2025.12.22

2025年ブランディングトピックス:TCDスタッフが選ぶ注目事例

田中 恵子 株式会社TCD クリエイティブディレクター

今年もTCDスタッフが選んだ「2025年のブランディングトピックス」をお届けします。
昨年は生成AIによるクリエイティブの可能性や、極限まで要素を削ぎ落とすミニマリズムが話題の中心でした。しかし2025年は、その揺り戻しかのように「人間味(Human Touch)」や「リアルな体験」への回帰が見えてきた1年だったと感じます。
AIが当たり前のインフラになったからこそ、人は「体温」を感じるブランドや、画面の外にある確かな体験を求めていると言えるかもしれません。
今年はそんな時代の空気を反映した事例を中心に、TCDスタッフが注目したトピックスを4つの視点で振り返ります。


1. デジタルから「リアルな体験」への回帰

画面の中(UI/UX)の最適化が進んだ反動か、2025年は「身体的な体験」や「居心地」そのものをリブランディングする動きが広がりを見せました。TCDスタッフのアンケートでも、デジタルサービスが手がける「リアル施設」や、都市開発を挙げる声が多く聞かれました。

Netflix House:画面から飛び出した没入体験

世界最大の動画配信サービス「Netflix」が、米国で没入型体験施設「Netflix House」をオープン。「画面の向こう側」だったコンテンツの世界を、食事や買い物ができる「現実の場所」として提供し始めました。ブランドはもはや視聴するだけでなく、“住む”場所へと拡張しています。デジタル完結だったサービスが、あえてリアルなタッチポイントを持つことの意味を考えさせられた事例でした。
参考サイト)Netflix House Coming 2025

Starbucks:再び「居場所」を取り戻す

Starbucksは新CEOのもと「Back to Starbucks」を掲げました。モバイルオーダーによる効率化を行き過ぎたと認め、バリスタとの会話や店内の香りといったエクスペリエンスの価値を再構築する宣言は、話題を呼びました。効率だけではない、ブランド本来の価値を見直す動きと言えます。
参考サイト)Back to Starbucks

グラングリーン大阪:「みどり」が主役の都市づくり

TCDスタッフの注目を集めたのが、うめきた2期地区「グラングリーン大阪」のまちびらきです。商業施設の床面積を競うのではなく、「みどり(公園)」をブランドの核に据えた都市づくり。建物(ハード)よりも、そこでどう過ごすか(ソフト)を優先した、日本の都市ブランディングの最新形と言えるのではないでしょうか。私も何度か足を運びましたが、大阪駅、梅田駅からすぐのこの場所で、ゆったりと広がるみどりを感じながら過ごせる空間は、「便利な都市」とは異なる価値を体感させてくれました。




2. 「機能美」よりも「感情(エモさ)」

AIを使えば誰でも整ったデザインが作れる時代。だからこそ、ブランドには論理的な「機能」よりも、心に触れる「情緒(エモさ)」や、どこか人間らしい「動き」が求められています。

マロッシュ:「食感」から生まれる感情をデザイン

成熟するグミ市場において、機能性ではなく「没入食感」という感情を軸にリブランディングしたカンロの「マロッシュ」。
マロッシュが選んだのは、機能を積み上げることよりも、食べる時間そのものの感情を丁寧に扱うという姿勢でした。機能だけでは差別化が難しく、それだけでは生活者に届きにくい。そんな時代において、ターゲットとの共感をつくるコンセプトが、ブランドを支える力になります。



Eventbrite:生き物のようなモーションロゴ

今年は大きなブランドロゴのリニューアルがとても少なかったのですが、その中で面白かった取り組みを。
イベントプラットフォームのEventbriteは、ロゴを静止画としてではなく、ユーザーの行動に合わせて有機的に変化する「モーション・アイデンティティ」として刷新。デジタルネイティブなブランドがいかにして「生き物のような温かみ」を持つか、そのアイデアを示しました。
参考サイト)Eventbrite Refreshes Its Brand to Make Every Step

Oasis:世代を超えたカルチャーアイコンへ

Oasisの15年ぶりの再結成は単なる懐メロではなく、Z世代にとって「レトロで新鮮なカルチャー」として受け止められました。過去の資産を現代の文脈で「エモさ」として再定義する力は、世代を超えたムーブメントへつながっていくのだと思います。
参考サイト)オアシス再結成はなぜ社会現象に? 若い世代も巻き込んだ一大熱狂の背景を探る


3. 日本企業の「覚悟」と「刷新」

今回のアンケートで最も票を集めたのは、このカテゴリでした。周年などの節目を機に、表層的なデザイン変更にとどまらない、企業の「あり方」そのものを問い直す本質的なリブランディングが目立ちました。

大阪・関西万博:運用フェーズで見えたデザインシステムの強度

TCDスタッフが選ぶNo.1トピックスとなった「大阪・関西万博」。
「いのちの輝き」を表すロゴは、開催年に向けて会場サインやアプリ、グッズへと展開され、「機能するデザインシステム」として実装されました。奇抜さが話題となった導入期を経て、注目されたのは運用フェーズにおける幅広いデザインの使われ方でした。
実際に会場に足を運んでみると、このモチーフやデザインをファッションに取り入れた来場者の姿が多く見られました。ロゴを「象徴として掲げるもの」ではなく、親しまれ、身につけられる存在として受け止めている。その光景からは、これまでの万博とは異なる距離感でブランドが人々に溶け込んでいる様子が感じられたように思います。
参考サイト)EXPO 2025 Design System

コクヨ:120年目の「集合体」への進化

創業120周年で20年ぶりにロゴを刷新したコクヨ。「文具の会社」から「ワークとライフの集合体」へ。歴史ある企業が、「好奇心」を核に自らのアイデンティティを言語化・視覚化しました。
参考サイト)コクヨ、120周年を機にリブランディング

中川政七商店:工芸を「世界語」にするための微調整

中川政七商店は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンに向け、海外展開を見据えてロゴを調整しました。伝統やのれんを守りながら、世界で戦うための「機能」を持たせる。繊細かつ戦略的なデザイン調整です。
参考サイト)中川政七商店が17年ぶりロゴ刷新、2030年までに海外旗艦店オープン目指す


4. 社会課題への「解」としてのブランディング

きれいなロゴを作るだけでなく、組織の課題(採用、多様性、BtoBのプレゼンス)を解決するためのツールとして、ブランディングを活用する事例が増えています。

イオン:「ダイ満足」で組織を変える

イオンはグループ共通のDE&Iビジョン「ダイ満足」を掲げたインナーブランディングを実施。巨大流通グループが「多様性」を経営戦略の中核に据え、働く人の意識変革に挑む姿勢は、組織ブランディングの重要性を再認識させました。
参考サイト)イオンの“ダイ満足”

Canva:ビジネスの「OS」をクリエイティブに

デザインプラットフォームのCanvaは、新たに「Creative OS」という概念を掲げ、企業向けサービスを強化しました。これは単なるツールの導入ではなく、組織の働き方(OS)そのものを、誰もが表現できるクリエイティブな状態へ書き換えるという宣言です。Adobe一強だった世界に対して、機能ではなく「カルチャー」から切り込もうとする姿勢が、印象に残る取り組みです。



トヨタ自動車:「あなた」に向き合う巨大企業

トヨタ自動車は「TO YOU. TOYOTA」キャンペーンを開始し、巨大企業が「マス」ではなく「あなた(個)」に向き合う姿勢を明確にしました。5ブランド体制への移行に伴う語り口の転換は、大企業がいかにして顧客との距離を縮めるかという課題への一つの回答です。




2025年は、テクノロジーがさらに進化する一方で、その反動として「人間らしさ」や「体温のある体験」が求められた一年だったように思います。
目新しさや一過性のバズよりも、時間をかけて機能し続ける仕組みや、企業としての意志そのものを示す、そんな視点が、今年の事例には共通していました。

私たちTCDにも、「まったく新しくしたい」というご相談より、
「これまでの価値をどう引き継げるか」
「どうすれば社員に浸透するのか」
「この事業を、10年後も誇れる形にするにはどうあるべきか」
といった、よりこれまでのあり方や関係性を大切にしたご相談が持ち込まれることが増えています。

それは、ブランディングが外に向けた表現づくりだけではなく、組織や事業の意思決定と不可分な営みであるという意識が、共有されてきていることの表れだと感じています。
変わらない軸を持ちながら、表現や手法は柔軟に更新し続ける。
そんな難しくもやりがいのある時代に、2026年はどんなブランドの姿が見えてくるでしょうか。
また来年、この問いを皆さんと一緒に考えられることを楽しみにしています。

[筆者プロフィール]

田中 恵子

株式会社TCD クリエイティブディレクター

コンセプトからそのデザイン、コミュニケーションまでさまざまなブランド開発プロジェクトに携わる。デザイン領域にこだわらず暮らしをよりよくできるモノゴトをめざす。

こちらの記事もよく読まれています

資料請求

弊社の実績資料をダウンロードいただけます

お問い合わせ

まずは、お気軽にご相談・お問い合わせください