2019.11.22
企業ブランディング動向
ブランドストーリーはもう古い?
生山 久展 株式会社TCD ブランディングオーソリティー
経営戦略としてブランドストーリーが注目されている
私は普段から企業のコーポレート・ブランディングをお手伝いしています。コーポレート・ブランディングとは、簡単に言えば自社の「強み・良さ・特長」を顧客に響く文脈に変換して伝え、自社に対する望ましい認知や態度を創り続ける活動のことです。
コーポレート・ブランディングは図1のような変遷を辿ってきていますが、現在日本においては自社の価値を一つの「ブランドストーリー」に仕立てて、顧客や社会との共感や絆を生み出していくことが焦点になっています。一橋ビジネススクールの楠木建氏の「ストーリーとしての競争戦略」が経営書としては異例の10万部突破というベストセラーになったように、「ブランドストーリー」は経営戦略において極めて重要なものになってきています。
「ブランドストーリー」から「ナラティブ」へ
そんな中、2017年にForbes JAPANに「2017年はストーリー型マーケティング終焉の年に」という大変興味深い記事が紹介されました。ストーリーやストーリーテリングを重視する古い考え方を捨てるべきとの主張で、今後重要なポイントとして「ナラティブ」を挙げています。
「ナラティブ=Narrative」という単語は日本人にはあまり馴染みがありませんが、ナレーションという単語と同じ語源で、「語ること」という意味です。ストーリーと何が違うのか分かりにくいですが、従来のブランドストーリーは出来上がった物語を自己完結型で語るワンウエイなのに対して、「ナラティブ」は顧客や社会と対話しながら共創するツーウエイという意味で使い分けているようです。
ブランドとは、知的所有権という立場からは企業の持ち物ですが、その実体は顧客などのステークホルダーの頭の中にあるイメージの集合体ですから、「ナラティブ」のほうが理に適っているという見方もできますね。行動経済学でノーベル賞を受賞したロバート・シラー教授が2013年に、Web時代のバイラルなどの影響力を考慮すべきとの「ナラティブ経済学」を提唱していて、ここからブランディングやマーケティングの経営学の分野にも「ナラティブ」という概念が波及拡大してきたようですね。
「ブランドストーリー」は「ナラティブ」の土台になる
私は「ナラティブ」という概念を全く知りませんでしたが面白いですね。この記事を書いたコンサルタントはアメリカ人ですが、やはりアメリカはブランディングに関しては1周以上前を走っている印象を受けます。図2のコーポレート・ブランディングの第6期、「ナラティブ」の時代に突入していることを実感します。
日本ではまだブランドストーリーを作りきれていない企業も多いと思います。ブランドストーリーなしには「ナラティブ」のフェーズには進むことはできません。ブランドストーリーは、「ナラティブ」の土台、土壌になるものと言えるでしょう。
「自分たちは何者で、何のために、何にこだわり、何を武器として、どこへ向かうのか」
顧客や社会から理解・納得・共感してもらえるブランドストーリーの重要性は、現在も全く変わっていないと言えるでしょう。いろいろとブランドに関する新しい概念が出てくるとつい振り回され気味になりますが、ブランドストーリーのような大事なポイントは色褪せるものではないことを肝に命じておきたいものです。
次回は、より良いブランドストーリー作りの鍵となる「PURPOSE=目的」について事例を交えて詳しくご紹介したいと思います。
[筆者プロフィール]
生山 久展
株式会社TCD ブランディングオーソリティー
戦略開発、調査・分析、商品開発、販促展開まで幅広いブランディング業務に従事。30年余の実務経験をベースに、的確な現状分析から本質的な課題解決のプランニングを得意とする。