2021.10.18

ブランド・マネージャーの仕事⑩
ブランディングの進め方(まとめ)

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター


■イチから始める「ブランディング」


当コラムでは、大手企業に限らず「ブランド」の重要度が増す中、BtoB企業や中小企業、地方メーカー、スタートアップ、業種・規模を問わず、これからブランディングを始められる方々に向けて、実際のブランディングの流れに沿って話を進めています。

今回でこのシリーズも最終回になります。これまでの内容を振り返りながら、何かしらの取り掛かりのきっかけや、思索のヒントにしていただければ幸いです。

第0回、キックオフ篇も合わせて参照いただければ幸いです



■ブランド・マネージャーの仕事 [シリーズ総集編]


こちらのシリーズでは、以下のブランディングの流れに沿って話を進めてきました。ブランド戦略を立てる企画フェーズ(1〜3)、ブランド戦略をカタチにするデザインフェーズ(4〜6)、実際に顧客とコミュニケーションを行う運用フェーズ(7〜9)。

いずれもHow to的な手法というよりは、それぞれのフェーズで重要になる視点や注意したい内容などをお伝えしてきました。最終回では改めて、以下の流れで振り返っていきたいと思います。

目次

  • 1.STPの設定(競争優位)
  • 2.提供価値の体系化
  • 3.ブランド・コンセプトの策定
  • 4.ブランドのトーン&マナー策定
  • 5.ブランドストーリーの構築
  • 6.ブランドのデザイニング(経営資産)
  • 7.ブランディングの実践 〜言葉〜
  • 8.ブランディングの実践 〜コンテンツ〜
  • 9.ブランディングの実践 〜デジタル・マーケティング〜



■1.STPの設定(競争優位)


ブランディングのすべてはコンセプトづくりから始まります。そのフレームワークの一つがSTP分析です。自社の強みを活かし、どのようなセグメント(S)に位置づけ、どういったターゲット(T)を狙い、どのようなポジション(P)で他社と差別化するか。
楠木氏は『ストーリーとしての競争戦略(*)』の中で、コンセプトとは本質的な顧客価値の定義とし、以下のように問いかけています。


 「本当のところ、誰に何を売っているのか?」


この答えこそがブランド戦略の核をなし、「なぜ」顧客がその商品・サービスに対価を払うのか、ブランドのグランドデザインへと繋がっていきます。

上記著書で例示されているブックオフのコンセプトは「捨てない人のためのインフラ」です。ブックオフは、ただ中古品を扱っているのではなく、本当のところは「捨てたくない人」にプラットフォームを提供している、そのユニークなSTPが成功の鍵となりました。シリーズ第一回では、STP分析について見ていきました。




■2.提供価値の体系化


STP分析を行い、ブランド戦略のアウトラインが固まれば、ブランド価値の体系化を行います。第二回ではサイボウズのブランド戦略の変遷をご紹介しました。「グループウェア」という機能的価値を「チームワーク」という社会的価値に押し上げ、ブランドコンセプトをより強固なものにしています。

現在サイボウズでは、企業理念として「チームワークあふれる社会を創る」というワードが掲げられています。

人生100年時代、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、企業が抱える様々な課題を「チームワーク」という切り口で解決していこうという試みです。昨今のブランディングでは、そうした社会課題に対するスタンスが問われるようになっています。




■3.ブランド・コンセプトの策定


戦略フェーズの締め括りとして、コンセプトメイクのケーススタディを見ていきました。シャネル、Airbnb、スターバックス、特にスターバックスの「サードプレイス」はあまりにも有名ですが、


 ・主体的な「こだわり」
 ・客体的な「ニーズ」
 ・社会的な「意味」


いずれを欠いても、次のステップ、デザインフェーズで強いブランド表現を行うことは出来ません。ブランド・コンセプトを練る時間は十分にあります。一度決めた後でも更新することは可能です。

変化が激しく、先が読めない時代とよく言われます。ブランド・コンセプトも、時代に合わせて柔軟にアップデートしていく必要があるでしょう。




■4.ブランドのトーン&マナー策定


第四回からは、ブランド戦略をカタチにしていくデザインフェーズを見ていきました。ブランドの「世界観」や「トーン&マナー」といったものをどう組み立てていくか。

昨今ではInstagramやLINEなどを通して、ブランドと顧客との関係が非常にパーソナルになっています。ブランドにパーソナリティを設定しておくことで、そうしたシーンでもブランド表現に一貫性を持たせることができます。

また、そのパーソナリティが持つ「こだわり」も大切です。人と同じで、「こだわり」が個性になり、魅力に繋がります。ブランドを人に見立てたとき、その時代にフィットしているか、ブランド・パーソナリティが仕上がった際は、モテ度という目線でチェックしてみてもいいかもしれません。




■5.ブランドストーリーの構築


ブランドは時間を掛けて顧客の中に形成されていきます。初めて見たときの第一印象、人やメディアを通して見聞きする評判、商品に実際に触れたときの感覚、ブランドの全てのアウトプットが顧客の記憶として蓄積されてブランドがカタチづくられます。

また昨今では「PURPOSE(パーパス)」がバズワードのようにもなっていますが、そのブランドがどのような社会的役割を目的として営まれているか、そうした企業の姿勢も記憶として残っていきます。

ブランドは、声高に広告で認知を広めるのではなく、一つひとつの活動、取り組みが繋がってストーリーとなり、社会に届き、顧客の心の中へと浸透していきます。「共感」をベースにカスタマージャーニーを描き、時間軸を持ってブランドストーリーを描くことが必要になります。




■6.ブランドのデザイニング(経営資産)


企業の価値や製品の品質は、必ずしも顧客に100%伝わっているわけではありません。競合となる企業や製品と比べて顧客が感じる品質やイメージを含めた「知覚品質」と実際の品質には、必ずギャップがあります。


 ・ブランド認知
 ・知覚品質
 ・ブランドロイヤリティ
 ・ブランド連想


ブランドの価値はブランドエクイティ(資産)とも呼ばれ、上記4つに大分されます。これらのいずれにも大きく関わっているのがデザインです。

ブランドを象徴するマークや色、知覚品質を左右する見た目や使用感、愛着を醸成するキャラクターやストーリー、それら全てが合わさって、顧客が想起するブランドイメージが出来上がります。

顧客が感じる品質は機能性だけでなく、そうした包括的なデザインの集積です。ブランド資産が経営戦略の根幹を成すべき所以がそこにあります。




■7.ブランディングの実践 〜言葉〜


さて、いよいよ練りに練ったブランド戦略をカタチにし、顧客に届けていくブランディングの運用・育成フェーズです。

昨今ではデジタルの活用、その重要性は増すばかりです。以前はリアルとデジタルは並列する関係でしたが、今ではデジタルがまずあり、そこにリアルが内包される「アフターデジタル」な世界になっています。

そこではTikTokやYouTubeなど、映像を中心にした情報伝達方法も有効ですが、人から人への伝達を考慮すると「言葉」というメディアは最強です。


 ・社会性のある言葉
 ・自己表現できる言葉
 ・連帯を感じさせる言葉


ブランディングの実践フェーズでは、ブランド・コミュニケーションの核となる届きやすい言葉を探っていきます。




■8.ブランディングの実践 〜コンテンツ〜


ブランディングの本質はコミュニケーションです。社内に向けたブランディング、社外に向けたブランディング、または採用に向けたブランディング、いずれの場合もターゲットとする人たちと直接話ができればいいのですが、そうもいきません。そのときに必要となるメディア(媒体)がコンテンツです。

現在ではコンテンツを乗せるチャネルが様々あります。また「検索」や「#タグ」といった顧客と接点を生み出すファンクションも数々あります。

一昔前であればイベントを開催したり、広告を出したり、DMを送ったり、顧客との接点づくりには何かとコストが掛かりました。もちろんインターネットでもそうした広告費は必要になりますが、コンテンツの作り方によってはひとりでに顧客接点を生み出してくれることもあります。

コンテンツ力と全体的なメディアデザインが結果を大きく左右するということは、言うまでもありません。




■9.ブランディングの実践 〜デジタル・マーケティング〜


最後に、マーケティングにおけるDX事情をお伝えしました。

キーワード検索対策やコンテンツ・マーケティングは今も主要な施策の一つですが、一方でインターネット広告も日々進化しています。

ECに関連するネット広告では、これまでのキーワードをチューニングしたり、広告文をアレンジしたりする運用型広告よりも、Google Adsenceのようにアドネットワークが自動的に出稿を行うオートマティックな広告の方がいい結果を出す場合も少なくありません。

また、扱う商品によってはインフルエンサーの活用抜きには考えられないといったケースもあります。

デジタルの世界は日進月歩で進み、何が効く・効かないといった判断が難しい場面も多々ありますが、運用を続けることで精度を上げていくことは可能です。

KPIを設定し、改善の継続により効率を向上していく体制づくりが重要になります。




■最後に


コロナウィルスが世界に広がる少し前から始まった当シリーズも、ようやくコロナ禍の出口が見え始めたところで締め括ることとなりました。アフターコロナと言われるように様々な業界で大きな転換期を迎えています。
これまでお届けした内容が少しでも、これからのアクション、チャレンジの参考になれば幸いです。



(*)ストーリーとしての競争戦略 楠木建著

[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

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