるな。必要性・必然性で決めろ
第4条:市場は成熟しているかもしれないが商品は成熟などしていない
第5条:できない理由はできることの証拠だ。できない理由を解決すればよい
第6条:よいものを安く、より新しいものを早く
第7条:商品の弱点を解決すると新しい市場が生まれ、利点を改良すると今ある市場が広がる
第8条:絞った知恵の量だけ付加価値が得られる
第9条:企画の知恵に勝るコストダウンはない
第10条:後発での失敗は再起不能と思え
第11条:ものが売れないのは高いか悪いのかのどちらかだ
第12条:新しい種(商品)は育つ畑に蒔け
第13条:他社の動きを気にし始めるのは負けの始まりだ
第14条:可能と困難は可能のうち
第15条:無謀はいけないが多少の無理はさせろ、無理を通せば、発想が変わる
第16条:新しい技術は、必ず次の技術によって置き換わる宿命を持っている。それをまた自分の手でやってこそ技術屋冥利に尽きる。自分がやらなければ他社がやるだけのこと。商品のコストもまったく同じ
第17条:市場は調査するものではなく創造するものだ。世界初の商品を出すのに、調査のしようがないし、調査してもあてにならない
第18条:不幸にして意気地のない上司についたときは新しいアイデアは上司に黙って、まず、ものをつくれ


❷現場リーダーのマインドをリセットする
社内にパーパスが浸透しない要因は、現場リーダーのマネジメントにあることが少なくありません。パーパスの実践を試みようするのを止めたり、実践しても評価されない状況では、部下のとまどいや失望は深まるばかりです。
パーパス経営に本気で舵を切るならば、リーダーへのマネジメント研修をいち早く実施して、パーパスへの深い理解とチーム内に浸透を図る責任があることの自覚を促すマインドセットが不可欠です。チームにおけるパーパスの実現をイメージさせ、一人ひとりのメンバーの「役割」を明示してあげる。そして日常的にリマインドと行動奨励を動機づける。1on1はその絶好の場になるはずです。


➌「スタープレーヤー」「スターチーム」を作り全社で共有
多くの人は保守的で、現状を変えることを嫌がり、なかなか新しいことに挑戦していきません。ただ「どうすれば評価されるのか」を具体的に示してあげれば人は動きます。パーパスの実践で成功した個人やチームが出てくれば、これをとことんスター扱いして、パーパスアワードで表彰したりイントラネットで共有化していきましょう。パーパスの実践が業績アップになり、自身の評価アップになることを示してあげる。なるべく早く「スタープレーヤー」「スターチーム」を作ることが社内浸透の早道だと思います。


❹トップの本気度と強いリーダーシップ
そして何より大事なのは、パーパス経営に取り組むトップの本気度を示すことです。ことあるごとにメッセージを発信し、現場リーダーの意識の擦り直しにはトップの強いリーダーシップを発揮する。古い話で恐縮ですが、90年代のカルビーでは営業部門の押し込みによる見かけの売上づくりが問題になりました。当時のトップは営業のノルマを廃止し、メーカー営業の本来あるべき活動にシフトするという判断を下しました。押し込みをやめることで一時的に売上は低下することがあっても、本来あるべき姿を取り戻そうとしたリーダーシップは見事です。
パーパス経営に舵を切るのであれば、ぶれることなくパーパスの実践を何よりも優先する。旗振り役のトップにはこうした覚悟を持ち続けて欲しいと思います。


[筆者プロフィール]

生山 久展

株式会社TCD ブランディングオーソリティー

戦略開発、調査・分析、商品開発、販促展開まで幅広いブランディング業務に従事。30年余の実務経験をベースに、的確な現状分析から本質的な課題解決のプランニングを得意とする。

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