2020.03.31
ブランド・マネージャーの仕事④
モテる「ブランド・パーソナリティ」を見つける
川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター
◼️イチから始める「ブランディング」
当コラムでは、大手企業に限らず「ブランド」の重要度が増す中、BtoB企業や中小企業、地方メーカー、スタートアップ、業種・規模を問わず、これからブランディングを始められる方々に向けて、実際のブランディングの流れに沿って話を進めています。
今回は第六回目になります。何かしら取り掛かりのきっかけ、思索のヒントにしていただければ幸いです。
第0回、キックオフ篇も合わせて参照いただければ幸いです
◼️ユーザーのブランド体験をデザインする
前回までは、ブランド戦略をどのように組み立てていくか、ブランディングの基盤となるプランニング部分を見てきました。
今回からはその戦略をどのように具体化していくか、ブランドをデザインする段階に進んでいきたいと思います。
「ブランドをデザインする」とはどういうことでしょう?ブランドのネーミングを考えたり、ブランドロゴを作ることもブランドのデザインの一部ですが、もう少し広く捉えると、ユーザーのブランド体験をデザインすると言うことができると思います。またそのブランド体験の先の関係性づくりも、ブランドをデザインする重要なポイントになります。
◼️ブランド体験を生み出す、3つのデザイン
私たちがブランディングのお手伝いをする際、ブランドをカタチにしていくにあたっては、以下の3つの輪郭を明確にするため、入念なヒアリング、または打ち合わせを行います。
・ブランドのパーソナリティ
・ブランドのストーリー
・ブランドのトーン
人に例えるなら、その人の人柄(→パーソナリティ)、その人の歩み(→ストーリー)、その人の雰囲気(→トーン)を引き出していくような作業になります。そしてこれらが重なり合ってブランドの世界観が出来上がります。
実際にブランドをデザインするのは、インハウスであれ、外部パートナーであれクリエイティブのプロフェッショナルに依頼することになります。ブランド戦略で定めたターゲットとブランドとが、各々がもっとも共鳴し合うポイントはどこか?クリエイターはいつも、そのエッセンシャルな部分を探し出そうとしているものです。
それでは、目指すべきブランド像はどのように決めていけばよいのでしょう。今回は、一つ目の「ブランドのパーソナリティ」について見ていきたいと思います。
◼️パーソナリティの設定の仕方
まずは単純に、自社ブランドを「人に例えるなら?」と思いを馳せてみてはどうでしょう。例えば、かわいい系なのかかっこいい系なのか、やさしい系なのか頼りがいがある系なのか、カジュアルかフォーマルか、クールかウォームか、落ち着いた感じか活発な感じか、色々例えようがあると思います。
それを発展させていくと、動物に例えるなら?車に例えるなら?タレントに例えるなら?と、ブランドのパーソナリティの輪郭をより鮮明にしていくことができます。
ターゲットを意識することも大事ですが、根源的な性格を着色しても無理が出ますので、まずは正直なところを描いていきましょう。
最近は、D2Cブランド(*1)のように創業者のパーソナリティがそのままブランドのパーソナリティになることもあります。例えば、今更テスラが万人受けしようと「優等生」のフリをしたとしても、イーロン・マスクの「やんちゃ」なイメージは拭えないでしょうし、そのようなことをする必要もないでしょう。
むしろ情報過多、モノが溢れる時代においては、八方美人であったり、ステレオタイプなブランドはスルーされてしまいます。ここでは是非、個性的なパーソナリティをもったブランドを目指したいところです。
◼️どのようなパーソナリティが強いか?
心理学では、幼少期までに形成されその後も変わらない性格と、その後環境や経験から培われる習慣的性格や役割性格というものがあるそうです。上の図で「主義」とした部分が環境や経験から培われる個性で、ひらたく言うと、こだわりのようなものだと思います。
その人の「こだわり」が、その人の面白みだったり、魅力を感じる部分だったりするように、ブランドにおいても「こだわり」こそがパーソナリティの重要な部分だと思います。
飽和状態が膠着化する家電業界に風穴を開けたのは、こちらのバルミューダでした。後発ということもあり、立ち上げ当初からブランドづくりに力を入れていたバルミューダですが、当時の業界ではガラパゴス化(行き過ぎた多機能・高機能化)が指摘されていました。
そのような中、バミューダは徹底的にデザインこだわりました。そして何よりも気持ちよさや心地よさといった体験にこだわる商品づくりを行い、多くの支持を得ました。
顧客が企業を判断する時間を象徴する「真実の瞬間(*2)」という言葉があります。まさにバミューダはパット見たときの「瞬間」を左右するデザインにこだわり、実際にその商品を体験する「瞬間」にこだわり成功したと言えます。今では日本だけでなく、アジア、ヨーロッパにも事業を展開し、そのブランド力を強めているのは、そうした「こだわり」によるものなのではないでしょうか。
◼️SNS時代のモテるブランド
モテるモテないの話ではないのですが、例えばスポーツ選手も、昔のかっこいいと今のかっこいいとでは、随分違うと思います。
SNSチャネルがユーザーとブランドの接点として重要となる昨今では、時代の空気に馴染むことも大切です。「いまのモテ顔(ブランド)って?」と時流の目線で見る、「この人(ブランド)、モテる?」と一歩引いた目で見ることで、時代の空気にどれくらいフィットしているかイメージしやすくなると思います。
ちなみに私は、今年はじめに日本第一号店をオープンしたシューズブランド『allbirds』は非常に今的で、旬な「モテ顔」だと思いました。D2Cブランドが一過性の流行りなのか、時代の要請から生まれたものなのか、まだまだこれからといった感じですが、allbirdsの
・エコフレンドリーなプロダクト・アイデンティティー
・遊び心のあるグラフィックデザイン
・やさしいトーン、シックなカラー展開
・押しが強すぎず、シンプルで洗練されたブランド表現
それらの総体を感覚的に捉えたとき、すごく時代にマッチしたパーソナリティを感じました。もちろん、格好だけでなく熱意があってこそです。以下に共同創業者のインタビュー記事をご紹介します。
巨大スポーツブランドではない選択肢。日本に上陸する“最も履き心地のよい”シューズ「Allbirds」の革新性
lifehacker:共同創業者ジョーイ・ズウィリンジャー氏インタビュー
◼️ブランドにパーソナリティを設定する3つの利点
こうしてブランドにパーソナリティを設定にしておくことで、以下の3つの利点が生まれます。
一つにはブランドに「独自性があるか」「差別化が図れているか」のモノサシになります。先程のように自社ブランドを人に例えた際、例えば「あれ?あんまり面白そうな人じゃないなぁ…」となるようでは、市場で覚えてもらうことは困難でしょう。そのような時は、「ならでは」の個性をもう一度探し直しましょう。
二つ目に、ブランドを擬似的にイメージすることで、ユーザーとコミュニケーションを図りやすくなります。人は感情で動く部分が大きいので、やはり面白くないより面白いほうが、楽しくないより楽しいほうが、かっこ悪いよりかっこいい方が感情は動きやすくなります。どういったところがチャームポイントなのかを把握することで、アピールもしやすくなります。
そして、三つ目が一番重要ですが、ブランド表現をしていく上で一貫性を保ちやすくなります。「らしい」「らしくない」といった判断がしやすくなり、ブレのないブランド体験を提供することができます。
ブランド・パーソナリティを人に擬えて見てきましたが、人に出会ったときにまず第一印象があります。そこには名前や性別、年齢、外見、声、話し方や笑い方、色々な要素が組み合わさって第一印象が形成されます。また会話を交わす中で、これまでに養われた経験や育ってきた環境、好きなこと、嫌いなこと、将来の夢などを知り、「その人」体験が重なっていきます。そうしてパーソナリティの輪郭が明確になっていきます。
ブランドも同じで、目に見える部分、目に見えない部分、なんとなくフィーリングで感じる部分もあれば、視覚以外で感じる部分もあり、様々な要素が体験的に蓄積されて、ブランドは形成されていきます。ですので、どのような場面でもブランド体験に一貫性を与えるため、パーソナリティがブランドを表現する際の指針になります。
◼️最後に
SNSが日常的なコミュニケーションツールとなり、ブランドとユーザーとの距離はどんどん縮まっています。そこではより人間的でパーソナリティの豊かなブランドが求められると思います。
上記のようなスタディは、ブランディングプロジェクトの中でもワークショップ的に行うことがあります。ぜひ楽しみながら、ブランドのパーソナリティづくりにトライしてみてください。
以下に、ジェニファー L. アーカーが提供するブランド・パーソナリティの5つの類型をご紹介します。プランド・パーソナリティーを構成するキーワードの一例にご参照いただければと思います。
ex)様々な“コーラ”のパーソナリティ
コカコーラ:クールでアメリカンそして王道感を感じるコーラ(cool, all-American, real)
ペプシコーラ:若々しくエキサイティングで、イカしたコーラ(young, exciting, hip)
ドクターペッパー:常識にとらわれずユニークで楽しいコーラ(non-conforming, unique, fun)
ブランド・マネージャーの仕事 [Back Number]
[筆者プロフィール]
川内 祥克
株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター
企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。