2026.05.12
なぜあのブランドは真っ先に思い出されるのか? 今注目のカテゴリー・エントリー・ポイント―その設計の要諦
生山 久展 株式会社TCD ブランディングオーソリティー

最近、マーケティングの世界では、カテゴリー・エントリー・ポイント(=CEP)という言葉を見かけることが増えてきました。私は40年近くマーケティングの仕事に携わってきましたが、この言葉を知ったのはつい数年前。多くのマーケッターにとってCEPは近年台頭してきた新しい概念です。私自身もようやく実際の業務で使い始めたところで、正直まだ「使いこなす」という境地には辿り着けていません。このコラム執筆の機会を活かして、今話題のCEPについてみなさんと一緒に勉強していければと思います。
コカ・コーラのCEPはご存知「爽やかなひと時」
それではCEPとはいったい何でしょうか?日本語では「ブランドの入口を設計する」と訳され、顧客がある特定の商品カテゴリーを欲する「きっかけ・状況・動機」のことを指します。何かの商品を利用する時の顧客の感情・心理・気分にフィットしたCEPを訴求し続けることで、真っ先に思い出されるブランドになることを目指すものです。みなさんご存知のコカ・コーラは長年「爽やかなひと時」というCEPを訴求し続けてきています。「喉の渇きをうるおす」だけなら水でもお茶でも他のジュースでも構わないわけですが、何となくコカ・コーラのあの独自の味や爽快な気分を味わいたいと思う瞬間がありますよね。このようにCEPの設計と展開によって、顧客のマインドと行動をコントロールしていくアプローチです。

chocoZAPのCEPは「すき間時間に体を動かしたい」
事例を続けましょう。AIに「最近のCEPの成功事例を教えて」と聞いたところ、真っ先にあげてきたのがchocoZAPでした。chocoZAPはRIZAPが2022年から展開する新業態。今や全国で1800店舗以上、会員数110万人と事業として大きな成功を収めています。従来のジムには「本格的に体を鍛えたい」という1つのCEPしかなかったところに、「ちょっとしたすき間時間に体を動かしたい」という新しいCEPを持ち込んできました。市場導入当初のCMで、サラリーマンがスーツ姿のままでマシーントレーニングしているシーンは、今でも強烈に印象に残っています。
CEPはEBMの科学的知見から生まれた概念
CEPの概念を提唱したのは、南オーストラリア大学のエビデンス・ベースド・マーケティング(=EBM)グループのジェニー・ロマニウク教授です。CEPの概念が発表されたのは2010年ですが、EBMが注目を集め始めた2020年頃からCEPに脚光が当たり始めたようです。
そしてこのCEPの概念はどこから生まれてきたかというと、コトラーのブランド成長理論である「既存顧客のロイヤリティを高めることが重要」の否定からでした。EBMグループは、ブランドの成長には「新規顧客を獲得し浸透率を上げること」が重要で、この方が市場シェア拡大に直結するというデータを示しています。
少し前のコラムに書きましたが、EBMグループはこれまでのコトラーやアーカーに代表される古典的マーケティングの「定説」を科学的な実証によって次々に覆してきています。「STPでブランドは成長しない」や「ブランド成長は既存維持よりも新規獲得」というファクトには大きな衝撃を受けました。
さて、広く新規顧客を獲得するためには、商品カテゴリーへの関与度がさして高くないライトユーザーを取り込む必要があります。ライトユーザーは商品やブランドへの思い入れが弱いので、ある特定の商品カテゴリーを欲する状況(=CEP)になった時にたまたま思い出したブランドを購入する傾向が強いです。「この場面ならこのブランド」の記憶の結びつきを強くすることが実際の購買行動に直結するというわけです。実際のマーケティング場面では「設計したCEPで第一想起を獲ること」が戦略目標になります。ちなみに第一想起のブランドを購入する確率は60%前後になると言われています。

空白のCEPをいかに見つけるか
それでは最後にCEPをどのように設計すればよいのでしょうか。
CEPの提唱者であるジェニー・ロマニウク教授が開発した「7Wフレームワーク」を使いながらアイデアを案出していきましょう。
競合がまだ見つけていない「空白のCEP」を見つけるためには、商品の機能やスペックから少し離れて、「顧客の生活の文脈」で考えていくことが重要です。SNSやインタビュー調査などでカテゴリーにおける顧客の生の声をなるべく数多くインプットしておくことが、精度の高いCEP発見に結びつきます。

終わりに
CEPは、従来から策定してきたSTPや提供ベネフィットなどの解像度を高める目的で設計するものです。これ単独で活用するというより、他のフレームと併せて補完的に活用するものといえるでしょう。
今後いかにテクノロジーが進化しても、人間の「想起=思い出す仕組み」が変わることはありません。「真っ先に思い出されるブランド」の創出を目指して、CEPの構築に積極的にトライしていきましょう。
参考)『マーケティングの科学』 バイロン・シャープ (2025)
[筆者プロフィール]
生山 久展
株式会社TCD ブランディングオーソリティー
戦略開発、調査・分析、商品開発、販促展開まで幅広いブランディング業務に従事。30年余の実務経験をベースに、的確な現状分析から本質的な課題解決のプランニングを得意とする。
