2024.12.24

2024年ブランディングトピックス:TCDスタッフが選ぶ注目事例

田中 恵子 株式会社TCD クリエイティブディレクター

今年もTCDスタッフが選んだ「2024年のブランディングトピックス」をお届けします。

今年は約40件のトピックスをもとに、特に注目度の高かった事例を取り上げました。リブランディングのトレンドを象徴する事例から、インナーブランディングの重要性、地域ブランドの再定義まで、多岐にわたる2024年のブランディングシーンを振り返ります。



1. リブランディングならミニマルか、ファッショナブルに

2024年も、ミニマルで洗練されたデザインリニューアルが続く一方で、大胆な刷新が新たな話題を呼びました。

ミニマルさを追求しシンプルに進化

PayPalのロゴリニューアルは、長く親しまれたシンボルがなくなり、ロゴタイプのみのブランドマークへ。カスタムフォントの導入によってシンプルさを際立たせました。デジタルネイティブ世代を意識したデザインは、ブランドの使いやすさと親しみやすさを強調しています。


カスタムフォントで世界へのアクセシビリティを

グッゲンハイム財団は従来のロゴをシンプルかつ力強くリファインし、「G」のモノグラムを導入。このモノグラムを活用したさまざまな視覚表現が行われていくようです。併せて開発されたカスタムフォントはオープンソースとして提供。この取り組みは「オープンさ」と「文化的交流」の価値を体現しているそうです。



Jaguar大胆さが際立つ刷新

Jaguarのリブランディングは、いわゆる自動車業界の枠を超えたファッション性を感じさせるデザインで、今回のアンケートで最も注目を集めました。新たなアイデンティティを築いたこの事例は、ブランドリニューアルの可能性を大きく広げています。



Iittala伝統と革新のリブランディング

フィンランドのデザインブランドIittalaも大胆にリブランディングを実施しました。19世紀末のロゴからインスパイアされたロゴデザインで伝統を尊重しつつ、新たに採用されたブランドカラー「光る黄色」は、ガラスの溶解時の色を表現。プロダクトデザインやビジュアルでもより芸術性にフォーカスし、若年層かつ富裕層へとアプローチを試みています。




2.拡張されるアイデンティティ

アイデンティティデザインの枠組みは、従来のブランドの一貫性を保つことから、柔軟性と共創を重視する方向へと広がりを見せています。ブランドがその価値を再定義し、多様な表現や文化的な結びつきを取り入れる取り組みが目立ちました。

ブランドと地域カルチャーの共創

コカ・コーラが取り組んだ「Thanks For Coke-Creating」プロジェクトは、従来であれば規制の対象となり得た、世界中の雑貨店や個人商店が独自に描いた「非公式のコカ・コーラロゴ」を、あえて称賛し、共有するというアプローチを採用しました。現在、動画は削除されていますが、下記のリンクからはまだ見ることができるようです。

参考サイト)カンヌライオンズ2024、ユーモア、ヒューマニティ、そして地域文化の理解と尊重へ(後編)

コラボレーションを可視化するデザイン

Figmaの新たなビジュアル言語は、多様な形状や動きを取り入れ、共創の場を表現。カスタムフォントや抽象的な形状を用い、コラボレーションの多様性を視覚的に伝えています。

参考サイト)Figma on Figma: Evolving our visual language




3. 活発化するインナーブランディング

外側へは拡張していき、内部では一つの指針をめざす。インナーブランディングの役割は、組織全体のパフォーマンスや成長に直結するものとして、ますます重要になってきました。インナーブランディングの取り組みは、その性質から表に出ることが少ないのですが、そんな中で気になった取り組みをピックアップしました。

カシオ計算機のパーパス策定

創業理念「創造 貢献」を次世代に引き継ぐため、社員2,000名以上の声を集約して「パーパス」を策定。「驚きを身近にする力で、ひとりひとりに今日を超える歓びを」というメッセージを通じ、全社的な意識統一を図っています。



サンリオエンターテイメントの従業員向けブランドムービー

サンリオエンターテイメントでは、「誰も、一人にしない。」をテーマに従業員向けブランドムービーを制作。従業員が自分ごと化できるメッセージとストーリーにこだわり、提供価値への意識を高めています。

<参考サイト)サンリオエンターテイメントがパーパス「誰も、一人にしない。」をテーマに、従業員に向けたブランドムービーを制作



4.AIが形作るブランドの未来

この2年ほどは生成AIで作った!ということそのものが話題になりましたが、それだけではトピックにならなくなりました。それだけ生成AIは急速に広がっていて、私たちクリエイティブの現場や生活の中にも溶け込みつつあります。今年は主要ITベンダーの取り組みが活発でした。それをブランディング視点で見てみます。


AI技術の最先端Google Gemini

Googleの生成AI『Gemini』は、最新情報へのアクセスと高度な推論を可能にし、ブランドとしての革新性をさらに際立たせました。双子座を意味する名前は、複数プロジェクトの統合から生まれ、宇宙的な広がりを象徴しています。




パーソナルなAIを実現するApple Intelligence

Appleは、独自の『Apple Intelligence』を発表。プライバシーを重視したデバイス内生成の仕組みで、シンプルなネーミングとユーザー体験の向上がAppleらしさを感じさせます。日本では2025年に登場予定ですが、どんな体験が待っているのか、楽しみですね。




5.地域アイデンティティの再定義

地域アイデンティティは、単なるロゴやスローガンの開発だけでなく、地域の独自性やサステナビリティ、テクノロジーを融合させた包括的なブランドコミュニケーションとして発展しています。今年はヨーロッパとアジアから新たなアイデンティティが発表されました。

新しい観光ブランドロゴ

台湾の新観光ブランドロゴは、波状デザインで多様な魅力を象徴。鮮やかな色彩と動きのあるデザインが、訪れる人々に台湾の文化を強く印象づけます。


デザインと伝統の融合

スイス観光ブランドは、新たなアイデンティティで自然と文化を融合。伝統的な要素を取り入れつつ、デジタル時代に即した現代的なデザインで観光客を魅了しました。



2024年は、ミニマルな進化と大胆な刷新が共存する1年でした。また、AIの進化やインナーブランディングの活用が、企業の成長を支える重要な要素として注目される年でもありました。TCDでも、新しいブランドの方向性を模索するブランディングプロジェクトや、ブランド価値を社員と共有し浸透させるインナーブランディングのご相談が増えたと実感しています。

これまで長年ブランディングに携わる中で、ブランドの価値を我々から提案する時代から、共に考え、共に作り上げるかたちへと変化してきたと感じます。そして現在、多くの企業が10年先、20年先を見据え、今の価値を再定義し、それを社内でしっかりと共有・浸透させることに注力している印象があります。こうした取り組みを通じて、表層だけではない実態のあるブランディングになっていくのだと思います。


2025年にはどのようなトピックスが注目を集めるのか、来年も楽しみです。これからも新しい時代に向けたブランドの形を一緒に考えていけることを願っています。それでは、良いお年をお迎えください。

[筆者プロフィール]

田中 恵子

株式会社TCD クリエイティブディレクター

コンセプトからそのデザイン、コミュニケーションまでさまざまなブランド開発プロジェクトに携わる。デザイン領域にこだわらず暮らしをよりよくできるモノゴトをめざす。

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