2025.12.19
AI時代だからこそ、平均の外側へ 〜デザイン徒然話⑥
川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

社内に“自信”を与え、社外に“共感”を生む、デザイン経営。
こちらではブランディング、マーケティングの枠を超えて、新たな視点を探っていきます。今回のテーマは、すっかり一般化した「AI」についてです。
◼️何か「物足りない」AIの提案
AIが実用レベルになり、資料づくりにも企画書づくりにも「使える」といった感覚が広まる一方で、「正しいんだけど、なにか決め手に欠ける」、そんな感覚を抱く人も多いのではないでしょうか?
AI(大規模言語モデル)は、確率的に「最もありそうな答え」をつなぎ合わせる仕組みです。そのため想像を越えない、「そらそうだよな」という結果になりがちです。
実は、リアルな顧客調査でも同じようなことが起こります。
たとえばパッケージデザイン<A> or <B>の需要度調査で、平均点が高かったA案は「広く好かれる」という納得感はあるものの、採用するには慎重になる必要があります。
<A>には平均点で負けていても、一部の人の購買意向が異様に高いのは<B>だった、ということがあります。
実はこの“外れ値”に、ブランドが勝つヒントが眠っています。「正解」を求めるのではなく「熱狂的なファン」を見つける視点で選ぶなら<B>です。
「調査では一番人気だったのに、蓋を開けたら売れなかった」——そんな現象が起きるのは、平均点だけに着目すると「浅く広く好かれていただけ」かもしれない事実を見逃してしまうからです。
AIは「過去のデータの平均」ですが、イノベーションは常に「平均の外側」から生まれます。
そこで、ここからは歴史を変えてきた“並外れた”偉人たちが「なぜ平均に迎合しなかったのか」を探ってみたいと思います。
◼️“論理”ではなく“情緒”:岡潔(数学者)
世界的な難問(多変数解析関数論)を解決し、学会に大きな業績を残した岡潔(1901年ー1978年)。
彼は大数学者でありながら「論理」よりも日本人の持つ「情緒」こそが、発見の源泉であると説き続けました。

私は数学に関しては門外漢なので、岡潔の偉業の中身を詳細には理解できません。しかし、「現在のAIなら彼が解いた問題を解けたのか?」というと、そうではないようです。
AIは与えられたルールの中で計算するのは得意ですが、新しい概念を発想して理論の前提そのものを組み上げていく、いわゆる「0→1」の部分はまだまだ人間の領分です。彼がやったことは「問い方」そのものの発明であり、これは、少なくとも現状のAIが最も苦手とする領域だと言えるでしょう。
AIがどれだけ進化しても、「人の中心は情緒である」という彼の言葉を心に刻んでおくことで、私たちも新しい発見を生み出せるのかもしれません。
◼️“技術”ではなく“歓喜”:岡本太郎(芸術家)
1970年(昭和45年)の大阪万国博覧会のシンボル『太陽の塔』を生み出した芸術家、岡本太郎(1911年ー1996年)。
「芸術は爆発だ」といったセリフや、ある種毒々しい作風など、奇を衒った印象が先行する芸術家ですが、実は若い頃から様々な文学書・哲学書を通読し、フランスでの活動期にはジョルジュ・バタイユ(フランスの思想家)との親交も深く、人文学的な横顔を持っています。

彼の文献を振り返ってみると、今まさに起こっているAIの進歩に警鐘を鳴らしているようにも思えます。
“僕はこの時点でこそ、逆の発想を発展すべきだと思う。人間は本来、非合理的存在である。ただの技術主義だけでは空しい。進歩、発展に役立つという、条件づけられた技術ではなく、まったく無償に夢を広げていくこと。ナマ身で運命と対決して歓喜するのが本当の生命感なのだ。”
AIに対する私たちの「物足りなさ」の正体が、ここに集約されているように思います。
◼️“データ”ではなく“ビジョン”:スティーブ・ジョブズ(経営者)
「ただ顧客に何が欲しいかを聞いて、それを与えようとするだけではいけない。それが完成する頃には、彼らは新しいものを欲しがっているだろう」
── Inc.誌(1989年)
「多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分たちが何が欲しいかわからないものだ」
── BusinessWeek誌(1998年)

スティーブ・ジョブズは、常に過去(データ)ではなく未来(ビジョン)を見る経営者でした。
ジョブズにまつわるエピソードは数多くありますが、その中でも私が好きなのは、iPhoneのホームボタンにまつわるものです。
当時の携帯電話の常識や、「使い勝手」という論理に従えば、ボタンは多いほうが便利です。実際に競合他社はキーボードや多くのボタンをつけていました。

しかし彼が最終的に選んだ答えは、「3つより1つの方がシンプルである」という、徹底した引き算でした。
AppleがAppleたり得るのは、データに頼らず、ただ自分たちの「美学」を信じ抜く姿勢に他なりません。
◼️おわりに:AIが「物足りない」のではない
AIは「平均点」を秒速で出してくれる優秀なアシスタントです。しかし、人の心を動かし、時代を作るのはいつでも“外れ値”に潜む情緒や情熱です。
AIからの提案が「なんだか物足りない」と感じたら、それは「平均値が物足りないんだ」と思い返してみてください。そして、積極的に「平均の外」に目を向けてみましょう。
そこにこそ、新しい価値が眠っているはずです。
参考)
春宵十話 岡 潔 (著)
[筆者プロフィール]
川内 祥克
株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター
企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。