2025.05.23
ブランディングは、“まず見た目から”?
山崎 晴司 株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター
ブランドに対する“共感”は、どこから始まるのか
ブランディングにおけるゴールは、顧客との共感を生み、やがてファンとして長く関係を築いていくことです。この考え方に、私たちは何の疑いも持たないでしょう。では、その「共感」は、どこから始まるのでしょうか?
顧客が共感するには、まずそのブランドがどんな活動をしているのかを「理解」することが必要です。そして、理解するためには、興味を持ち、「理解したい」と思う動機が必要です。その動機とは、ブランドの中身を知る前に感じる、「漠然とした信頼感」ではないかと思います。つまり、ファンになってもらうには、まず信頼されることから始まる、ということになります。
第一印象は、信頼のフィルター
人との出会いを思い浮かべてみてください。初めて会う相手の話を聞こうと思うのは、その人が「信頼できそうだ」と感じたときではないでしょうか。服装、姿勢、声のトーン……そういった「非言語的な印象」によって、私たちは瞬時に「この人の話に耳を傾けるべきか」を判断しています。
心理学者アルバート・メラビアンの研究によれば、人の第一印象のうち、55%が視覚情報、38%が聴覚情報、言語情報はわずか7%に過ぎないとされています。つまり、「何を言うか」よりも、「どう見えるか」「どう聞こえるか」が信頼に強く影響するということです。これは企業ブランドにも、そのまま当てはまります。
デザインは、信頼を築く“第一印象の装置”
ブランドとの最初の接点は、Webサイトかもしれませんし、パッケージやチラシ、SNSの投稿かもしれません。その接点で「信頼できるかどうか」が、ほんの数秒で判断されるとすれば…。その第一印象を設計する「デザイン」は、ブランドの成否を左右する、極めて重要な要素だと言えます。
ただし、ここで言う「デザイン」とは、ロゴや色彩、ビジュアルだけを指すものではありません。TCDでは、デザインを「ブランドのアウトプットすべて」と広く定義しています。たとえば以下のような項目、内容に整理できます。
これらが一貫して、「このブランドは信頼に足る存在だ」と感じさせられるかどうか。その積み重ねが、やがて共感という感情へと昇華していくのです。
信頼感から“共感”へと昇華させるには
信頼は、デザインによってつくられます。しかし、共感はそれだけでは育ちません。表層的な「見た目」を超えて、「なぜそのブランドが存在しているのか」「何を大切にしているのか」といった、ブランドの思想や文化に触れたとき、私たちは深く心を動かされます。これはまさに、信頼から共感への質的ジャンプです。
以前のコラムでも書いたとおり、ブランディングとは単なる差別化やデザイン手法ではなく、「文化をつくる営み」だと私たちは考えています。共感とは、自分もそうありたい、そうあり続けたいと願う「未来像」に触れること。だからこそ、パーパス、MVV、行動指針、言葉選び、空気感……それらすべてが「そのブランドらしい」と感じられたとき、はじめて共感は「自分ごとになる」のです。
なんとなく良さそう、とか、なぜか惹かれる、など、その「なんとなく」の裏には、精緻に設計されたアウトプットの積み重ねがあります。ブランディングとは、「ブランドのあるべき姿」を定義し、それを表現と言語で構造化し、統一して発信していくプロセスです。
信頼されるブランドになるためのチェックリスト
ブランドの信頼は、理念や戦略だけでなく、日々のアウトプットの積み重ねによってかたちづくられます。それは、デザインであれば、ちょっとした余白の扱いや言葉の語尾など、行動面であれば対応のスピードなど、目には見えにくいけれど、確かに「感じられる」ものです。
そこで、「信頼される第一印象」を設計できているかどうか、アウトプット全体を点検するための視点を、項目別にリストでまとめてみました。
ぜひ、自社ブランドを俯瞰してふり返ってみてください。
A)視覚のチェック(見るだけで「らしさ」は伝わっているか?)
⬜︎ ロゴ、カラー、写真、余白などに一貫性がある
⬜︎ Web、パンフレット、名刺など異なる媒体で、世界観に統一感がある
⬜︎ トレンドではなく、ブランドの「らしさ」からデザインを選んでいる
B)言語のチェック(言葉から「信頼」や「誠実さ」が滲み出ているか?)
⬜︎ キャッチコピーや説明文に、ブランドの思想やパーパスが表現できている
⬜︎ メール、SNS、採用ページなどの文体は、丁寧で一貫している
⬜︎ 表現に不要な煽りや不自然な専門用語を使用していない
C) 行動のチェック(ふるまいは「誠実さ」を感じさせるか?)
⬜︎ SNSの投稿頻度、問い合わせ対応スピードなどが適切である
⬜︎ 対応文面やカスタマーサービスに、ブランドらしい姿勢がある
⬜︎ イレギュラー時の対応も、ブランドの信頼を損なわない配慮を心がけている
D) 全体のトーン&マナー(「中身」と「見た目」が響き合っているか?)
⬜︎ 理念やビジョンと、日々のアウトプットのトーンが一致している
⬜︎ クリエイティブだけでなく、言葉・ふるまい・運用まで含めて「ブランドらしさ」がある
⬜︎ 「共感できる人に、ちゃんと届いているか?」を日々確認している
チェックの「気づき」から、一つずつ整える
いかがでしたか?このチェックリストは、単に「できているか、できていないか」を確認するだけのものではありません。あくまで、「ブランドらしさ」を伝える第一印象が設計できているかを見つめ直すための視点だと捉えてください。
◾️YES が 8 項目以上
ブランドの基盤は整っており、「信頼のデザイン」が定着している状態です。
◾️YES が 5〜7 項目
一部にブレや未整備が見られます。気になる項目から一つずつ整えることが、全体最適への近道です。
◾️YES が 4 項目以下
ブランドとしての第一印象が、受け手や顧客にうまく届いていない可能性があります。まずは最も接点の多いチャネル(Web、採用、営業資料など)から見直してみましょう。
小さな整備でも、アウトプットが揃いはじめると、「らしさ」と「信頼」は必ず伝わるようになります。チェックリストは定期的にふり返る「ブランドの鏡」として、繰り返し活用してみてください。
そしてもし、「どこから整えればいいかわからない」「社内にブランディングの視点が浸透していない」「見た目と中身のギャップを埋めたい」そんなお悩みが少しでもあれば、ぜひ一度、TCDにご相談ください。第一印象の設計から、ブランドの本質を伝える構造化まで、貴社らしい「信頼のデザイン」を共に構築していきます。
[筆者プロフィール]
山崎 晴司
株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター
企業や商品に関するブランドの立ち上げやリニューアルに長年従事。 ブランドに自信と力を与え、ステークホルダーの深い共感を生み出すことを目標に、新商品開発、コンセプトや戦略策定、トータルクリエイティブをサポート。