2024.09.05
顧客体験(CX)とは?―『デザイン経営』講座
川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター
■社内に“自信”を与え、社外に“共感”を生む、デザイン経営
こちらでは、デザインの力を活かして経営や事業の推進力を高めたいリーダーに向けて、TCDが日頃取り組んでいるブランディングのテーマから、旬な内容をピックアップしてお届けします。
今回は、デザイン経営でも特に重要な顧客体験(CX=カスタマー・エクスペリエンス)について見ていきたいと思います。
1. デザインのプロセス
2. 顧客体験(CX)の重要性
3. 鍵は「課題」を超えた「驚き」
4. CXとCJ
1. デザインのプロセス
デザイン経営は、顧客体験(CX)を改善するための強力なフレームワークです。出発地点は顧客や社会、市場が抱える課題を解決する「仮説」から始まります。その「仮説」をカタチにする「構築」フェーズ、そしてそのカタチにしたものを調査またはヒューリスティック*な分析を行う「検証」フェーズへと進みます。このサイクルの頻度、精度を高めることでデザイン経営の質を高めることができます。
*ヒューリスティック:経験則に基づく検証
特に、市場投入前後でこのサイクルが威力を発揮するのが開発におけるプロトタイピング、運用における顧客体験の設計になります。今回は、後者にフォーカスしていきます。
2. 顧客体験(CX)の重要性
グローバル化、情報化社会が進むにつれ、あらゆる業種で製品やサービスの機能や品質だけでは差別化優位性を保つことが難しくなっています。そこで顧客体験(CX)が、事業の成功を左右する重要な要素として注目されてきました。
CXとは、顧客がブランドとの全ての接点で得る「総合的な経験」のことで、単なる購買体験に留まらず、ブランドに対する感情的なつながりを含みます。
古くからエアラインやホテルなど観光・旅行にまつわるホスピタリティ産業で意識されてきた概念ですが、上記の理由により昨今ではBtoC/BtoB事業にかかわらず、あらゆる業界でCXの重要性が意識されています。
例えば、Appleのパッケージデザインは、パッケージングされている姿、“パッケージを開ける”経験を新しく塗り替えました。またDisneylandは、それまでの“遊園地”とは全く異なるアミューズメントの経験を日本に持ち込みました。
3. 鍵は「課題」を超えた「驚き」
顧客体験(CX)は、顧客がブランドをどのように認識し、どれだけ満足するかに大きな影響を与えます。同じ製品・サービスを提供している二つのブランドがあったとすれば、顧客体験が優れているブランドが選ばれ、ロイヤルティが高まり、リピート購入や口コミによる新規顧客の拡大につながっていきます。
では、どのように顧客体験を組み立てていけばよいか?ここでクリエイティブなアイデア、すなわち“デザイン”が必要になります。
冒頭、出発地点は顧客や社会、市場が抱える課題だとお伝えしましたが、ここでいう課題は目に見えている、既に明らかになっている課題では解決も月並みなものになってしまいます。
たとえば、カスタマーサポートの応対や、ウェブサイトの使いやすさに課題があった場合、その課題を解決することはCXの向上には繋がります。しかし、すでに目に見えている課題の解決は「あってあたりまえ」の域を出ず、AppleやDisneylandのような新しい価値は生まれないでしょう。
Appleは、製品だけでなく購入する前の気持ちの高ぶりや、購入した後の開封時のワクワクする感情にも細心の注意を払いました。Disneylandは遊戯施設だけでなく、敷地全体、目に入る全ての環境、来る人を迎えるスタッフの所作に至るまで、その世界観の実現に徹底的にこだわっています。
顧客がまだ目にしたことのない、味わったことのない経験を想像し創造していくことがCXの成功の鍵になります。
4. CXとCJ
さて、CX(カスタマー・エクスペリエンス)の実践にはCJ(カスタマー・ジャーニー)を描くことが不可欠です。まず顧客をしっかり見つめ、できれば顧客からフィードバックを得る仕組みを構築しましょう。
顧客との継続的なコミュニケーションを図ることで、顧客からフィードバックをCX向上に活用することができます。また顧客の新たなインサイトを得ることにも繋がります。そうして仮説、構築、検証を繰り返すことで、CX向上に対する意識を組織内に広めていくことができます。
ぜひ、顧客と一緒に新しい旅をはじめましょう。
『デザイン経営』講座 [Back Number]
- 01 インナーブランディングとは?
- 02 デザインシンキングとは?
- 03 インハウスデザインとは?
- 04 デザイン経営の実践事例
- 05 顧客体験(CX)とは?
[筆者プロフィール]
川内 祥克
株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター
企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。