2019.08.26

ブランディング・メソッド・コラム
ブランディングとUI/UXデザインの新しい関係(3)

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

ブランディング・メソッド・コラム

今回のブランド・メソッド・コラムでは、ブランディングにおけるUI/UXデザインについて、考えていきたいと思います。

前回は、アプリケーションなどのUI/UXデザインが持つルック・アンド・フィールを通して、どのように企業ブランドを表現していくか、その際の注意点や、マーケティング、デザイナー、プログラマー、様々な立場の人たちの共通言語となるデザイン・ランゲージについて見ていきました。


3連載最後となる今回は、これからのUI/UXを開発していく上で大切な観点や、今後の方向性を探ってみたいと思います。


■企業とユーザーとの最重要接点「UI」

強いブランドの例として常に引き合いに出されるAppleですが、AppleにとってUI(ユーザーインターフェイス)は、その原点でもありました。

企業ブランドにとって、PURPOSE(目的)やCAUSE(大義)はその活動の出発点になります。Appleはコンピュータをパーソナルな市場に持ち込み、誰もが簡単にそれを使えるようにすることで、あらゆる人の創造性、可能性を高めました。AppleはそうしてPC創成期から、ユーザーがコンピュータをより自由に使うために、グラフィック・ユーザー・インターフェイス(GUI)のデザインにこだわってきました。

それが、スマートフォンの時代になり、ユーザーとの距離がさらに縮まることとなり、またその接触時間も他メディアを優に超える存在になります。Appleの成功は、プロダクトデザインやスティーブ・ジョブズのカリスマ性だけでなく、UIへのあくなき探究心、UIに対する美意識がユーザーに直接的に満足を与え、現在のAppleの地位を強固にした重要なファクターだと思います。



Apple:美しくもシンプルなUI/UXを象徴した、たった一つのホームボタン


■企業ブランドに必要となる「美」の側面

Appleに限らず、特に欧米のブランドではその「表現(V.I.)」が徹底的にマネジメントされています。なぜブランド、企業、ビジネスにおいて、そうした表現、言い換えると「美」を管理することが必要なのでしょうか?

ミシガン大学がウェブサイトのデザインを対象にした実験で、人はデザインの魅力に対して0.5秒以下で最終的な判断を下してしまうことを明らかにしました(Reinecke 2013)。
その研究によると、第一印象はその後も薄れることはなく、ウェブサイトや製品の使いやすさや信頼性について時間が経ってから意見を求めても、第一印象の影響を受けるそうです。

プロダクトデザイン、広告、店頭、そこにいるスタッフ、またはパブリシティを通したCEOの言動にいたるまで、すべてのアウトプットの集積がブランドを形成していきます。その中でも人の判断に影響を与えやすい視覚情報で「良い/悪い」が瞬時に判断されているとすると、その精度に細心の注意を払う必要があることは、言うまでもありません。



The Toyota Visual Identity System:Typography Over View


■ユーザビリティを超えるUIの「品質」

さて、企業にとってUIは、これまでのように、単なる操作パネルや情報を伝達するためのディスプレイではなく、企業ブランドを体験する重要な接点(UX:ユーザーエクスペリエンス)の場であると申し上げてきました。

そうした観点で「使いやすさ」を超えて、今後どのように情緒的な体験を提供していけるでしょうか?参考となるポイントを3つ挙げたいと思います。


1.徹底してグラフィックデザインの完成度を高める


BMW:2019 BMW 3 Series Cockpit UI Design

上記リンク先のレビューを参照すると「完全にデジタル化されたBMWオペレーティングシステム7.0は、ドライバーにこれまで以上に焦点を当て、特に音声認識とジェスチャ制御による操作を改善。また、今回初めて、BMWインテリジェントパーソナルアシスタントが加わった。将来的には、追加機能、サービスをダウンロードすることも可能。新しいBMWコックピットにより、このブランドは顧客に対してよりパーソナルでインテリジェントで一貫した体験を与えている。」とあります。

まさに「ブランドの一貫性」を保つための書体選び、デザインフォルムの選定、色の選択からアイコンの造形、グラフィックデザインの細部に至るまで、高いクオリティでUIデザインが実現されています。



2.五感に訴える操作感

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Microsoft:<a href=Motion for UWP apps

UIは、視認性をつかさどるビジュアルだけでなく、操作性をつかさどるインタラクション(反応)、トランジション(軌跡)、またそれに付随する音や振動。視覚、触覚、聴覚、様々な要素を組み合わせて、いわば総合芸術ならぬ「総合デザイン」によって最終的には操作するユーザーに「心地よさ」を提供しなければなりません。



3.エモーショナルUI/UX


Mixed Reality Future:Ben Frankforter’s study


Panasonic:Kitchen & Bath China 2019 (Highlights)

今後、UI/UXはどのように進化していくのでしょう?先述のBMWにあるように、音声アシスト、声によるナビゲーションが次のUIの主流と目されています。その際は、レスポンスする声の質が大変重要になります。また、上記のようにARと組み合わせたUIジェスチャーUIも様々なフィールドで開発が進められています。
AIやBig Dateへの注目が大きくなるのと並行して、そこにアクセスするインターフェイスも形を変えていくことだろうと思います。近い将来、これまでのデスクトップやタッチパネルのGUIを一旦リセットして、よりヒューマンタッチな観点でUI/UXを捉え直す時期が来るかもしれません。


■美、エレガンス、洗練

最後に、今後より情緒的なUI/UXを構築していく上で、ビジネスにどのように美的感覚(アート)を取り入れていけばよいか?ジェイムズ・L・アダムズが提示する対策をご紹介したいと思います。


問題 対策
売上げや利益の最大化と両立しないというイメージ この問題について、もっと社内で、とくにトップと話し合う。美、エレガンス、洗練は売上げや利益向上に結びつくべき
美、エレガンス、洗練を理解できない/価値がわからない 訓練を通じて人が理解できるように手助けする。製品について議論する。製品によってもたらされる喜びに差がある理由を分析する
美、エレガンス、洗練に関連した問題を議論・表現する語彙が少ない エレガントで洗練された美しい製品にどっぷり浸かり、つくり手とたっぷり時間を過ごす。アートの授業を受ける。博物館へ行き。デザインに関する本を読む
フロンティア精神、男性的な文化的価値 限りある資源と人口増加によって過去のものとなったことを認識する。所詮、フロンティアの伝承はほとんど神話である

ブランディング・メソッド・コラム

[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

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