2025.02.26

なぜインナーブランディングは“効かない”のか?

田中 恵子 株式会社TCD クリエイティブディレクター

なぜインナーブランディングは“効かない”のか?

「ビジョン、ミッションを社員が知らない」
「バリューが形骸化している」
こうした課題に直面している企業は少なくありません。

近年、多くの企業が ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)パーパス(Purpose:存在意義) を策定するようになりました。
MVVは単なるスローガンではなく、経営の指針として欠かせないものと言えるでしょう。
しかし、多くの企業で時間をかけ労力をかけ策定されたであろうこの指針が、実際に現場で機能しているかというと、そうではないケースも少なくないようです。

  • □ 社内に掲示しているけど、浸透している実感がない
  • □ 新入社員研修などで説明するが、それ以降は特に触れられない
  • □ 社員が“会社のビジョンは何?”と聞かれても答えられない

もし、こうした課題を感じられているなら、企業の“インナーブランディング”の見直しを考えてみてもいいかもしれません。
企業において“ブランディング”といえば、生活者や社会に向けた外向きのブランディング(アウターブランディング)を思い浮かべる方が多いかと思います。
アウターブランディングも大切ですが、その企業ブランドを体現するのは、その組織に所属する一人ひとりの社員やスタッフです。そうしたインナーに向けてブランディングを行うことを“インナーブランディング”と呼びます。インナーブランディングが企業文化を育み、そのブランドの基礎となります。

インナーブランディングがうまく作用すると、社員やスタッフが「自分たちの会社の提供価値」を実感できるようになります。それが社員やスタッフの日々の業務に反映され、組織が向かう方向が揃うことで、企業の競争力強化につながります。

では、なぜインナーブランディングは機能しなくなるのでしょうか? 企業ごとに事情は異なりますが、ありがちな理由を3つ挙げてみたいと思います。


インナーブランディングが失敗する3つの理由

1.「作ること」がゴールになっている

MVVを策定することは重要ですが、それはスタート地点にようやく立ったところです。
策定しただけでは組織の行動は変わりません。

  • □ 立派なビジョンを掲げたけれど、社員説明会を1回やって終わり
  • □ 社内ポスターやWebサイトに掲載しただけで、具体的な施策がない
  • □ マネージャークラスでもパーパスを認識していない

こうした状況に陥ってはいないでしょうか。MVVを作っただけ、発表しただけ、では記憶に残ることすら難しい。MVVは「作って終わり」ではなく、組織の中で活かしていかなくてはいけません。この仕組みをつくることがインナーブランディングへと繋がります。


2. 経営層と社員の認識がズレている

インナーブランディングが機能しない原因のふたつめは、経営層と現場の温度差です。よくお聞きするのは、「経営層または経営企画部だけがパーパスやMVVの重要だと思い、推進している」というケースです。

  • 役員は「このパーパスやMVVは大事だ」と考えている
  • 社員にとっては「自分には関係ない話」

経営陣と現場では、見えている世界が違うのは当然です。だからこそ、現場の視点を取り入れ、社員が自分ごととして考えられる言葉で伝える工夫が求められます。
特に、ミドルマネジメント層の関与が欠かせません。リーダー層を中心に、現場でMVVを体現する仕組みを作ることで、社員が実感を持って取り組めるようになります。


3. MVVが業務と結びついていない

「パーパスやMVVは知っているけれど、どう業務に関係するの?」

こうした疑問が現場から上がるのは、珍しくありません。せっかく認知はされているのに、活かせてないのは勿体無いですよね。
MVVを組織に定着させるためには、日々の業務とどう結びつけるかを考えていく必要があります。

  • □ 評価制度にMVVを反映(バリューに沿った行動が評価される仕組み)
  • □ 意思決定の基準としてMVVを活用(顧客対応や商品開発の指針に組み込む)
  • □ 部門ごとにMVVを具体化(営業・開発・バックオフィスなど、それぞれにどう活かせるかを明確にする)

社員が自分の仕事とMVVの関係を理解し、行動につなげられる設計をすることで、インナーブランディングを機能させていくことができます。


まず何から手をつけるべきか?インナーブランディング診断チェックリスト

あなたの会社では、インナーブランディングが機能していると言えそうでしょうか?
以下のチェックリストで簡単に診断してみてください。

  • □ 社員の70%以上が、自社のMVVを説明できる
  • □ MVVが日常業務の意思決定や評価指標に組み込まれている
  • □ 経営層と現場の認識にズレがない
  • □ ミドルマネジメント層がMVVを理解し、推進している
  • □ 社員がMVVを“自分ごと”として実践できる機会がある

いくつ当てはまりましたか?
ひとつでも「NO」がある場合、インナーブランディングがまだ十分に機能していない可能性がありそうです。


パーパスやMVVは、地図

パーパスやMVVの策定は、組織が進むべき方向性を示す地図です。
けれど、地図だけを与えられても、なかなか歩き出すのは難しい。
だからこそ、インナーブランディングでは、この地図の読み方をしっかり伝え、時には一緒に歩き、やがては自分で進んでいけるようにサポートすることが大切です。
社員一人ひとりが、同じ方向を向いて歩いていけるようになれば、ブランディングの成功に大きく近づいたと言えるでしょう。

インナーブランディングは、すぐに効果が出るものではありません。“効く”インナーブランディングを目指して、まずは一歩、踏み出してみていただければと思います。

[筆者プロフィール]

田中 恵子

株式会社TCD クリエイティブディレクター

コンセプトからそのデザイン、コミュニケーションまでさまざまなブランド開発プロジェクトに携わる。デザイン領域にこだわらず暮らしをよりよくできるモノゴトをめざす。

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