2019.11.21
ロングライフデザインのススメ
日比 秀一 株式会社TCD デザインディレクター
東京オリンピックまであと8ヶ月ほどとなりました。
世界中の人たちが東京、日本に集まり盛り上がるであろう17日間が今から待ち遠しいです。
思い出すこと3年前、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が打ち出した<世界一コンパクトな大会>という理念の中に、「競技会場の約4割は既存施設を使い、施設の整備にかかる費用と環境への負荷を極力抑える。新設する競技場は大会後も継続して使用することでスポーツや文化の拠点とする。」という計画が含まれていました。これはロンドンオリンピック時にも実施されたエコプランに近く、IOCにとっては非常に安心感のあるプランだったのではないでしょうか。
世界的に環境への関心が高まっているまさにそこへフィットしたプレゼンテーションであり、このプランは招致成功の一因となったと思います。環境に関する様々な課題を抱えている現代において、世界中で次世代燃料やバイオプラスチックなど、あらゆる技術を進化させて、これからの我々の住処をより永く維持していく取り組みがなされています。
生産者や消費者の意識も変わりつつあります。企業の「ESG ※1」の観点は必須になり、昨今話題に上がることも多い「SDGs ※2」にも「つくる責任 つかう責任」という項目があるように、どのようなものづくりをしてどのように使うのかをしっかり考え、より持続可能な生活にしていくことを誰もが課題と認識しているように思います。エシカル消費が今後の社会を作っていくと感じてやみません。
※1 環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字、財務指標以外に持続可能性を測る企業経営の指標
※2 2015年9月の国連サミットで採択された、持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のための17の国際目標
ロングライフデザイン
さて、前回の記事で「ブランディングに寄与するプロダクトデザインをご紹介する」と告知しました。ここからはその話と絡めて「ロングライフデザイン」についてご紹介いたします。
「ロングライフデザイン」とは、流行に左右されない普遍性を持ち、長く使い続けられ長く愛されているデザインのこと。まさにこれは先に申し上げたエシカル消費にフィットするデザインのあり方ではないかと考えます。一つのカタチが変わらず長く使われることには、ユーザー、メーカーともにメリットがあります。ユーザーにとっては買い換える手間や余分な出費を抑えられること、ゴミを削減できることなどがあります。メーカーは長い期間リニューアルの必要がないことで開発にかかる資材や人材、コストを削減できます。当然環境負荷も軽減されるでしょう。
ユーザーが使用し続けるということは、商品のパフォーマンスやデザインへの満足度ブランドに対する信頼性の高さを表しています。ロングライフであることがブランド育成に重要な役割を為すことは容易に想像ができます。
そこで、TCDが携わったプロダクトデザインの中でロングライフの一例をご紹介したいと思います。
頻繁なリニューアルや新商品リリースが絶えず行われる日用品ジャンルの中で、10年以上もカタチをキープし、消臭剤の代名詞と言っても過言ではないブランドとなった小林製薬株式会社の「無香空間」です。
20年以上続くブランドである「無香空間」、そのリニューアルを依頼された我々が取り組んだのは徹底したユーザー目線でした。商品の存在意義(どう機能してほしい?)と使い方(どう使いたい?)を自ら体験し観察、「無香空間」に最適なカタチのヒントを抽出していきました。この抽出作業こそが前回述べた「本質をカタチ化すること」です。
香りを一切使用しないニオイ消しに特化したこの商品を使う人にとって、消臭剤は部屋や玄関の棚の上に載せるのでなく、縁の下の力持ち的な感覚で床と壁の隅、部屋の隅(角)に置くことが多いとわかりました。
低いところで安定性を保ち倒れずに置くことができる縦横の比率。
物理的にも情緒的にも空間を“邪魔しない”シンプルなフォルムと色。
空気の流れを感じる機能的な印象をしたルーバー形状の開口デザイン。
これらを持って消臭剤のスタンダードデザインが紡ぎ出されていきました。
また、この製品は中身の消臭剤を詰め替えて使用できるようになっています。つまり本体容器を続けて使用できるということ。
一方で、SNS時代となった現在、無香空間をユーザー個人がアレンジして、使い方をシェアするということも見受けられます。
https://www.mylohas.net/2016/08/056300mukoukukan.html
こういった「余地」を持つことも、どの時代性にもフィットできる柔軟性に繋がる要素であると最近は強く感じます。
この先の時代、よりサスティナブルな商品づくりが求められていくと思います。普遍的でスタンダードなデザインを作り出すためにも「ロングライフデザイン」という考えを大事にしながら、さらに視点や観点を広げていきたいと考えています。
プロダクトデザインコラム バックナンバー
[筆者プロフィール]
日比 秀一
株式会社TCD デザインディレクター
ユーザーインサイト調査からコンセプト作り、プロダクト&パッケージデザインまでモノづくりをトータルでサポート。製品に関わる人が「心地よい満足」を得られる様に常に心掛けている。